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80話 魔石と魔道具と剣と...

カイルは身を乗り出しながら、クレジオルムについて語り始める。


「輸入される魔石を使って、様々な魔道具の研究や開発が盛んなんですよ!」


「そうなのか...」


俺が素っ気なく相槌を打つと、カイルはさらに熱を帯びた声で続けた。


「魔石は色によって効果が違うんです。それを上手く組み合わせることで、新しい魔法効果を生み出せるんですよ!」


もう止まらない。


「そして、それを道具に埋め込み、あらかじめ決められたトリガーとなる動作を行うことで魔法が発動するんです!」


「トリガー?」


「例えば剣なら、両手で強く握るとか、振るとか、衝撃を与えるとかですね」


カイルは身振り手振りを加え楽しそうに説明をしていく。


「そういった決められた動作を取ることで発動します」


「魔法効果に制限や上限があるものもありますし、使い切りで魔石が割れてしまう物もあります」


「光を放つだけの単純な魔道具でも同じです。ただボタンを押すだけに見えても、内部には複雑な仕組みがあるんです」


まるで自分が発明家にでもなったかのように、誇らし気に続ける。


「その仕組みこそが発明家の特許なんですよ!」


そう言うと、カイルはカバンを開いた。


中から取り出したのは見覚えのあるライトだった。


「それ、ノルのやつだろ?」


俺が指差す。


カイルは嬉しそうに頷いた。


「はい。ノルから貰ったんです」


ライトを大事そうに両手で持つ。


「暗闇でルイさんとシルさんが迷わないように照らしてあげてほしい――と伝言付きでした」


そう言って柔らかく笑った。


横でシルが鼻を鳴らす。


「ふーん」


照れ隠しなのか何なのか、相変わらず素直じゃない。


よく見る懐中電灯のような形状。

見た目は似てるのに魔道具....


「電池とか必要ないのか...」


思わず呟いていた。


「でんち?」


カイルがきょとんとした顔になる。


しまった。


またやった。


シルが呆れたような視線を向けてくる。


「ルイはたまに意味不明なこと言い出すから気にすんな」


「そ、そうなんですか...」


カイルは納得したような、していないような顔で頷いた。


俺はカイルからライトを借りる。


本当に不思議な世界だ。

特許だとか複合型施設だとかそういう概念はあるのに、見た目は同じでも構造が違う道具があったり...

妙なところだけ俺の知っている世界と似てる。


そんなことを考えながら、俺はライトのボタンを押し光を見つめた。


「その魔道具には白い魔石が使われているんですよ」


カイルが補足するように言うと


「他の魔石も大体は色で効果が分かる」

と、シルが指を折りながら説明する。


「赤は火系。青は水系。黄色は風系。緑は強化系。紫は幻覚系。白は光系だな。まぁ、他にも色によって様々だ」


「へぇ」


分かりやすい。


「魔石を複数組み合わせれば、全く別の魔法効果になることもあるんです!」


とカイルが前のめりになって話す。


なんとなく凄い事なんだって事は伝わった。


「魔水晶も魔道具なんだよな?あれって透明の魔石から作られるのか?」


「魔水晶は、加工される前から道具としての効果を持っているんです」


「加工前から?」


「はい」


「魔水晶は最初からある程度の大きさで発見されて、記録を残す効果があります。本来は水晶の中に映る景色を記録するだけなんです」


俺は少し驚いた。


天然の録画装置みたいなものか。


「そんな面白いもんを前に発明家達がそこで終わるわけねぇよな」


「魔水晶に触れた人間の情報を文字で記録できるように加工した。そこから情報を集める媒体を作ったり、そこに後から情報を書き換える魔道具を作ったり」


「発明家の頭の中は、どーなってんだか」


そう言ったシルは、自分には関係ない世界の話だと鼻で笑う。


「それも特許なんだろ?」


「そうだな」


だが、すぐにシルは両手を上げる。


「もっとも、魔水晶の場合、特許なんて名ばかりだけどな」


「どういうことだ?」


「全部国が買い上げて管理してる」


即答だった。


「そりゃそうだろ?そんなもん販売したら悪人に情報なんざ簡単に書き換えられちまう」


確かに、戸籍だの身分証だのを書き換え放題とか洒落にならない。


「魔水晶そのものなら国から超高額で購入できる。ただし購入が許可されてるのは貴族と商会だけだ」


「へぇ」


「情報を書き換える魔道具に至っては貴族でも購入不可」


「その魔水晶の発明家ってのが、魔法研究所の創設者なんだよ」


シルがそう言うと、カイルが静かに頷いた。


「.......すごい人物です」


その声には尊敬が滲んでいた。


「魔道具の発明家でもあり、魔法研究者でもあった偉人です」


そう言った後、カイルは少し俯く。


「ちなみに、透明の魔石もあるぞ」


「とは言っても、よくて小石程度の大きさ、ほとんど砂利みたいなもんで大量に取れる」


「水晶と同じ透明でも、まるで価値は違う」


「なんの魔法効果もない、見た目が綺麗なだけのいわゆるゴミ魔石だ。時間が経過すると白く濁っちまうし、魔道具としての使い道もない」


「大量に取れるから、安物の装飾品に使うか捨てるかだ」


「それでもダンジョンからしか取れないんだろ?」


「もったいねぇ〜」


俺のリアクションに、シルが吹き出した。


「商人みたいなこと言うじゃねぇか」


「濁る透明の魔石より、よっぽど硝子の方が優秀なんだよ」


それを聞いていたカイルも残念そうに頷く。


「それで、魔道具っていくらくらいなんだ?」


俺のその質問に嬉しそうに答えたのもシルだった。


「ピンキリだな」


腕を組む。


「安い物でも大人一人が一か月、豪遊しながら暮らせるくらいの値段はする」


「高っ!」


思わず声が出た。


「しかも買って終わりじゃない」


シルはニヤリと笑う。


「メンテナンスにも金がかかる」


そうか、本体だけじゃなく維持費まで必要なのか。


「とはいえ金持ち専用ってわけでもねぇ」


「違うのか?」


「一般人でも頑張れば買える価格帯の魔道具がたくさんある」


シルは指を立てた。


「商会から借金するって手もある」


「そこが商売のミソなんだよ」


高すぎず安すぎず。


頑張れば手が届く価格帯。


「メンテナンスやら何やらで金持ち以外からも絞れるだけ絞る精神だな」


元の世界でも家電製品は三年で壊れるように作られている。なんていう、都市伝説があった。


もちろん本当かどうかは知らない。


だが商売としては実に合理的だ。


カイルはその辺りから完全に興味を失ったらしい。

発明の話をしていた時とは打って変わって、商売の話になると静かに弁当を食べ始める。


研究者気質というか何というか。

金の話には本当に興味がないようだった。


「まぁ、魔道具使って悪どい商売してることはわかった」

俺が呆れたように言うと、シルはすぐに否定した。


「悪どい?違うな」


「能力のない奴でも魔道具を使うことで仕事を得られる」


「仕事?」


「ああ」


「魔道具の効果そのものを商売にしてる店もある」


「能力を持たない奴でも魔法を扱えれば、それだけで価値になる」


「剣の腕を磨いた奴が魔剣を手に入れれば、持たない奴より護衛として雇われやすくなるだろ?」


「冒険者だってそうだ」


シルは続ける。


「自分の能力とは別の魔法効果が使える。生存率はかなり変わるぞ」


確かに。


「大衆浴場なんて成功の代表例だな」


「魔道具を利用して一般人が成功した商売だ」


「金持ちは、より豊かで便利な生活のために」


「魔道具が高くても買う奴は山ほどいる」


俺は少し考えを改める。

自分の人生にとって必要がないと思えば、そんな高額な物をわざわざ買わない。


メンテナンスの費用もわかった上で、それでも人生を切り開くための投資。


そういう考え方だ。


「そういや、オレオから貰ったアンタの剣も魔道具だぞ」


「は?」


俺は思わず間抜けな声をだしてしまった。


「マジで?」


シルは当然のように頷く。


「水系統の魔石が埋め込まれてる」


俺は荷物と一緒にまとめて置いてある剣を見る。


「剣の型はすげぇ古いし、剣の作りも(良)とは言えない新中古品だ。超高額ってわけじゃねぇ」


「けど、この粗悪な剣にはめ込むにしては、魔石の大きさや、透過度の状態が中古とは思えない程良い。売ればいい値段になるぞ」


それは当然だ。


何せ俺が時間魔法で状態を戻したからな。


魔石も新品同然だろうよ。


そう考えていると、ふとシルの腰に視線が向いた。


「お前の短剣にも石が付いてるじゃん!」


「ああ」


短剣の柄には緑色の魔石。


緑は強化系の効果とかいってたな。


「まぁ、値は張るが、魔道具も魔剣もビックリするほど珍しいもんじゃねーよ」


シルは気楽に言うが、俺だけ完全に置いてけぼりだ。


だから...こいつらライトを見てもなんの反応もせず普通に使ってたのかよ!


それにシルが空洞の中で、容易く地面に短剣突き刺せたのも強化系の魔剣なら納得だ。


(てか、ちょっと待てよ。この剣が....魔道具?)


俺は長剣をじっと見つめ、これを手にオレオと歩いた夜道を思い出す。


次の瞬間、剣を掴み馬車を止め慌てて外へ飛び出していた。



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