コイバナ
映像が切れると6畳の狭い鉄の部屋が広がっていた。
胸の内に感動を覚えつつ、冷静な自分が問いかけてくる。
いいように騙されていないか?
ちょっと前まで私を非難していたのに。
先生の手のひらがくるっくる。AIとはおもえない変わり身の早さ。まるで宇宙政府みたい。
そのまま出てもよかったが、壁に耳を当てて中の様子を調べた。隣も同部屋になっていて、後から来ていたミュートさんが話しているんだろう。ただ内容はわからない。
また揉めてなければいいけど。
いつまでたっても終わらないので、諦めて3D映像室を出る。
ふぅと胸を撫でおろして、不意に正面をみるとユーリちゃんが仁王立ちしていた。
「!」
私は驚きながら廊下を駆けだそうするーーが、もう遅い。
ユーリちゃんが腕を伸ばして顔の横に手を置いた。壁ドンだ!
うぅ、逃げられない!
「んふふふ、待ってたよツクモちゃん。長いお泊りデートはどうだった?」
「語弊だよ! そんな関係じゃないよ!」
そういうと、ユーリちゃんの目が座った。怖いよ!
「私、先生に減棒くらったんだけど……。見返りはあるの?」
「それは、私が後で先生に説得するから!」
ユーリちゃんは不機嫌な顔をしたまま、私の胸元に人差し指を当てる。
「好きな人と一つ屋根の下で暮らしていたのに、何もなかったなんていうんじゃないよね?」
「ちょ、まだミュートさんが中だから! 聞こえちゃうから!」
「じゃあ何かあったか教えてね?」
笑顔を向けているが目が笑っていない。
こんな怖い子だったっけ?
ユーリちゃんは腕を組んだ後、力いっぱい私を引っ張っていく。まるで警察に捕まった犯罪者みたいだ。なんで、今回は法に違反してないのに!
「離してください、私は何もやってないです!」
「はいはい。事情は後で聞きますから」
ユーリちゃんの自室が牢獄みたいに感じられた。
ユーリちゃんの自室を出た後、私はぐったりした。
ミレイヤさんにシード264を落としたとき以上に長い尋問だった。おしりの毛までむしろ取られたってこういうことか。
聴取は、トネリコの出発前から行われた。
リツキさんが髪を切ろうとしても断られ、私にはいつものセリフで許したこと。
これまでだんまりを決め込んでいたのに、私に過去を話してくれたこと(これでユーリちゃんにはミュートさんの生い立ちを知ってしまった)。
衛星オーリスの液体コアまで行くまでの間、やたら饒舌だったこと。帰りの旅でも、普通に会話ができて、互いの髪を切ったこと。
好きな髪形を知って、週に1回くらい意識して変えたこと(そのときのミュートさんは、ちょっと視線を感じた)。
ユーリちゃんは終始ニヤニヤしていた。それから? それから? と急かしていたのを記憶している。
何度死にたいとおもったことか! 惚気で人は死ぬと初めておもった。
もう絶対に、誰かに貸しをつくったりしない!
聴取を終えたユーリちゃんは満足そうに、
『あとは告白を待つだけだね!』
と能天気に私を見送った。
ユーリちゃんは知らないから言えるんだ。
あのむっつりから告白されるなんて天文学的に難しいことを。
ていうか、私って好かれているのか?
せいぜい友人以上恋人未満の関係じゃないのか。
パパとかママとか、思春期ってのを過ごせば、男女の関係もわかりそうな気がするけど、私には経験がない。やばすぎる。
ピアートが人が住める星になったとき、私たちが招待されて、夕日をバッグに告白されるのだろうか。
んなあほな!
あのムービーマニアがそんなロマンチックなことをするとは到底おもえなかった。




