50話 ノルへの提案···
雨の音だけが響く店の中で、ダグとリナは静かにカウンターに近づき、ノルの肩に手を添える。
そして、さっきまで床に散乱していた壊れた道具が綺麗な状態でカウンターに並べられているのを見ると息を飲んだ。
「道具が元に戻っている···これはいったい···」
そんな言葉がダグの口から漏れる。
シルは頬ずえをつきながら素知らぬ顔で違う方を見ていた。
あの様子からして、誤魔化す事を諦めたらしい。
(首突っ込んだ以上─、ちゃんと話さないとだよな)
ふぅと軽く呼吸を整えると、改めて三人を見る。
「俺の能力は時間魔法だ」
そう言うと、ダグとリナの表情が固まる。
ノルは眉間にシワをよせ首を少し傾ける。
カイルは俺たちに話を合わせる必要も、ザンク一家に隠す必要もなくなったと判断したのか、椅子から立ち上がるとそのまま姿勢を正して顔を伏せる。
それを見た二人はハッとした表情を見せると、慌てて床に手をついた。
その光景を見ていたノルは一歩、また一歩と後ずさっていく。
(やっぱりこうなるんだよな)
「あのさ···時間魔法って言ったけど、俺は貴族でもなんでもないからな?」
「その、仰々しいやつ止めてくれる?」
慌てて言うと、シルが気だるそうに口を開いた。
「本当だぞ?ルイはバケモンみたいな奴だけど、貴族じゃねぇよ。だから、そんな恐がんなって」
(ややこしい言い方すんなよ。それじゃあどっちにしろ恐いじゃねぇか)
しかし、俺の心配に反して三人はお互いに顔を見合わせると安堵の表情を見せた。
カイルだけが、姿勢を正したまま動かない。
シルはため息をつき、カイルの腕を強く引くとカイルはバランスを崩し椅子に着地する。
「俺は貴族じゃないが時間魔法を使える」
「俺の能力で坑道内の壁を部分的に時間を戻して補強する。揺れても簡単には崩れないようにするからその間にノルが採掘を進める」
「いちいち避難しなくてもいいから、作業効率もあがるだろ?」
「あとは、道具の補強とかもできるし。まぁ─、色々と役に立つと思うぞ?」
(なんたって、進化の針もあるからな)
俺の話に三人がついてこれない表情を見せるなか、カイルが片手を上げた。
(学校か!)
心の中でそんなツッコミをしつつ、カイルの発言を許す。
「時間魔法の代償はご存知ですよね?」
「ああ」
俺が短く答えるとカイルの表情が曇る。
「寿命が尽きるのが恐くないのかって?」
カイルの表情から、言いたいことを察して質問返すとカイルは静かに頷いた。
「俺は死なない。だから大丈夫だ」
俺のアッサリした回答を聞き、シルが横からつけたす。
「信じられねぇって思うかもしれないけど、今この瞬間から常識を捨てろ。全員だ!何も考えるな!」
「じゃないと、そのうちこっちが頭おかしくなるぜ」
頬杖をつきながら、呆れたように言う。
(なんて事言うんだ!)
「ルイがベルクハイムの片田舎でなんて呼ばれてたか教えてやろうか?」
「不滅の魔法士だよ」
「それはお前が言い出したんだろ」
すかさず言い返すと、シルは憎たらしく”べー”っと舌を出した。
「まぁ、あいつの言う通り俺の心配は不要だ」
ヘラりと笑って見せた後、改めてノルを見る。
「で、どうする?」
「坑道崩落まで三日。確実に鉱脈に到達する保証も、命が助かる保証もない」
「でも、今のままなら可能性は0。待ってるのは死のみ。それより少しはマシだろ?」
俺が緊張感もなく言い放つと、俯いていたノルは拳を握り締め顔をあげる。
「私は···あなたの言葉を信じる」
その瞳は絶望など見ていないようだ。
そんな娘の姿をダグは黙って見ていたが、ふぅと大きく深呼吸すると、立ち上がり改めて頭を下げる。
「ありがとう」
「別に礼を言われるような事はしてない。こうするほうが俺にも都合がいいんだよ」
その言葉に、ダグはふっと力を抜いて笑う。
「それでも─、娘が泣いたのも、誰かを信じるなんて言ったのも···長い間見る事がなかった」
「危ない事はして欲しくない。本音はコレだ」
「だが─、ノルは父に似たのか頑固な性格だ。これ以上、俺達がどんなに止めても、きっと考えを変えない」
「縛り付けて部屋に閉じ込めておく事もしたくない。だが、死にに行くのを黙って見送る事もしたくない···」
「不滅の魔法士と呼ばれる程の方が、娘に協力をしてくれるのであれば····」
「娘の我儘で危険な事に巻き込んでしまう事を申し訳なく思うが···」
ダグが頭を垂れたまま、長々と話しているのを断ち切るかのように
「いいんだよ!そんなの。本人が自分のためにやるってんだ。気にすんな!」
シルが横から口を挟む。
「……それより、アタシは腹が減った!いい加減この辛気臭い空気も暗い食堂も御免だ。もっとランタンに火を灯せよ」
「飯にするぞ!」
その言葉にリナは辺りを見回しハッとした表情を見せた後、慌ててランタンに火をつけていくと食堂に温かな光が溢れる。
シルの言葉に急かされるようにダグも慌ててエプロンを腰に巻く。
今回ばかりは、シルの豪快な性格に助けられた。正直、負い目のようなものを感じられても面倒だ。
「おい!ガキ!お前も一緒に飯食うだろ?」
シルはノルに向かって声を張ると、ノルは頬を膨らませた。
「ガキじゃない!私、15歳だよ?ガキって呼ばないでよ、おばさん!」
元気よく放たれた言葉。その一言に、シルが眉毛を釣り上げる。
「おいおい···最後の、アタシの聞き間違いか?」
「聞き間違いじゃないよ。おばさん!」
被せるように言うノル。
ガダン─
と大きな音を立て椅子から立ち上がったシルは、腕を組みながらノルに近づいていく。
「あたしはシルだ。おばさんじゃねぇ!」
「わたしはノルだよ。ガキじゃない!」
双方一歩も引かず睨み合いが続くと─、プッ、っと突然シルは吹き出してケラケラと笑い出した。
その姿に何故かノルの表情も和らぐ。
それを見ていたカイルが横でホッと安堵の息をつく。
タイミングよく、ダグが大皿を両手に抱えて料理を運んできた。
「野菜や肉を炒めて麺と混ぜただけだが、皆たくさん食べてくれ!」
そう言ってテーブルの真ん中に大皿を置くと、「待ってましたー!」とシルが声をあげ自分の皿に豪快に盛り付ける。
俺が席につくと、ノルも隣に座った。
賑やかになっていく食堂の中、ノルの「ありがとう」という小さな声が俺の耳にだけ届いた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回より、第2章 ─探鉱者ノルと坑道の謎─へと話が進んでいきます。
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引き続き、不滅の魔法士は死にたがる―寿命を削る時間魔法を使い続けていたら、不滅の魔法士と神格化されてた!を宜しくお願い致します。




