32話 ガラクタの山···
名前:天城 塁
TM:99620 / 99999
スキル:
時間操作魔法
特徴:
甘ったれ/無趣味/鈍感/死にたがり/新鮮な野菜の使い手/進化の針を進める者/リホーム技術者/個体増殖/細胞生成/そこそこの知能
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(……まだまだ、か)
表示された数値に、小さく肩を落とす。
減ってはいるが——終わりには程遠い。
短く息を吐き、視線を上げると、庭を見ているオレオの隣に立った。
「……庭が立派になるとさ」
「なんか、お前の家が古臭く感じるな」
皮肉っぽく笑うと、オレオは一瞬きょとんとして——すぐに笑った。
分かっている顔だ。
俺は家の壁に手を置き、時間を巻き戻す。
歪みが消え、色が戻り、形が整う。家はこの村で一番綺麗な姿へと生まれ変わった。
小さく息を呑む気配。
エレナだ。
何かを思い出したように、目を潤ませている。
俺は何も言わず手を離す。
「……中もやるか」
家の中へ入り、布団や衣服、家具や細かな道具にまで手を入れる。時間を戻し、整え、補うことで、生活の形を残したまま全てを“良い状態”へと戻した。
台所にあった野菜や果物を切り分け手にすると、外に出で整えられた庭を一瞥し思考を練る。
どこに何を埋めていくか決まったところで、細く長い木の枝を立ててその下の土にそれらを埋め、時間を進める。
芽が出て、伸び、葉を広げ、そのまま一気にトマトは実をつけた。
他の野菜も同じようにしていく。
続けて、少し硬い土を均し、果物の種を埋める。
時間を進めると、土を割って芽が出て、幹が伸び、枝が広がり——やがて立派な木となり、枝には瑞々しい果実が実った。
「……こんなもんか」
軽く手を払う。
振り返ると、オレオがじっとそれを見ていた。
「やってみろ」
俺は野菜や果物を収穫すると、それらの時間を進め、種の状態にした所でそれをできるだけ細かく割り増殖させていく。
こいつは種から育てるしかない。
オレオは真剣な顔で頷き、種を受け取ると同じように種を埋める。
思い出すように、なぞるように。
土がわずかに揺れ、芽が出る。
ゆっくりだが——確実に成長していく。
野菜は形になり、果物の木も小さく芽吹いた。
時間はかかるが、どんどん成長していく。
「……できた」
小さく呟く声には、驚きと喜びが混ざっていた。
これなら今後、食い物には困らないな。
周囲を見渡す。
青々とした畑。
それを見たエレナは、まだ信じきれていないような表情だ。
その横で——
「うまっ」
シルが果物をもぎ取っていた。
「……最高にみずみずしいな!」
頬を緩めるその手を掴み、果物を取り上げる。
「働かざる者食うべからず」
「は?」
「草むしりと薪割り」
舌打ちしながらもダルそうにシルは動き出し、エレナも笑いながらその横で草を刈り始めた。
⸻
やがて、賑やかな声に引き寄せられるように村人たちが集まり始める。
最初に現れたのは一人の女で、何気なく視線を向けて——そのまま足を止めた。
「……え?」
小さな声が漏れる。
見慣れているはずの家と庭。
だが、整った壁、歪みのない柱、そして畑いっぱいに実る野菜と果実をつけた木々に、明らかな違和感を覚える。
「……どうなってるの」
思わず近づく。
その声に釣られて、別の村人も顔を出し——同じように言葉を失った。
「……エレナの家、よね……?」
確認するような声。
そこへ、
「おはようございます」
穏やかな声が重なる。
そちらへ視線を向けた村人たちが、息を呑む。
「……エレナ……?」
血色の戻った顔、しっかりと立つ姿。
病人の弱々しさは、どこにもない。
ざわめきが広がる中、視線がエレナから家へ、畑へ、そして——オレオへと移る。
「……あれ……」
女が静かに呟く。
オレオの背中に、淡い光が揺れていた。
羽のような形。
やわらかく、それでいて確かに存在する光。
空気が変わる。
困惑から、理解へと傾いていく。
視線が辿る。
羽の光——オレオ——そして、その隣に立つ俺。
「……まさか……」
息を呑む声。
断片が繋がる。
帰らずの森から突然現れた不審な男、エレナの回復、生まれ変わった家、実る畑、そして——オレオにの背中にある光。
「……全部……あの男が?」
静寂の中、やがて一人の老人が膝をついた。
「……神じゃ……あの方は神様だったんじゃ···」
その様子にオレオやシルも気づき庭の外へ目を向ける。
その言葉をきっかけに、村人達に動揺が広がっていくと、周囲も次々と膝をついていく。
頭を下げる。
祈るように。
(だからなんでそーなるんだよ!)
俺は心の中で思わず突っ込む。
ざわめきは、やがて形を持ち始める。
「……お願いします……!」
誰かが、声を上げた。
「うちも……家が壊れそうで……」
「子どもが……ずっと腹を空かせてて……」
次々と、言葉が重なる。
必死な声。
さっきまで“神様”と呼んでいたその口で、今度は願いをぶつけてくる。
(……まぁ、そうなるか)
俺はその様子を眺めながら、内心で呟いた。
正直——悪くない話ではある。
使えば使うほど寿命が削れる。
それはつまり、自分にとっては“前に進む”ということだ。
だが——
(……なんだかな)
視線を少しだけ逸らす。
エレナとオレオの家。
つい昨日まで、悲惨な状態だった。
村の中で一番貧しい親子。
それを——
誰も、助けなかった。
(全員、余裕がないのは分かる)
それでも。
一かけらの肉。
一切れの野菜。
それくらいなら、分けることもできたはずだ。
(見て見ぬふり、だろ)
胸の奥に、わずかな引っかかりが残る。
無償で応じるには——少しだけ、癪に障る。
その時だった。
「……はは」
横で、小さく笑う声。
シルだ。
ゆっくりと前に出る。
片方の口角だけを上げて、村人たちを見渡した。
「お前らさ」
軽い調子で言う。
「何か差し出せるのか?」
空気が止まる。
ざわめきが、ぴたりと消えた。
「……なにか、って……」
戸惑う声。
シルは肩をすくめる。
「何でもいいよ」
あっさりとした口調。
「この家に足りない物でもいいし、無いような物でもいい」
指で軽く周囲を示す。
「使い道が分かんねぇようなもんでもいいし、壊れてても構わねぇ」
一歩、踏み込む。
「神に何か頼み事するならさ──供え物が必要だろ?」
その言葉が、静かに落ちる。
村人たちは顔を見合わせた。
迷いと戸惑いが交錯する中——やがて一人が頷く。
「……分かった」
それをきっかけに、
「家、戻るぞ」
「何かあるはずだ……!」
次々と踵を返し、砂を踏む足音が遠ざかっていった。
⸻
「村人の要求、あのまま飲み込むつもりだっただろ?」
横からシルの声。
腕を組んだまま、こちらを見ている。
「……別に、そんなつもりはない」
短く返すと、
「そうか?」
と軽く笑う。
「まぁ嫌なら難癖つけて断りゃいい。けど——どうせやるなら、きっちり報酬は貰わなきゃな」
口角を上げる。
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やがて、村人たちが戻ってきた。
手に何かを抱えて。
石のように硬い干し肉、元気のない鶏一羽、何をしても育たない果物の種——"一応"考えて持ってきた物もあれば、
ひび割れた骨董品や瓶、壊れた家具、割れた食器類、虫食いの服、どこで着るのか不明の汚れたドレス、刃こぼれした道具類、枠の取れた樽や錆と穴だらけのドラム缶などなど、ゴミ捨て場から拾ってきたゴミだな。と言わざるを得ない物が大半を占める。
だが——
申し訳なさそうに躊躇いながら置く手、下げられる頭。
それぞれなりの“差し出し”だった。
気づけば、家の前には小さな山ができていた。
「……物がない奴もいるみたいだな」
そう呟くと、数人が前に出る。
「俺たちは……労働で」
四人の男たちは地面を指す。
「ここに井戸を掘る。時間はかかるが……それじゃダメか?」
まっすぐな目だった。
(……悪くない)
シルも同じらしく、
「いいじゃねぇか」
と満足そうに笑う。
俺は両手を上げてふっと笑いながら
「……じゃあ、やるか」
そう言って、歩き出した。




