82話 爆破事件...
門からだいぶ離れた場所で、馬車がゆっくりと停止した。
コンコン、と御者が扉をノックする。
「これより先は貴族馬車専用の道へ振り分けられます」
その言葉を聞き、俺達は馬車を降りた。
「ここまでありがとうな」
俺が言うと、カイルも続いて礼をする。
シルは御者へ近づき、
「ギルドを通して連絡するってラドに伝えといてくれ」
と、言付けを残した。
御者は頷くと手綱を引く。
馬車は人混みをかき分けるように来た道を戻っていった。
そして改めて門へ目を向ける。
「うわ……」
思わず声が漏れた。
とにかく人が多い。
門の前には長蛇の列ができており、人々がひしめき合っている。
まるで某テーマパークの開園前だ。
「マジかよ……」
うんざりした声が自然と漏れる。
そんな中、違和感を覚えたのはカイルだった。
「おかしいですね」
列の先を見つめながら呟く。
「こんなに混雑しているなんて……」
確かに人は多い。
だが、それ以上に妙だった。
列がまったく動いていない。
「おい! どうなってんだ!」
「早く入れろよ!」
苛立った声があちこちから飛ぶ。
門の周囲には兵士や騎士の姿も多い。
しかも皆慌ただしく動いている。
「中で何かあったのかもな」
シルが腕を組みながら言った。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
嫌な予感しかしない。
「何があったんでしょうか……」
カイルも不安そうに眉をひそめる。
すると、
「知らないのかい?」
突然後ろから声を掛けられた。
振り返ると、門とは反対方向へ歩いていた男が足を止めこちらを見ていた。
「俺は今さっき、やっとこさ街から出て来れたんだがな」
「何日か前に、この街で爆破事件が起きたのさ」
「爆破?」
思わず聞き返した。
「ああ」
男は頷く。
「聖堂が狙われてね。幸い死者は出なかったが……怪我人は大勢だ」
そして鼻で笑う。
「聖堂もボロボロよ」
罰当たりな奴もいたもんだ、と吐き捨てるように言った。
「四日後に聖堂で式典が開かれる予定だったんだがな」
男は門の列を指差す。
「お陰様で、この街に入るのも出るのもこのザマだ」
(この混雑の原因はそれか……)
「まぁ、焼印さえなきゃ、半日もすりゃ入れるだろうよ」
そう言い残すと、解放されたことが嬉しいのか、軽い足取りで去っていった。
その背中を見送りながら、シルが大きなため息を吐く。
「爆破事件とかどういうタイミングだよ……」
するとカイルが何か思い出したように口を開く。
「そうか……式典があるんですね」
「式典って何の式典なんだ?」
「クレジオルムで五年に一度開かれる発明家の式典です」
その声には少し熱がこもっている。
「この日を目指して、クレジオルムの発明家だけでなく、各地の発明家達も人生を懸けて新商品を作り出します」
「選考を通った発明品の中から最優秀賞が選ばれるんです」
カイルは門の向こうを見つめた。
「式典に招待される貴族も多いですし、賞を取れなくても、選考を通った段階で十分な宣伝になります」
そして納得したように頷く。
「貴族の馬車が多かったのもそのせいですね」
俺は長蛇の列を見ながら頭を掻いた。
「通常より混んでるってことだろ?」
「そんなの、アインを見つける希望がますます薄れるじゃないか」
広い街。
大量の人間。
その上、祭でさらに人口増加。
絶望的だ。
「いっそ式典が終わって街が落ち着いてから探し始めるか?」
シルが提案する。
だが、俺は首を横に振った。
「それだと、ベルクハイムを出る時に、クレジオルム直通の馬車を待たなかった意味がなくなるだろ」
「あー、まぁな」
シルは苦笑する。
そしてすぐにニヤリと笑った。
「ま、アイアンバレーで儲けたからアタシには意味あったけど!」
本当にブレないなコイツ。
するとカイルまで嬉しそうに頷いた。
「その判断のおかげで僕はお二人に会えたんですね!」
満面の笑みだった。
俺はそんな二人を見て、小さく息を吐く。
爆破事件に五年に一度の式典……ついてない。
だが――
少なくとも、こいつらは楽しそうだった。
「発明家の式典ねぇ……」
シルがニヤリと笑う。
「そう考えると、カイルの魔法陣も成功さえすりゃ世紀の大発明なんだがな?」
その言い方には少しだけ皮肉が混じっていた。
カイルは苦笑いを浮かべる。
するとシルは大げさに胸を張った。
「魔法陣が成功した暁には、ぜひベリントン商会と契約したまえ、カイル博士!」
茶化すような口調だ。
だが――
「勿論です!!」
カイルは勢いよく頷いた。
「そうなれるよう頑張ります!」
真っ直ぐな目だった。
あまりにも真面目に受け取っている。
シルの茶化しがまるで通用していない。
俺は思わず吹き出した。
「シルの性格の悪さも、カイルの前じゃ形無しだな」
俺の言葉にカイルは本気で困惑していた。
「え?」
首を傾げる。
「今のって悪い意味だったんですか?」
その言葉に俺は笑ってしまう。
シルは額を押さえた。
「言葉をそのまま受け取っちまうのは、育ちが良いせいなのか? 性格なのか?」
そして呟く。
「強敵だわ……」
「も、もしかして……」
「嫌味だったんですか!?」
今さらそこに辿り着いたらしい。
シルは呆れたように両手を上げた。
「違うっての」
そして大きくため息を吐く。
「アタシは期待を込めて褒めたんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
カイルは首を傾げた後、なぜか胸を撫で下ろす。
その様子を見て、俺はまた笑いそうになった。
「その世紀の大発明なんだが」
長蛇の列を眺めながら俺は口を開いた。
どうせ待つしかない。
魔法陣の話で時間を潰すのも悪くないだろう。
「アイアンバレーの魔法陣発動で、何かヒントになるような閃きはなかったのか?」
俺の質問に、シルとカイルは改めて記憶を辿り始める。
「皆既日食だろ?」
シルが指を折る。
「あとは空のダンジョン……」
「んー、魔鉱石?」
だが、すぐに首を傾げた。
「そもそも何で魔法陣は発動したんだ?」
完全に迷宮入りしている。
カイルも腕を組んだ。
「僕も、過去に起きた事象や条件の一致から魔法陣の発動を推測しただけです」
苦い顔をする。
「発動原理そのものは、確信を持てていません」
俺は頷きながら話を聞く。
するとシルが俺を見た。
「ルイはどうなんだよ?」
「前から可能性はあるんじゃないかとは思ってたんだが」
俺の言葉に、
「前から?」
カイルが不思議そうに尋ねる。
俺はカイルから魔法陣の書かれた紙を受け取り
そして――
ビリッ。
中央を勢いよく破いた。
「あーーーっ!!」
カイルが悲鳴を上げる。
周囲の人間まで何事かと振り返った。
「ルイ……」
シルもドン引きしている。
「いくら何でもそりゃ酷ぇぞ」
「落ち着け」
俺は破れた紙をひらひらさせる。
そして紙切れを掲げた。
「これは、ただの紙だ」
「紙に魔法陣をいくら書いても、教科書と同じ」
「それで何か起きるわけがない」
「紙の上に描かれた魔法陣に魔力を流す方法を探したって意味がない。一方向からの魔力じゃ多分何も起きない」
俺は続けた。
「アイアンバレーの魔法陣がそうだったろ」
巨大な魔法陣。
あれは地面そのものに描かれていた。
「カイルは、地中から魔法陣に魔力が流れて充填された状態になったから揺れが止まったと考えてたよな?」
「はい」
「それでも魔法陣は発動しなかった」
「それが皆既日食で発動しただろ?」
カイルは顎に手を置き俯きながらブツブツと何か呟いている。
「俺はあの魔法陣の中に寝転んでたら、何故か魔力が強くなった」
「あの皆既日食が無関係とは思えない」
カイルは呆然としていた。
「まさか······魔力衝突による活性化エネルギーの発生···」
「魔法陣に流れてた魔力はダンジョンにあった……魔鉱石···」
「アイアンバレーの魔法陣を再現するとしたら――」
カイルが言い切る前に俺は破れた紙を持ち上げる。
「紙を地面に見立てて、この紙自体に魔石を練り込んでみたらどうだ?」
この世界の魔法の理論はわからない。
けど、俺は"魔法効果を持つ紙"というものを空想上の話だが知っている。
カイルは驚愕から、次の瞬間には困った顔になった。
「それを再現するための実験には、魔石が高価すぎて……
「まずはお金を貯めないと」
肩を落とす。
金を稼ぐ事に関して、自分は不得意だとわかっているのだろう。
すると隣で話を聞いていたシルが大きく息を吸った。
「こいつは可能性アリだ」
そして目を輝かせる。
「大アリだ!」
勢いよくカイルの肩を掴んだ。




