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32/91

32話 ガラクタの山···


名前:天城 塁

TM:99620 / 99999


スキル:

時間操作魔法


特徴:

甘ったれ/無趣味/鈍感/死にたがり/新鮮な野菜の使い手/進化の針を進める者/リホーム技術者/個体増殖/細胞生成/そこそこの知能



(……まだまだ、か)


表示された数値に、小さく肩を落とす。


減ってはいるが——終わりには程遠い。


短く息を吐き、視線を上げると、庭を見ているオレオの隣に立った。


「……庭が立派になるとさ」


「なんか、お前の家が古臭く感じるな」


皮肉っぽく笑うと、オレオは一瞬きょとんとして——すぐに笑った。


分かっている顔だ。


俺は家の壁に手を置き、時間を巻き戻す。


歪みが消え、色が戻り、形が整う。家はこの村で一番綺麗な姿へと生まれ変わった。


小さく息を呑む気配。


エレナだ。


何かを思い出したように、目を潤ませている。


俺は何も言わず手を離す。


「……中もやるか」


家の中へ入り、布団や衣服、家具や細かな道具にまで手を入れる。時間を戻し、整え、補うことで、生活の形を残したまま全てを“良い状態”へと戻した。


台所にあった野菜や果物を切り分け手にすると、外に出で整えられた庭を一瞥し思考を練る。


どこに何を埋めていくか決まったところで、細く長い木の枝を立ててその下の土にそれらを埋め、時間を進める。


芽が出て、伸び、葉を広げ、そのまま一気にトマトは実をつけた。

他の野菜も同じようにしていく。


続けて、少し硬い土を均し、果物の種を埋める。


時間を進めると、土を割って芽が出て、幹が伸び、枝が広がり——やがて立派な木となり、枝には瑞々しい果実が実った。


「……こんなもんか」


軽く手を払う。


振り返ると、オレオがじっとそれを見ていた。


「やってみろ」


俺は野菜や果物を収穫すると、それらの時間を進め、種の状態にした所でそれをできるだけ細かく割り増殖させていく。


こいつは種から育てるしかない。


オレオは真剣な顔で頷き、種を受け取ると同じように種を埋める。


思い出すように、なぞるように。


土がわずかに揺れ、芽が出る。


ゆっくりだが——確実に成長していく。


野菜は形になり、果物の木も小さく芽吹いた。


時間はかかるが、どんどん成長していく。


「……できた」


小さく呟く声には、驚きと喜びが混ざっていた。



これなら今後、食い物には困らないな。


周囲を見渡す。


青々とした畑。


それを見たエレナは、まだ信じきれていないような表情だ。


その横で——


「うまっ」


シルが果物をもぎ取っていた。


「……最高にみずみずしいな!」


頬を緩めるその手を掴み、果物を取り上げる。


「働かざる者食うべからず」


「は?」


「草むしりと薪割り」


舌打ちしながらもダルそうにシルは動き出し、エレナも笑いながらその横で草を刈り始めた。



やがて、賑やかな声に引き寄せられるように村人たちが集まり始める。


最初に現れたのは一人の女で、何気なく視線を向けて——そのまま足を止めた。


「……え?」


小さな声が漏れる。


見慣れているはずの家と庭。


だが、整った壁、歪みのない柱、そして畑いっぱいに実る野菜と果実をつけた木々に、明らかな違和感を覚える。


「……どうなってるの」


思わず近づく。


その声に釣られて、別の村人も顔を出し——同じように言葉を失った。


「……エレナの家、よね……?」


確認するような声。


そこへ、


「おはようございます」


穏やかな声が重なる。


そちらへ視線を向けた村人たちが、息を呑む。


「……エレナ……?」


血色の戻った顔、しっかりと立つ姿。


病人の弱々しさは、どこにもない。


ざわめきが広がる中、視線がエレナから家へ、畑へ、そして——オレオへと移る。


「……あれ……」

女が静かに呟く。


オレオの背中に、淡い光が揺れていた。


羽のような形。


やわらかく、それでいて確かに存在する光。



空気が変わる。


困惑から、理解へと傾いていく。


視線が辿る。


羽の光——オレオ——そして、その隣に立つ俺。


「……まさか……」


息を呑む声。


断片が繋がる。


帰らずの森から突然現れた不審な男、エレナの回復、生まれ変わった家、実る畑、そして——オレオにの背中にある光。


「……全部……あの男が?」


静寂の中、やがて一人の老人が膝をついた。


「……神じゃ……あの方は神様だったんじゃ···」


その様子にオレオやシルも気づき庭の外へ目を向ける。


その言葉をきっかけに、村人達に動揺が広がっていくと、周囲も次々と膝をついていく。


頭を下げる。


祈るように。


(だからなんでそーなるんだよ!)


俺は心の中で思わず突っ込む。




ざわめきは、やがて形を持ち始める。


「……お願いします……!」


誰かが、声を上げた。


「うちも……家が壊れそうで……」


「子どもが……ずっと腹を空かせてて……」


次々と、言葉が重なる。


必死な声。


さっきまで“神様”と呼んでいたその口で、今度は願いをぶつけてくる。


(……まぁ、そうなるか)


俺はその様子を眺めながら、内心で呟いた。


正直——悪くない話ではある。


使えば使うほど寿命が削れる。


それはつまり、自分にとっては“前に進む”ということだ。


だが——


(……なんだかな)


視線を少しだけ逸らす。


エレナとオレオの家。


つい昨日まで、悲惨な状態だった。


村の中で一番貧しい親子。


それを——


誰も、助けなかった。


(全員、余裕がないのは分かる)


それでも。


一かけらの肉。


一切れの野菜。


それくらいなら、分けることもできたはずだ。


(見て見ぬふり、だろ)


胸の奥に、わずかな引っかかりが残る。


無償で応じるには——少しだけ、癪に障る。


その時だった。


「……はは」


横で、小さく笑う声。


シルだ。


ゆっくりと前に出る。


片方の口角だけを上げて、村人たちを見渡した。


「お前らさ」


軽い調子で言う。


「何か差し出せるのか?」


空気が止まる。


ざわめきが、ぴたりと消えた。


「……なにか、って……」


戸惑う声。


シルは肩をすくめる。


「何でもいいよ」


あっさりとした口調。


「この家に足りない物でもいいし、無いような物でもいい」


指で軽く周囲を示す。


「使い道が分かんねぇようなもんでもいいし、壊れてても構わねぇ」


一歩、踏み込む。


「神に何か頼み事するならさ──供え物が必要だろ?」


その言葉が、静かに落ちる。


村人たちは顔を見合わせた。


迷いと戸惑いが交錯する中——やがて一人が頷く。


「……分かった」


それをきっかけに、


「家、戻るぞ」


「何かあるはずだ……!」


次々と踵を返し、砂を踏む足音が遠ざかっていった。




「村人の要求、あのまま飲み込むつもりだっただろ?」


横からシルの声。


腕を組んだまま、こちらを見ている。


「……別に、そんなつもりはない」


短く返すと、


「そうか?」


と軽く笑う。


「まぁ嫌なら難癖つけて断りゃいい。けど——どうせやるなら、きっちり報酬は貰わなきゃな」


口角を上げる。



やがて、村人たちが戻ってきた。


手に何かを抱えて。


石のように硬い干し肉、元気のない鶏一羽、何をしても育たない果物の種——"一応"考えて持ってきた物もあれば、


ひび割れた骨董品や瓶、壊れた家具、割れた食器類、虫食いの服、どこで着るのか不明の汚れたドレス、刃こぼれした道具類、枠の取れた樽や錆と穴だらけのドラム缶などなど、ゴミ捨て場から拾ってきたゴミだな。と言わざるを得ない物が大半を占める。


だが——


申し訳なさそうに躊躇いながら置く手、下げられる頭。


それぞれなりの“差し出し”だった。


気づけば、家の前には小さな山ができていた。


「……物がない奴もいるみたいだな」


そう呟くと、数人が前に出る。


「俺たちは……労働で」


四人の男たちは地面を指す。


「ここに井戸を掘る。時間はかかるが……それじゃダメか?」


まっすぐな目だった。


(……悪くない)


シルも同じらしく、


「いいじゃねぇか」


と満足そうに笑う。


俺は両手を上げてふっと笑いながら


「……じゃあ、やるか」


そう言って、歩き出した。

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