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74話 天変地異のその痕···

視界から光が失われていく。


それと同時に遠くの鉱山が淡く輝き始めた。辺りが薄暗くなったことで、その光はより鮮明になる。


轟音の中、ピシッと音を立てて石畳に一本の亀裂が走った。


それは生き物のように枝分かれしながら街中へ広がっていく。


無数のひび割れが走り、太陽と月が完全に重なった瞬間、俺の体が眩い光を放ち始めた。


その光は地面へ流れ込み、ひび割れの奥へ吸い込まれるように広がっていく。


「ステータスオープン!」


名前:天城塁 TM:98710 / 99999

スキル:時間操作魔法


数字が減り始める。


98613……


98524……


98402……


98371……


地を這う光が強くなるにつれ、寿命の減少速度も加速していった。


97748……


95721……


92766……


88735……


大地が激しく揺れ出す。


腹の底を揺らすような轟音が、大地そのものから響いてくる。


背中に伝わる地面の振動は、まるで巨大な生き物が身じろぎしているみたいだった。


頬に当たる土は細かく跳ね、積み上げられていた石材が滝のように崩れ落ち、視界の端で建物が崩れて土煙が立ち上る。


砕けた石がぶつかり合う耳障りな音。


街全体が悲鳴を上げているような音が、いたるところから聞こえてくる。


だが、俺は目の前の数字にだけ集中していた。


85792……


82743……


78718……


73684……


65737……


57791……


57326……


57241……


57187……


57153……


57132……


57121……


57115……


57112……


57110……


57109……


57108……


57107……


57106……


57105……


57104……


57103……


57102……


57101……


57100……


……ん?


嫌な予感が胸をよぎる。


57099……


57098……


57097……


57096……


57095……


その時、視界に強い光が差し込んだ。


57094……


数字の減少が明らかに鈍る。


57093……


57092……


57091……


「おい……」


思わず声が漏れた。


57090……


57089……


さっきまで凄まじい勢いで減っていた数字が、まるで力を失ったように減速していく。


57088……


57087……


57086……


止まるなよ?


57085……


57084……


57083……


もっとだ。


57082……


57081……


57080……


まだ四万年しか削れていない。


57079……


57078……


57077……


鼓動が早くなり、焦燥が入り混じる。


57076……


57075……


57074……


頼む。


57073……


57072……


57071……


もっと持っていけ。


57070……


57069……


57068……


全部だ。

いや、贅沢は言わない!あと数万年!


57067……


57066……


57065……


57064……


57063……


57062……


57061……


57060……


太陽がゆっくりとその姿を取り戻していく。


57059……


57058……


57057……


「止まるな……!」


57056……


57055……


57054……


そして最後の欠けた部分が光に包まれた瞬間――


57054····


数字はぴたりと停止した。


TM:57054 / 99999


「嘘だろ!!終わりかよ?!」


勢いよく体を起こして叫んだ。


街は原型をとどめない程、崩壊していた。

建物は倒れ、道は裂け隆起し、瓦礫が散乱している。


未曽有の大災害だ。

だが、俺が寝転がっていた中央広場だけは違った。被害がほとんどない。


そんな中、俺の声だけが虚しく響く。

その場で立ち上がったまま、呆然とした。


自分の両手を見つめ、握っては開く。


寿命が…まだ五万年以上残ってやがる。








どれだけそこで立ち尽くしていただろうか。

遠くから呼ばれる声に意識が向く。


振り返ると兵士達が隆起した瓦礫を避けながら進んでくるのが見えた。

その後ろにはカイルとラドが続く。


シル、ノルの姿も見えた。ダグとリナまでいる。


広場へと足を踏み入れたラドは俺と目が合った瞬間、丁寧に礼をする。

それと同時に兵士達は一斉に敬礼した。


それをかき分けるように、シルとノルとカイルが飛び出すと、俺に勢いよく抱きついてくる。


ダグとリナは抱き合いながら涙を流していた。




「この場所だけ…被害がない」


兵士の一人が震える声で呟く。


「見ただろあの光を!」


「あの方を中心に光が広がっていた!」


「街の外へ被害が届かぬよう、ここで守られていたんだ!」


「それにしても…ここだけ時間が止まっていたかのようだ」


ざわめきが広がる。


(まさか…)

俺はその言葉を聞いた瞬間、地面へ手を置いた。


この広場からの景色を思い出す。

すると、胸のあたりに鋭い痛みが走った。


同時に光の蔦が地面を這っていく。


地面のひび割れが修復されていく音で皆の動きが止まる。


戻ってる。


魔法が。


崩れた石畳が、倒壊した建物が、砕けた壁が、まるで映像を逆再生するように一斉に元へ戻り始めた。


俺の見えている範囲の全ての時間が巻き戻っていく。


「嘘だろ……」


以前とは比較にならない規模。


比較にならない速度。


慌ててステータスを見る。


TM:57044 / 99999


数字を二度見した。


57044。


57044?!


そして理解した瞬間――


(10!?)


心の中で思わず叫んでいた。


たったの10ポイント。

これだけ広範囲の時間を巻き戻して、消費した寿命は、たったの10。


俺は空を見上げた。


皆既日食は…魔力を高める…。


伝承?


迷信?


(嘘だって言ってくれよ……)


(めちゃくちゃ効率悪くなってるじゃねぇか……!)


俺の絶望とは裏腹に、周囲では歓声が上がった。

視線は俺ではなく、修復された街並みに向いている。


崩壊したはずの建物。


元通りになった石畳。


兵士達は涙を流し、ラドは深く深く頭を垂れる。


「公爵家の能力とは…あれほどなのか?」


「寿命を削る魔法だぞ…あんな規模、できてもやるもんか…」


「だが、それを惜しみ無く使われた···」


「あの方は間違いなく神の遣いだ……」


「なんという奇跡の連続……」


「我らは目撃したのだ……!」


次々と兵士達がひれ伏していく。


(魔法が使えるようになったのか、確認したかっただけなのに…。あの規模で発動するなんて聞いてない!完全に裏目ってる!)


「俺は神の遣いじゃない…」

俺の呟きなど、もはや誰も聞いちゃいない。


雲一つない澄み渡った青空の下、温かな光が降り注いでいる。


最悪だ。

前より魔力が強くなりやがった。


本当に最悪だ。


(寿命が…魔力が…)


その言葉の続きを考えることを放棄し、俺は自ら意識を手放した。

倒れそうになる身体を、シルとカイルとノルが支えて興奮しながら揺さぶってくる。


驚き。


感動。


興奮。


尊敬。


全部が隠しきれずに溢れ出していた。


英雄?守護神?化け物を超えた化け物?


もう好きに言ってくれ。


えらく嬉しそうな三人に、俺は身を任せて静かに目を閉じた。

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