63話 怒り···
「……は?」
背筋が凍る。
TMゲージ――001。
しかも。
死期、死因。
どちらも、記載なし。
冗談だろ……?
ノルも、シルも、カイルも。
全員揃って、同じ表示になっている。
嫌な汗が頬を伝った。
「ダメだ……」
思わず漏れた声に、三人が同時にこちらを見る。
「ん? どうしたんだよ」
シルが眉をひそめた。
「……今、何時だ?」
俺の言葉にカイルがすぐに懐中時計を取り出した。
「ちょうど15時になろうとしています」
「このままだと――」
喉が重い。
「お前ら全員、明日の15時前後に死ぬ」
空気が凍りついた。
ノルの顔から血の気が引き、シルの目が見開かれる。
「死因は?!」
シルが食い気味に叫ぶ。
「……不明だ」
それに短く答えた。
「不明?今までそんなことあったのか?」
その問いに、俺は記憶を辿った。
「一度だけある」
「二日前の昼頃、街で絡んできた男のステータスを見た時だ」
「あいつも原因不明で、残り三日しか寿命がなかった」
カイルの表情が強張る。
「つまり、今日で残り一日…。死期も同じで、原因不明という点も我々と一致しているんですね……」
「待ってよ!」
ノルが声を上げた。
「今ここにアイツいないのに、なんで同じになるの?!」
その瞬間。
俺の中で、一つの可能性が繋がった。
「……明日の、この時間に」
三人が俺を見る。
「魔法陣が発動する……」
「揺れが止まったのは、最後のピースがはまって魔力の充填が終わった。そうも考えられないか?」
カイルが息を呑んだ。
「っ……!」
だが、シルは納得いかないように叫ぶ。
「もし魔法陣が原因で死ぬなら、なんで死因がわからないんだよ!?」
「魔法陣発動で爆死とかさ! そういう情報があってもいいだろ?!」
「何で今回だけわからないのか…俺にもわからない」
「自分の能力だろ!?」
シルが苛立ったように言い放つ。
俺もイラッとした。
「お前だって幸運のリスクが何かわかってないだろ! 万能じゃねぇんだよ!」
「んだと!?」
険悪な空気になりかけた、その時。
「落ち着いてください」
カイルが間に入った。
「今までは分かっていたのに、今回は分からない……」
カイルは考え込むように呟く。
「もし、ルイさんが知り得るような“死因”の外側にある事象が原因なら……」
「情報に反映されない可能性もあります」
その言葉に、ノルもシルもごくりと唾を飲み込んだ。
「想像もつかない死因?···何が起きるっていうんだよ…」
シルが珍しく弱気な声を出す。
「アタシらだけでも今すぐ逃げようぜ」
「街の人達は?!伝えなきゃ!」
シルの言葉にノルが叫ぶ。
「んなもん、どーでもいいんだよ!」
「嘘つき一家って言われてる奴が、街で何か叫んだところで誰も信用しねぇよ」
「そうやって今までお前らを馬鹿にしてきたツケが街の連中に回ってきただけだ」
シルが吐き捨てるように言って続ける。
「それに!一日やそこらで、この街の全員をアタシ達だけで避難させるなんて不可能だ!他人の心配する前に、お前ら一家だけでも逃げられる事を幸運に思え!」
その言葉にノルは涙を浮かべる。
「この街の領主代行に危機を伝えるのはどうでしょうか?」
冷静にカイルが提案する。
だが、俺は首を振った。
「どうやって説得するんだ?」
「何が起きるかも説明できないんだぞ」
「皆の寿命が見えるんです! って言って、“それは大変だ!”とはならないだろ」
誰も反論できない。
沈黙が落ちる。
俺はカイルを見る。
「カイル。鉱床図を見てこの街の魔法陣の効果はわからないのか?」
カイルは眉間を押さえながら答えた。
「今わかっている範囲だと……時間魔法と酷似した構造です」
「ですが、見たことのない構造が含まれていて……それを主軸として構築されています」
「さらに、闇属性、風属性、土属性……複数属性の要素が混在している」
「複雑すぎて、何が起きるのか予想がつきません……」
「なんだよそれ!」
シルが頭を抱える。
「そんなわけわからない現象あるわけないだろ!」
――わけがわからない。
そうだ。
最初から全部、わけがわからなかった。
はるか昔に採掘された旧坑道。
あれだけ巨大な空間。
そして、それを“見つからないように埋めた痕跡”。
魔法陣と一致した坑道の採掘···
「……ノル」
「お前のじいちゃん、なんで鉱脈の場所がわかったんだ?」
全員の視線が、一斉にノルへ向く。
ノルの顔は真っ青だった。
「おじいちゃんは……」
震える声。
「おじいちゃんの能力は……“預言者”」
「預言者……」
カイルは小さく繰り返す。
「預言者の能力は……うちの家系で代々引き継がれてた不思議な力なの」
「先代の能力者が死ぬと、別の誰かに能力が開花するって……」
ノルは唇を噛む。
「夢で導かれるんだって」
「鉱脈の場所とか、どう掘り進めればいいかを……」
「神様のお告げだって、おじいちゃん言ってた……」
ぞわり、と鳥肌が立った。
長い年月をかけて、ここまで誘導していたってことか?
神様のお告げ。
……ふざけるな!
怒りが込み上げる。
その横で、カイルは顎に手を当て、何かを思い出すようにぶつぶつ呟いていた。
一方、ノルは震えていた。
「私が採掘したから……私のせいで……」
「皆死んじゃうの……?」
「……ははっ」
この現状を前に思わず笑ってしまった。
三人が驚いたように俺を見る。
「そうか」
胸の奥で、怒りが燃える。
「神か悪魔か知らねぇけど」
「何か目的があるなら――」
「俺が全部、潰してやるよ」
呆気に取られる三人を置いて、俺はそのまま坑道へ向かう。
「えっ……ちょ、ルイ!?」
ノルが慌てて腕を掴んでくる。
「何するの!?」
俺は振り返らずに答える。
「全部、元に戻してくる」
「空洞も埋める。坑道も、掘削される前まで戻す」
「そうすれば、何も起きないはずだ」
俺は足を止め、振り返る。
「鉱脈の場所は特定した」
「全部埋めた後、別の地点から空洞の下へ向けて掘ればいい」
「ノル。お前ならできるだろ?」
ノルは一瞬呆けたあと――
真剣な顔で、大きく頷いた。
俺は松明を掴む。
(思い通りにはさせない)
神への怒りを燃やしながら、俺はそのまま坑道へ足を踏み入れた。
……この時の俺は、予想できなかった。
この先に待っている出来事が、"坑道を戻す"そんな単純な話で終わらない事を…。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アイアンバレー編の第二章を終え、物語は佳境へと向かっています。
次回より「第三章─天変地異に抗う者達―」がスタートします。物語を作るため5/21より1週間程、更新のお休みを頂きます。
5/28より更新を再開させて頂きますので、「面白い」「続きが気になる」と思ってくださいましたら是非ブックマークで更新通知を受け取って頂ければと思います。
これまで、ブックマークやリアクションや評価をくださった方々に改めて御礼申し上げます。
皆様の反応に励まされております。
引き続き、「不滅の魔法士は死にたがる」を何卒、宜しくお願い致します。




