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49話 カウントダウン···

ノルは祖父の汚名を晴らしたい。

その一心で危険な坑道で採掘を続けてたわけか……。


かける言葉が見つからない。


だって、掘っても掘っても鉱石一つ出てこないんだろ?


じいさんが嘘ついてたとまでは言わないが、勘違いだった可能性もある。


(けど——そんなこと言える雰囲気じゃないよな)


ノルをチラリと見て俺は大きくため息をつく。


(幸運のシッポとかいうのを追った結果がこれかよ……。街の厄介者と関わっちまったじゃねぇか……)


(関わらなきゃ、こんな話聞くこともなかったし、さっさと坑道戻して先へ進めたはずなのに)


俺はそんなことを考えながら、シルを睨む。


シルは『あー面倒くせぇ』と言いたげな表情をしていたくせに、俺と目が合うとニコリと微笑んだ。


(こいつの能力自体が……マジで詐欺なんじゃないか?)


ノルが今ここにいる以上、目の前で坑道を直すなんてことしたら——

一生恨まれそうだ。


(小心者の自分が嫌になるわ……)


今後の作戦を早急に考える必要がある。

王都経由でクレジオルムへ向かうことも視野に入れるしかない。


そんなことがグルグルと頭の中を巡り、気づいた時には宿屋へと帰っていた。


真上にある太陽の暖かさを遮るように、分厚い雲が立ち込めて一雨来そうな臭いがする。


重い身体を引きずるようにノルが扉を開けると、薄暗い客席に座っていたダグとリナが勢いよくこちらを見た。


きっと、長い時間そこでノルの帰りを待っていたんだろう。


リナが素早く立ち上がりこちらへ駆け寄ると、ノルの腕を強く引っ張る。


その勢いに抵抗することなく、ノルは黙って連れられていく。


「ノル……あなた、何を考えてるの……」


リナは小さな声で話すが、静まり返った食堂ではあまり意味がない。


「何でわかってくれないの……」


声が震えているのがわかる。


ダグはリナの震える肩に手を添える。


「お客さんの前だ。後で三人で話そう」


そう冷静に言ってはいるが、表情は険しい。


ノルは感情を押し殺すように、強く唇を噛みながら俯いている。


そんな光景を店の入口に突っ立ったまま見ていた。


こんなやり取りを下手したら明日も見る事になる。そんなの御免だ。


そう思ったと同時に、俺の口からは自然と言葉が出ていた。


「話したいことがあるなら、今話せばいいんじゃないか?」


「俺は別に気にしない」


(それで、さっさと採掘を諦めさせてくれ)



「しかし……」


ダグがそう言いかけたところで、


「アタシも気にしない。つーか家族の問題に首突っ込む気はねぇけど、早く解決してくれた方がこっちも動きやすいんだよ」


遠慮のない言い方だが、シルも俺と同じことを考えているのがわかった。


「僕も……こういうことはちゃんと、すぐに話し合うべきかと……」


カイルは遠慮がちに言う。


俺たちはそれぞれ近くにあった椅子に腰掛ける。


「気を遣わせてしまって——申し訳ない」と言いながら、ダグが深く頭を下げた。


その様子を見ていたノルの唇が震える。


「もう!! 行かないよ! 旧坑道! 採掘もしない!!!」


そのままリュックを乱暴に広げ、逆さまにして振る。


ボロボロになった道具たちが、けたたましく音を立て床のあちらこちらに散らばった。


リナは乱暴に振り払われた手をそのまま口元へ運び言葉を失っている。


「おじいちゃんから貰った道具もこんなになっちゃったし!……こんなんじゃ採掘なんてできないもん!!」


「だから! もういいでしょ!! おしまい! 全部終わりでいいよ!」


誰も喋らない静寂の中、ダグだけが声を落とす。


「そうか……」


「もう、あそこへ行かないなら、それでいいんだノル」


優しい声音。そのままノルの頭に手を乗せる。


ノルの感情的な言動に反して、両親はどこかほっとした表情を見せている。


それがわかったのか、頭に乗せられたダグの手を振り払うと


「行かないよ!」


そう吐き捨てるように言って、ノルは階段の方へと歩き出す。



「お前、嘘つきだな」



その言葉にノルの足がピタリと止まる。


「孫が嘘つきだと─鉱脈の話も当てにならないな」


ノルはゆっくりと振り返ると、憎しみのこもった目で俺を見た。


ダグとリナは、俺の言葉に戸惑いを滲ませ顔を見合わせる。


「なんなの···? あなた何が言いたいわけ……?」


ノルは拳を握りしめ、ワナワナと震えている。


「別になにも?」


「今言ったこと取り消して!!」


「やだね。だって——お前、嘘ついてるじゃん」


その言葉にノルは、わざと大きな音をたてるように歩きながら俺の前までくる。


「私がどんな嘘ついたっていうの!」


ノルの眉間にシワが寄り、口元がつり上がっていく。


「あなた頭おかしいんじゃないの!」


小馬鹿にしたように言うノルから視線を逸らさずに


「それは、お互い様なんじゃねぇの?」


そう言って鼻で笑ってみせた。


リナが俺たちの一触即発状態のやり取りに耐えかね間に入る。


「あの——いったい何の話を……」


俺は威嚇するような目つきのノルから視線を外すと、ダグとリナを見た。


「こんなこと言って、はいそうですかと納得できないかもしんないけど——」


「このままじゃ、あんた達の娘─」


「三日後に死ぬぞ。死因は——坑道の崩落に巻き込まれるって感じだな」


まるで時間が止まったかのように、そこにいた全員の動きが止まる。


──────

名前:ノル・ザンク   TMゲージ:003**/85

スキル:巨人のツルハシ


特徴:鉱山育ち/負けず嫌い/努力型/採掘/腕力/持久力/破壊効率が大幅上昇/反抗的/感情抑制


【死期】3日後

【死因】坑道崩落による外傷性ショック

──────


(これ、確実に坑道へ入るってことだろ。道具もないのに何でだ? 頭おかしいだろ)


(それに朝ステータスを見た時には、死期も死因もなかったし、こんなにゲージが短くもなかった)


俺はステータスを見ながら首を傾けていた。


すると─


「あなた——何者なの?」


小さな声と共に、さっきまで威嚇していたノルの目は畏怖の目へと変わり、俺を捉えているのがわかった。


「俺が何者かなんてどうでもいい」

「今のが答えだろ?」


その言葉にノルは首を傾げる。


「俺の言った事がまったくの見当違いなら─

普通はバカにしたり、呆れたりするだろ?」


「何を馬鹿な事言ってんだよってな」


「けど、お前は何者か尋ねた──当たってたから気になったんじゃないのか?俺が何者なのか」


その問いにノルはグッと口元を閉じた。



「ルイは人の寿命が見れる···」


シルはため息をつきながら誰に話すでもなく呟く。


「···能力もな」


その言葉に、ノルは俺から視線を外し小さく舌打ちをした。


それとは逆にダグとリナとカイルの視線が突き刺さっているのがわかった。


「そんな能力、今まで聞いた事ないです···それに、あなたは─」


そう言いかけカイルは口をつぐむ。


「別に信じてほしいとか思ってない。怪しいと思うのは自由だ」


両手をあげて、淡々と言い放つ。


「けど─、俺がこんな嘘ついて何か得があるか?」


ダグは視線を落とした後、ゆっくりとノルへ近づいて聞いた。


「嘘なんて···ついてないよな?」


優しく穏やかな目が、娘の言葉を信じると主張しているように俺には見えた。


ダグの目を見ないノル─見れないと言った方が正しいのかもしれない。


「私は····」


言葉が続かない。


「ノル─お前の···本当の気持ちを教えてくれ」


ダグとリナの切実な願い。



「私は─」



「死にたい」



ノルの掠れた声に真っ先に反応したのは血の気を失った顔色のリナだった。


「この街から出ましょう!今すぐ!私達の事なんて誰も知らない場所で一からやり直せばいいわ!」


シルやカイルもその言葉に同意するかのように、大きく頷いている。


「そうだな···」


そう言うと、ダグは目を瞑り俯く。



「逃げるの···?」


「おじいちゃんを嘘つきのままにして···。そんなの嫌だ···」


ポツリとノルが言う。


「じゃあ!どうしろと言うの!」

リナは力を無くしたように膝から崩れる。


「だから!私は、石を打ってでも···最後まで採掘するよ─」


「あと少し····あと少しで!おじいちゃんが残した*鉱床図の場所から鉱脈が見つかる!諦めない!」


「この人が言った通り、もし本当に三日後に、坑道が崩れてしまうなら─、見つける事ができないまま終わるなら···私はそのまま死にたいの!」


「だから····、お母さんとお父さんはこの街を離れてよ」


そう言って苦笑いを見せたノルの表情は、どこか両親へ対する罪悪感を浮かべていた。


声を上げて泣き崩れるリナ。



「何が死にたいだよ···」

目の前で展開される悲惨な現状の中で、呟くように吐き捨てた俺の言葉が低く響いたのがわかった。


(俺からしたら、誰よりも生きたがってるようにしか見えねぇんだよ)


握りしめられたノルの細く華奢な手は傷だらけで、雑に手当したような大きな痕ばかりが目立ち、擦り切れて汚れた作業服からは採掘の過酷さが垣間見れる。


同じ年頃の娘なら好きな服を着て出かけて、甘いもんでも食いながら友人と恋愛の話とかで盛り上がってるはずだ。


「何が何でも生きたいから、ここまで泥臭く必死になれるんだろ?」


(“死にたい”同じ言葉を吐くのに、その性質は真逆だな)


「俺とは大違いだ!」

そう言って笑って見せると立ち上がり一つ、手を叩く。


呆気に取られたようにノルは俺を見あげた。


ノルの話を聞いていて、俺のやる事は決まった。


「あと少しで到達するって確かに言ったよな?」


ノルは小さく、だが、力強い目で頷く。


「それなら、そこまでの道のりを俺が支援してやるよ」


ノルはその言葉の意味を確認するように、目を細めて尋ねてくる。


「どういうこと?あなたが三日後に坑道が崩落するって言ったんじゃない」


「一緒に死ぬ気?」


「いや?猶予は三日だ。それまでに鉱脈の場所まで掘り進めて戻ってくりゃいいだけだろ?」


(俺は何があっても死なないが、ノルは違うからな)


ダグはリナの肩を抱えて立ち上がらせると、話が見えないという表情を見せていた。


「採掘はそんなに簡単じゃないよ!あと少しって言ったけど二、三日でどうにかなるような話じゃ─」


ノルが話している途中で、俺は歩き出し話を遮るように言葉を被せる。


「やるんだよ。それを。期限は絶対に三日だ――いや、日をまたげば残り二日だ」


ノルの方を振り向く事もなく指を二本立てた後、床にばら撒かれた道具を一つ一つ拾い上げていく。


ひび割れたヘルメット、衝撃で潰れたライト、持ち手に血の跡を残したまま折れた道具達、へこんだ水筒に、皮の切れたツールベルト、穴の空いたリュック。


その光景を、瞳を揺らしながら見ているノルは、朝のように“触るな”とは言わない。


シルは額に手を当てている。

言いたい事はわかる。


このままこの街で三日間を過ごし、そこからクレジオルムへ向かうより、明日にでもこの街を発つ方が多少到着は早いかもしれない。


けど─、同じ時間をかけるなら····ここでゴッソリと寿命を削っとく方が断然お得だ。


それに、このままほっとけばノルは確実に死ぬ。


俺はダグとリナの憔悴しきった顔を見て頭を搔く。


(一家心中なんて結末になったら、後味が悪すぎるんだよなぁ···)


完全に自己保身だ。

そもそも、この家族に関わるキッカケを作ったシルにあんな顔をされる筋合いはない。


「よし!」


そうと決まればちゃっちゃとやるか!


カウンターに丁寧に並べたノルの道具の一つ一つに手をかざす。


シル以外の視線が集まる中─

心臓の辺りに温かさを感じるとすぐ、目の前にあった道具達が静かに蘇っていく。


ダグとリナとカイルは、ほんの一瞬の出来事にまだ何が起きたのか気づいていない。


ノルだけがカウンターに駆け寄り、次々と道具を手に取ると俺を見上げた。


「家が突然綺麗になってたのも、あなたの力だったのね···」


そう呟くと信じられないと言いたげな表情を見せる。


「これで、石を使って採掘しなくて済むだろ?」


ノルは瞬きを忘れて道具と俺を交互に見つめたかと思うと、俯いたまま動きを止めた。


街の奴から馬鹿にされていた時も、大事な道具が潰れた時も、死にたいと口にした時ですら唇を噛んで耐えていたよな。

感情の抑制─。そういう意味か。


「俺はお前のじぃちゃんと、お前の話を信じる」

俺の言葉に、ノルは大きく目を見開きこちらを見つめる。


「お前や、お前のじいちゃん程、馬鹿正直で真っ直ぐな奴が、嘘つきなわけないだろ?」


ニヤリと笑って見せると、ノルは唇を固く結んだ。


そして─


その瞳から一雫の涙が落ちて、ポツリとカウンターに音を立てる。


ポツリ、ポツリという小さな音を隠すように、外の雨音が徐々に大きくなり食堂に響く。


それはまるで、一人の少女が今まで溜めていた涙を天が代わりに流しているような、そんな雨だった。




*鉱床図=有用な鉱物がどこにあるかを示した地図


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