79話 心配ごと...
『変人アイン』を探すため魔道具生産都市クレジオルムを目指していたルイとシルだったが、経由地のアイアンバレーで探鉱者のノル、魔法の研究をするカイルと出会い、街に隠された巨大な魔法陣の信実へとたどり着く。
ダンジョン発現によって引き起こされる天変地異に抗うことで、大量に寿命を削り今度こそ死ねるかも!と期待したルイだったが死ねなかった。しかも、天変地異の影響で寿命は以前よりも減りずらく魔力が強くななるという残念な結果となってしまう。そしてアイアンバレーでも『神の遣い』と神格化され『不滅の魔法士』として崇められてしまったルイ。
さらにルイ、シル、カイルがアイアンバレーで取った行動は三人の因果を大きく動かすキッカケとなってしまう。
そんな事になっているなど本人達は知らず、新たにカイルを仲間に加えて、目的の街クレジオルムへと出発した。
─前回までのあらすじ─
『変人アイン』を探すため魔道具生産都市クレジオルムを目指していたルイとシルだったが、経由地のアイアンバレーで探鉱者のノル、魔法の研究をするカイルと出会い、街に隠された巨大な魔法陣の信実へとたどり着く。
ダンジョン発現によって引き起こされる天変地異に抗うことで、大量に寿命を削り今度こそ死ねるかも!と期待したルイだったが死ねなかった。しかも、天変地異の影響で寿命は以前よりも減りずらく魔力が強くななるという残念な結果となってしまう。そしてアイアンバレーでも『神の遣い』と神格化され『不滅の魔法士』として崇められてしまったルイ。
さらにルイ、シル、カイルがアイアンバレーで取った行動は三人の因果を大きく動かすキッカケとなってしまう。
そんな事になっているなど本人達は知らず、新たにカイルを仲間に加えて、目的の街クレジオルムへと出発した。
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「おいカイル、いつまで窓の外見てんだよ。飯食わねぇならアタシがいただいてやるぞ」
シルがそう言うと、カイルは慌てて弁当を抱え込んだ。
まるで獲物を守る小動物だ。
だが、その表情は暗い。
「どうしたんだ?」
俺が尋ねると、カイルは窓の外へ視線を向けたまま口を開いた。
「......街の今後が心配なんです」
「今後? ダンジョン発見でこれからいい事づくめじゃないのか?」
俺にはそう思えた。
たしかに、街の復興は大変だが、
住民の命は助かった。
国内初となるダンジョンまで発見された。
鉱石が採れずに荒廃していくより、むしろ未来は明るいように見える。
だが、カイルは首を横に振った。
「国内初のダンジョンです。国が関与しないわけがありません」
静かな声だった。
「様々な理由をつけて、いずれ国の直轄地になるはずです」
その言葉で俺も何となく察した。
「そうか...そしたら領主交代だな」
「はい」
カイルは頷く。
執事のラドや憲兵達は領主に仕える者達だ。
もしアイアンバレーが国の直轄地になれば、その任を解かれる可能性が高い。
「ラドさんは今回の件について王都へ書簡を送ったそうです」
カイルは続ける。
「あれは職を失うのを覚悟した行為でしょう。ですが同時に、無能な主人からアイアンバレーを守るための英断でもあります」
街の危機のさなか俺達と面会したあの後、ラドは各領への支援要請と、王都への報告書を送っていたらしい。
それを後日聞かされたカイルは、ずっとラド達の行く末を案じていたのか。
そんなカイルの話を聞いて突然笑い出したのはシルだった。
「なんだよ急に? 変なもんでも食ったか?」
俺が怪訝そうに聞くと、シルはニヤリと笑った。
「アタシが馬車の交渉するためだけに、カイルにくっついて行ったと思うか?」
カイルが首を傾げる。
シルは得意げに指を立てた。
「商人は物だけを売り買いすんじゃないんだよ。優秀な人物を手に入れるのも商会にとって大きな財産なのさ」
「お前、まさかラドのこと買ったのか? 人身売買とか最低だな」
「ちげーよ!」
即座に言い返された。
「アタシを奴隷商みたいに言うな!」
カイルが苦笑しながら説明を求める。
するとシルは不貞腐れたように言った。
「つまり、ラドをベリントン商会のアイアンバレー支部長として雇ったのさ」
「ベリントン商会?」
カイルは突然出てきた商会という言葉にキョトンとした表情を見せた。
「アタシが作った商会だよ。アイアンバレーで土地を買ったんだ」
「いつの間に!?」
カイルが目を丸くして尋ねると、シルはクククと笑った。
「アンタ達がノルと坑道で無駄骨折ってた時だよ」
失礼な奴だ。
「旧坑道の周りは避難勧告が出てただろ?みんな土地を手放して街を出て行った。買い手なんていない状況だったから、そりゃもう安く手に入ったわ」
「でも、どうしてあの状況で土地を?」
カイルが真剣な顔で尋ねる。
まるで記者だ。
「ダンジョンがあることも、その時は分からなかったですよね?」
シルは人差し指を立てると得意げに
「神のお告げだ!」
と笑う。
俺はジットリとした目で睨んだ。
シルはその視線に気づくと盛大に吹き出した。
「冗談だよ!」
ひとしきり笑った後、話を続ける。
「ルイの目的は最初、鉱山をまとめて元に戻すことだったろ? 旧坑道が崩れりゃノルも諦めるだろうしな」
「まぁな」
「また鉱石が採れるようになれば街は栄える。だったら坑道周辺の土地を買っといて損はない」
「ダンジョンは嬉しい誤算だ」
そう言って、シルは弁当で満たされた腹を満足そうに撫でる。
「お前がタダで働くわけないよな.....」
「当然!」
胸を張るシル。
「買った土地に宿屋を建てる! そこの支配人にラドを雇ったってわけさ」
さらに続ける。
「従業員の雇用や教育はラドに任せる。憲兵達もそこで雇えばいい」
「素晴らしいです...」
と、カイルが褒めるように呟く。
「腕っ節の強い従業員が大勢いれば問題のある冒険者も追い出せるしな。立地も最高だ。ダンジョンから一番近いエリアだからな!」
褒められたシルは、実に楽しそうに話し続けた。
「宿屋だけじゃないぞ」
胸を張る。
「レストランと商店も併設する複合型だ」
「は?」
「料理長はダグ。商店の管理はリナ」
俺は思わず呆れた。
「お前、どんだけ人使い荒いんだよ」
するとシルは頬を膨らませる。
「あのな!」
「あいつら、自分の利益なんざこれっぽっちも考えてないんだよ!」
珍しく真面目な顔だった。
「ちゃんと見合った対価は得るべきなんだ」
まるで自分達なんかが利益を得ること自体を申し訳ないと思っている。
そんな風に見えていたらしい。
「ああいうお人好しは食い物にされる」
「まして英雄一家なんて箔がついちまったら、悪い考え持った奴が寄ってくる」
「だからその前に、アタシが得るべき対価を与えて、あの一家を守るためにラドと憲兵を近くに置いてやったってわけさ!」
得意満面だ。
「誰も損しないだろ?」
俺は思わず、
――お前が食い物にしただけじゃないのか。
そう言いかけて飲み込んだ。
たぶん違う。
こいつなりに考えた結果なのだろう。
「それだけじゃねぇぞ」
シルは、まだ終わらない。
「ダグが新しいレシピを考えたら盗まれないように、ベリントン商会の料理研究家ダグ名義で特許を申請するようラドに伝えてある」
「特許?」
「そうだ」
「そのレシピを使いたい店が出てきたら商会を通して契約させる。使用料を払ってもらって、その金をダグに渡す仕組みだ」
「その使用料の何パーセント商会が搾取する気だ?」
俺が聞くと、
「搾取とか言うな!」
即座に怒鳴られた。
「正当な対価だ!」
そして腕を組む。
「料理長やりながら特許申請だの契約だの処理できるか? それを商会が代わりにやるんだよ」
なるほど。
言いたいことは分かる。
「使用料や中間手数料の采配もラドに一任してる」
シルは笑った。
「税金だの土地の権利だの法に詳しいから助かるぜ」
「お前、アイアンバレーの領主みたいにラドに見限られないよう気を付けろよ?」
俺がそう言うと、
「馬鹿なこと言うなよ...」
シルは笑った。
だが、その笑顔は少しだけ引き攣っていた。
シルの話を聞いてカイルは安心したようで弁当を食べ始める。
「クレジオルムでは、どんな魔道具を買う予定なんですか?」
弁当を口に運びながらカイルが尋ねてきた。
そういえば、カイルは俺達がクレジオルムへ向かう理由を、魔道具を買うためだと思ったままだ。
「いや、魔道具を買いに行くわけじゃない」
「え?」
「アインって奴を探しに行くんだ」
俺がそう言うと、カイルは目を丸くした。
「時間魔法を個人で研究してる変人らしい」
その瞬間、カイルが分かりやすく瞬きをする。
「時間魔法を...研究している方に会いに行くんですね!」
『変人』という言葉はカイルの耳に入らなかったらしい。
魔道具購入目的より、俄然嬉しそうだ。
「クレジオルムってどんな街なんだ?」
俺は研究やら魔法から話題を逸らそうと、慌ててクレジオルムについて尋ねると、カイルは食べ始めたばかりの弁当の蓋を静かに閉じる。
そして顔を上げると、その目を輝かせたのが分かった。
(ヤバい。これは.....くるぞ)
「魔道具生産都市と呼ばれるクレジオルムは、発明家の街なんです!」
どうやら俺はカイルの好きな話題を振ってしまったらしい。




