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55話 隠された空洞⋯

坑道内の支柱には、いくつかランタンがぶら下げられていて、ノルは手際よく、それらに火を灯していく。


振り返れば、淡い光が点々と続き、暗闇の中に道筋を浮かび上がらせていた。


まるで、帰り道を示す“目印”みたいだ。


俺は支柱に手を置くと、意識を集中させ――時間を巻き戻す。


古く傷んだ木材が、きしりと音を立てながら若返り

ひび割れは消え、色艶を取り戻し、今しがた組まれたばかりのような状態へと戻っていく。


強度も問題なさそうだ。これなら簡単には崩れない。


岩肌に走った亀裂にも同じように手を当て、丁寧に修復していく。


そうして少しずつ進んでいると――


ドンッ、と腹に響くような衝撃が走った。


「っ……!」


坑道全体が、大きく揺れる。


狭い空間での揺れは、それだけで恐怖を煽る。

天井が落ちてきてもおかしくない。

まるで俺たちという異物を吐き出そうとしているかのように、その揺れは長く続いた。


体制を低く保ち、揺れが収まるのを待ちながら、俺はノルとカイルを見た。


目が合うと


「……大丈夫です」

カイルはトロッコをしっかり掴み頷く。


ノルも、わずかに身構えただけで動じていない。目が合うと小さく頷いた。


(……三日は崩れない)

昨日の俺の言葉を、二人とも信じてるってわけだ。


……ずいぶんとまあ、信頼されたな。


揺れが収まる前に、崩れかけた箇所へ手を当てる。


時間を巻き戻し、即座に補強。


崩壊の連鎖を断ち切りながら、俺たちはさらに奥へと進んでいく。


しばらくして――


「ルイさん」


カイルが、おもむろに口を開いた。


「あなたの寿命は……残りどれくらいなのですか」


その声は、どこか慎重だった。


さっきまで目を輝かせていたやつとは思えないくらいに。


……まぁ、無理もないか。


魔法研究してる奴であれば、どうしても気になるところだろう。

考えないようにしてても、ふとした拍子に浮かぶ類の疑問だ。


(ステータスオープン)


名前:天城塁 TM:99004 / 99999

スキル:時間操作魔法


ラドゥナ村を出た時、たしか八百年ほど削ったって話をした。


さっきはテントの進化にも使ったが……それでもまだ、九万八千にも届かないか。


思ったより減ってない。


俺が黙り込んだせいか、カイルの表情は暗く沈んでいく。


「本当は……もう、あまり長くないんですね?」


その言葉に、ノルがびくりと反応した。


「そうなの……? それって、魔法を使うからなんだよね……? やっぱり――」


言いかけたところで、俺はため息混じりに遮る。


「ちげぇよ。逆だ」


「寿命が長すぎて困ってんだよ」


ぽかん、と。


二人とも間抜けな顔で固まる。


「寿命で言ったら俺は本当にバケモン級なんだよ」


俺は乾いた笑いを見せながら、淡々と支柱の補強を続けた。


そんなことより――


視界が、急に開けた。


「……なんだ、ここ」


思わず声が漏れる。


今までの狭い通路が嘘みたいに、広い空間が広がっていた。


例えるなら――そうだな。


これまでが“食道”なら、ここは“胃袋”だ。


薄暗く、全体像は掴めない。

だがそれが逆に、この空間の異様な広さを物語っていた。


ノルはすぐに動き出し、壁際のランタンに次々と火を灯していく。


その光が、少しずつ空間の輪郭を浮かび上がらせていった。


……かすかに、風を感じる。


(なるほどな)

こんな奥まで来ても息ができる理由は、それか。


ここに来るまでずいぶん歩いたが、どこかに、外と繋がる空気の流れがあるって事が。


一方でカイルは、慌てた様子で地図を広げていた。


規模を測ろうとしてるのか、ぶつぶつ何かを呟いている。


ノルが戻ってくると、すぐにカイルが口を開いた。


「ノル。この空間は……あなたが一人で掘削したのですか?」


ノルは、静かに首を横に振る。


「じゃあ一体、誰が……」


「わからない」


短い返答。


だが、その言葉に引っかかる。


「……自然にできた洞窟なんじゃないのか?」


俺の問いにも、ノルは首を振った。


「違う。一週間くらい前にここへ到達して私も調べたけど……これは明らかに人の手が入ってる」


空気が、少しだけ張り詰める。


「ここは旧坑道って言ってたよね?」


ノルの問いに俺とカイルは同時に頷く。


それと同時に俺は昨日のノルの話を思い出していた。





『そっちは比較的新しく掘られたやつ』


最初に目に入った坑道を旧坑道なのか尋ねた時に、ノルは新しく掘られた坑道だと言っていた。


『おじいちゃんは新しい鉱脈を見つけたって、街中に触れ回った』


アイアンバレーの鉱石が枯渇し採掘が止まった後に、ノルのじいちゃんが掘削しだした坑道にも関わらず、“新”坑道ではなく“旧”坑道—





「……もしかしてここは、もともと存在してた坑道ってことか?」


ノルは頷いた。


「この街で一番古い坑道。いつ、誰が掘ったのかは誰も知らない」


「鉱石が一切採れなかったから、ずっと封鎖されてた」


「でも……おじいちゃんが、この先に新しい鉱脈があるって言ってから、また掘られるようになった」


「……結果は、何も出なかったけど」


ノルはそこで言葉を切り、周囲を見回す。


「代わりに出てきたのは――」


「ちょっと待ってください」


カイルが強く遮った。


「話がおかしい」


いつもの柔らかい口調じゃない。完全に“研究者”の顔だ。


「この空間は人の手で作られている。なのに、掘り進めた先にこれがある」


「それだとまるで――」


一瞬、言葉を選ぶように間を置く。


「誰かがこの空間を作ったあと、“わざと埋め戻した”としか考えられません」


沈黙が落ちる。


「……ここへ繋がる別の坑道は?」


「ないよ」


ノルは即答した。


つまり――


何者かの意図を匂わせる“不自然な構造”ってことだ。


ノルはリュックを下ろし、中から紙を二枚取り出した。


そのうちの一枚を、俺たちに見せる。


「これ、鉱床図」


そして、その古めかしい鉱床図の一点を指差した。


「鉱床図の到達地点はここ。だから、この辺りのどこかに……鉱脈があるはず」


その目には、迷いがなかった。


改めて周囲を見る。


確かに、ところどころ岩肌が削られている。

ノルが手あたり次第に採掘した形跡を感じる。


だが――


(広すぎる)


一方向に掘るのとはわけが違う。


当てずっぽうで探すしかないレベルだ。


(……時間がかかるな)


それでもやることは決まっている。


残り二日。


この旧坑道が崩壊する前に――


必ず、鉱脈を見つける。

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