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52話 得体の知れない存在···

「どうなってやがる……!?」


ガレドスが、自分の腕を押さえながら叫ぶ。


その目は、困惑と絶望がごちゃ混ぜになっていた。


さっきまで隆々としていた腕は、今や干からびた枝みたいに細くなっている。


……まぁ、そりゃそうなるか。


俺はというと――


焼け爛れた自分の腕なんて、気にする気にもならない。モンスターにはらわたを抉られた時の方がヤバかった。


(“溶かす”とか言う割に、大した事ないんだな)


そう思ったが、どうやら周りの見え方は違うらしい。


カイルもノルも、俺の腕を見て目を逸らしている。


まともに見れないって顔だ。


(……そんなに酷く見えてんのか?)


まぁいい。


「お前の何が特別なんだ?」


俺はそのまま、ガレドスに向かって言った。


ガレドスはじりじりと後ずさる。


だが、目だけは逸らせない。


その視線は――完全に“恐怖”だ。


「もしかして、もう少し待ってやれば、もっとすごいもんが見れたか?」


自分でもわかるくらい、軽い口調。つい期待混じりの言い方をしてしまった。


けど、その一言一言が、ガレドスの顔色を削っていく。


目に見えて、自信が剥がれていくのがわかる。


「付き合ってやれなくて悪いな。俺たち今、時間がないんだよ」


本音だ。


無駄に長引かせる気はない。


「……化け物が……」


ぽつり、と。


ガレドスの口からそんな言葉が漏れた。


その響きに、思わず笑いがこみ上げる。


「化け物か」


シルみたいな言い方に口の端が自然と上がる。


「そりゃいい」


まぁ、悪くない呼び方だ。





──────────


(こいつには……恐怖ってもんが通用しねぇのかよ……)


喉の奥が細くなり呼吸のしづらさを感じる。


目の前の男は、焼け爛れた腕なんて、まるでどうでもいいみてぇな顔で立ってやがる。


痛みがねぇはずがねぇ。


あーあ。と言いながら腕を見てはいるが顔色ひとつ変えねぇ。

腕というより服がダメになった事に落胆しているように見える。


「っつたく、銀貨払うって言ったのによぉ……」


その言葉で、俺は気づいた。


――ああ、そういうことかよ。


最初に会った時も、さっきも。


こいつは別に物分かりがいいわけじゃねぇ。


ただ、“関わるのが面倒だった”だけだ。


金で済ませようとしたのは、俺達に怯えてたからじゃねぇ。


ちょこまか飛び回る虫を、わざわざ追いかけて潰したりはしねぇ。

金で殺虫剤を買って、追い払う。


それと同じ。


(ふざけやがって……)


だが、その考えはそこで終わらないかった。


俺は攻撃した。


もし、煩わしく思ってた虫が、蜂だったら?

その蜂が自分を狙って刺してきたら…。


背中を冷たい汗が伝う。


しかも、自分の身内を狙い続けてる蜂なら?


初めて会った時と、今は違う。


目の前にいる“あの男”は、今ノルと行動してやがる。

ノルの側に立ってる。


そして俺は、そんな得体の知れねぇ存在に手を出しちまった。


(三日後に……俺が死ぬ……?)


あの言葉が、頭から離れねぇ。


(何を根拠に言ってやがる……)


意味がわからねぇ。


だが――


あいつの目は、冗談を言ってる目じゃなかった。


あれは確信してる目だ。


ただの脅しなんかじゃねぇ。


(……こいつら、理由はわからねぇが今は急いでやがる)


“時間がない”って言葉が、頭の中で何度も反芻される。


――つまり。


それが終わった後は。


(まさか……俺を殺しに来るってことか?!)


繋がってしまった。目の前の男の発した言葉の意味が。


(バケモンが三日後に俺を殺しに来る!)


そう確信すると視線が、勝手に自分の腕へ落ちた。


ミイラみてぇに干からびた腕。


さっきまで力を誇ってた自分の腕が、今じゃ見る影もねぇ。


(ふざけんじゃねぇ……)


こんなことを、一瞬でやりやがったんだ。


捕まったら終わりだ。何分もかからねぇ。


あっという間に、全身こうなっちまう。


想像しただけで、背筋が凍り、嫌な汗が、次から次へと噴き出してくる。


――その時だった。


ふと、違和感に気づく。


あの男の腕。


さっき、俺が焼いたはずの腕が――


元に戻っている。


皮膚も、肉も。


服まで、全部。


最初から何もなかったみてぇに。


(……は?)


夢でも見てんのかと、目を疑う。


だが――


足元に転がる炭になった布の破片が、風に煽られてパラパラと舞い上がると、それが現実だと突きつけてくる。


(俺は……何を見てやがる……)


理解できねぇ。


理解しちゃいけねぇ。


(バケモンとか……そういうレベルの話じゃねぇ……)


もっと、根本的に何かがおかしい。


頭の中に、ありありと浮かぶ。


自分の身体が、この腕みてぇに干からびていく光景が。


抵抗もできず、ただ朽ちていく未来が。


(……やべぇ)


口の中の水分が一気になくなり乾いていく。


(俺、死ぬ……)


それが、妙に現実味を帯びていた。



───────




「で、まだなんか俺たちに用あるか?」


面倒くささを隠す気もなく、そう言い放った瞬間――


ガレドスの巨体が、びくりと大きく跳ねた。


「い、いや……なんもねぇよ!」


声は裏返り口元が引きつっている。


「俺はこの街を今すぐにでも出てく……」


「だから……追わないでくれ!」


(なんだ?急に必死だな)

後ろにいた仲間たちも、何度も首を縦に振っている。


「追う?」


俺は一瞬だけ考えて、


「そんな面倒なことするわけないだろ。追われる心当たりでもあんのか?」


正直な感想をそのまま口にした。


(なんで俺が、こんなむさくるしい男どもを追い回さなきゃならんのだ)


そう思いながら軽く睨むと――


さっきまで茹でダコみたいに真っ赤だった顔が、今度は一気に真っ青になった。


「す、すまねぇ……!別に他意はねぇんだ……!」


「それなら、これでオサラバするぜ!」


「ノル、達者でな!」


気味の悪い愛想笑いを浮かべながら、どこか必死に取り繕うように言う。


「あー、そうだ」


俺が片手を上げて声をかけた、その瞬間――


「ヒィッ……!」


情けない悲鳴をあげて、三人はほとんど転がるように駆け出した。


腰が抜けかけてるくせに、逃げ足だけはやけに速い。


あっという間に姿が見えなくなる。


「……」


俺は片手を上げたまま、その背中を呆然と見送った。


(……腕、戻してやろうと思ったのに)


「ま、いっか」


軽くそう呟いて、周囲へ視線を向ける。


――ざわついている。


「腕が……」

「今の見たか……」

「神の御業じゃ……」

「相手の生気を吸い取ったように見えたぞ……」


野次馬どもが、好き勝手に騒いでいる。


(……これはマズいな)


こういう空気は面倒だ。


ここに長居して変に広まると厄介になる。


俺はまだ呆然としているノルとカイルの腕を掴んだ。


「行くぞ」


有無を言わせず引っ張る。


そのまま、ざわめきから逃げるように、その場を後にした。


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