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56話 成果なし⋯

昨日壊れた、元に戻した小さなツルハシ。

それを握ったノルは、迷いなく採掘を開始した。


だが、その動きには、どこか違和感があった。


振り下ろしは鋭い。狙いも正確。

それなのに、威力だけが抑え込まれている。


まるで、自分の力を“制限している”みたいに。


(……ツルハシがもたないのか)


ノルの能力と、道具の強度が釣り合っていない。

だから無意識に、力を殺しているんだろう。


俺は、カイルが拾ってきたツルハシを手に取った。


錆びだらけで、ガタガタ。

中身はスカスカ、今にも折れそうな代物。


それに手を添え意識を集中させる。


軋むような感触とともに、劣化が剥がれ落ちていく。

朽ちた鉄は密度を取り戻し、歪んだ形は矯正され、新品同様のツルハシに姿を変える。


……いや、それ以上だな。


中身が全然違う。

密度が増し、重量が跳ね上がっている。


屈強な男でも、数十回振れば腕が悲鳴を上げるレベルだ。


それを、そのままノルに差し出す。


「お前はこっちを使うといい」


俺がそう言うと、ノルは俺の手から軽く受け取り、試すように持ち上げると、

そのまま肩に引っかけた。


(……軽々かよ)


重さなんて感じてないみたいだ。


ノルは同じ場所に立ち、意識を一点に集中させる。

すると、手の甲に浮き出ていた痣がより光を増した。


そして――勢いよくツルハシを振り上げると


そのまま、叩き落とした。


ガキンッ――!


硬質な衝突音と同時に、


ガラガラガラッ!!


岩肌が崩れ落ち、一瞬で大きな穴が穿たれる。


その規模は、さっきまでノルが掘っていた穴の十倍近くはある。


「……これなら」


小さく呟くと、ノルはすぐに隣へ移動する。


同じように振り下ろし、削り、壊す。

無駄のない動きで、採掘が一気に加速していった。


一回一回崩れた石を拾い上げ、ハンマーで叩き割る。


ライトを当て中身を入念に確認すると首を横に振る。


「……ハズレ」


小さなため息。


鉱石が含まれているかの確認だ。

わずかでも含有があれば、それは“兆候”。


そこを掘り進めれば、鉱脈に辿り着く可能性がある。


「確認は僕がやります」


カイルがすぐに名乗り出た。


「それじゃあ、俺は兆候なしの場所を戻す」


崩壊を、少しでも遅らせるために。


役割が決まった瞬間、作業効率は一気に上がった。


ノルが掘る。

カイルが選別する。

俺が修復する。


シンプルだが、無駄のない流れ。


ノルは重厚なツルハシを、まるで棒切れのように振り回す。

その速度に、カイルの確認が追いつかない。


やがてノルは手を止め、確認にも加わるようになるが


「……違う」


「……これも」


ため息の回数が、徐々に増えていった。


(……広すぎる)


この空間の岩肌を一周するだけでも、相当な時間がかかる。

しかもノル一人だ。一人で十人力とはいえ…


今のペースなら――


(明日、ギリギリだな)


ノルの様子を見ると、汗と泥にまみれ、無言でツルハシを振るい続けている。


休む気は、まるでない。


その手元から

ぽたり、と赤いものが落ちた。


腕力はあっても、皮膚の強度までは強化されていないってことか。


「……おい」


俺はノルを止め、手袋を外させる。


掌はボロボロだった。

皮が剥け、裂け、滲む血で濡れている。


その手に、俺は自分の手を重ねる。


ノルは、すぐに気づいた。


「……っ」


「支援してやるって言っただろ」


そう言うと、ノルは一瞬だけ目を伏せ


手を引き、胸の前で小さく握る。


「……ありがと」


かすかな声だった。


その間にも、坑道は揺れ続けている。


ドン……ドン……と腹に響く振動。だが、大きな揺れに誰も手を止める事はない。




ランタンの明かりが、一つ、また一つと消えていく。


時間だけが、容赦なく削られていった。


気づけば今日だけで半分。この洞窟の半周分は掘削した。


だが。


成果は、ゼロ。


ノルは悔しそうに唇を噛み鉱床図に記録を書き込んでいる。


カイルは採掘された石を丁寧に分け、トロッコへと積み込んでいく。

後で再確認したいと、ノルに頼まれていた。


積み上がった石は、相当な重量になっていた。


三人でトロッコを押す。


……重い。


身体の疲労もあって、来た時のようには進まない。


(いっそのこと、子供の頃にやった事のあるゲームみたいに、トロッコに乗っかってジェットコースターみたいに進めたら楽なのに…)


いや…、近いことはできるんじゃないか?


「……離れろ」


二人に短く告げる。


カイルとノルが距離を取ったのを確認し、俺はトロッコに手を置いた。


イメージする。


何かで見たことがある。


人が向かい合って、シーソーみたいに漕ぐやつ。


ああいう仕組みの――


“進むトロッコ”。


ただの運搬箱じゃない。

もっと効率的で、負担を減らせる形へ。


そのイメージを、形にする。


シュル……と。


黒い痣が、腕を這うのが分かり、指先へと伸びていく。


それと同時にトロッコが震えた。


カタカタ、と不規則に揺れながら、その形を変えていく。


積まれた石には影響がない。

だが下部構造が変形し、縦に伸びる。


板の中央から鉄の棒がせり出し先端が二股に分かれ、車輪が増える。


「これは……」


カイルが思わず声を漏らす。


だが、もう質問責めをする元気はないらしい。

ただ、その変化を受け入れていた。


俺はトロッコをの棒を掴み説明する。


「この棒の両側に立って、お互い上下に動かすんだ」


「シーソーみたいに」


「シーソー……?」


ノルが首をかしげる。


「とにかく、上下させればいい」


俺は台に乗る。

その真似をするように正面にカイルが乗った。


俺の背後にぴったりとくっつくノル。

腰のあたりの服を、ぎゅっと掴まれる。


「ノル、落ちるなよ」


そう言うと、ノルは真剣な顔で頷いた。


(なんか……前にもあったな、これ)


ふと、口元が緩む。


「いくぞ!」


レバーを、強く押し下げた。


最初は重い。


だが、動き始めれば違う。


ガコン、ガコン、とリズムが生まれ次第に加速する。


(いいなこれ……時短だ)


押すより速い。しかも楽だ。


ところどころランタンの炎は消え、松明に照らされた薄暗い坑道内。

そんな中カイルは前が見えず、完全に恐怖の顔で必死にレバーを動かしている。


正面からまざまざとその様子を見せられ、それが妙に面白くて

思わず、笑いが込み上げる。


その瞬間。


背後から、くすくすと小さな笑い声。


ノルが、笑っていた。


(……なんだ、笑えるんじゃん)


少しだけ、肩の力が抜ける。


やがて、出口の光が見えてきた。


速度を落とし、慎重に停止する。


トロッコから降りると


外はすっかり、夜になっていた。


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