三途の川
目が覚めると船内にいた。身体は上下に波打っていて、いくつかの電子音が鳴っている。
モニターの計器は正常の値を表示されて、画面には波打つ海が見えた。
――三途の川じゃないよね?
横をみると、ミュートさんが口をあけてよだれを垂らしながら寝ていた。
機器の異常を確認するため各種操作すると、現在地が表示される。
惑星ピアート。
それも近くにホバークラフトの空母があるようだ。
ケインさんは?
後ろを見るが、空いた座席があるだけだ。シートベルトを外して立ち上がったそのとき、ある物がないと気づいた。
ブラッドゴールドだ。
どこかにいったんだろうか。座席を立って船の後部に向かうと、トイレや居間や私とミュートさんのプライベートルームに入る。
どこにもいない。
まさか一人で外にでたのだろうか。
いや、ありえない。外は暗くて極寒だ。まともに母艦へ帰れるわけなかった。
ーーでも、ケインさんは私たちを置いて消えた。
操舵室に戻ると、気を失っていたミュートさんの肩を揺らした。
「起きてください!」
「ここは? 俺たち死んだのか?」
「いえ、生きてます。液体コアに刺激を与えた後、逃げている最中に光に包まれてここへ戻ってきたんです」
「そうか……無事だったわけだな」
ミュートさんは涎を手で拭くとツナギの脇で拭いた。汚いな!
「でも、どうしてワープできたかわからないです」
「ケインがやったんだろ」
え?
動揺する私をよこにミュートさんが周囲をみる。
「その張本人はどこにいる?」
「消えたんです。おそらくブラッドゴールドをもっていって」
ミュートさんは安堵するように息をついた。
「なるほど…… 。俺たちは上手く出し抜かれたわけか」
まっっったくわけがわからない!
「ミュートさん! 最初から教えて下さい!」
彼はシートベルトを外して首を回すと、転がっているボトルをもってストローで水を飲んだ。
「これは推測だが、 ケインと名乗る男はピアート人ではない」
ウソ……そんなの疑ったことなかった 。
「根拠は何ですか?」
「あいつが俺たちと接していた頃、ピアートにはワームホールを形勢しなくてもワープできる技術があるといったろ? あんなのはデタラメだ。イース人の技術はコールドスリープが精々だし、ワープ技術があれおそらく宇宙に出ることも可能だった」
私は腕を組んで宙に目をやった。
「でも、何かの制約でいけなかったかもしれませんよ」
「それは俺も知らない。だが、シード264の転移が可能なら、眠っている奴らを政府の船に乗せて一時避難もできたはずだ」
「 それは……政府が宇宙移民を受け入れてないとか……」
ミュートさんが首を振る。
「ミレイヤはケインのワープ技術を喉から手が出るほど欲しかった。あんなのがあれば、巨大なワープリングを作る必要がないからな。その技術が手に入れば、政府もピアート人のためにシリンダーコロニーの一つくらい渡すはずだろ」
「うぐぅ」
そう言われたら反論の余地はない。
「そして、ワープはケインとブラッドゴールドが揃わなきゃ不可能な技術だったんだよ。技術というより魔法といったほうが的確かもな」
「魔法ですか」
「もっと雑にいえば特技ともいっていい」
私は額に手を置いて瞼をぎゅっと閉じる。
「それなら、どうしてケインさんはピアートの人々や私たちに協力してくれたんですか? 海を再生したときにブラッドゴールドは貸したままです。そのままトンズラすればよかったじゃないですか」
「それは知らん」
ミュートさんは論理を投げ捨てると、胸ポケットに入れた栄養バーを開けて食べ始めた。
「ちょ、そこまでいうなら動機くらい考えましょうよ!」
「人間は偏屈な生き物だ。俺が深海や地底を求めたのと同じで、ケインも何かを経験したかったんだろ」
「漠然としすぎです!」
ミュートさんは栄養バーをくわえながら、腕を伸ばして私の頭に置いた。
わわっ!
「別にいいだろ、こうして生きて帰ってこれたんだから」
ミュートさんの澄んだ目が私を捉える。頭に乗っている手は温かくて、そっと左右に揺らして撫でてきた。
え、あ、はい…… 。
急に距離感縮まるようなことされると戸惑うんですが……..。
惚けていると、いきなりその手が離れて縦に軽い刺激を受けた.。
優しく触っていた手が手刀に変わっている。
「とりあえず母艦に戻るぞ。衛星オーリスがどうなったか気になる」
思い出した! そもそも惑星コアのエネルギーを太陽に変えるのが目的だったんだ!
「はい、行きましょう!」
ミュートさんが操縦桿を握る。
メーターの各所の表示がおかしい中、トライズはフラフラしたフライトで母艦へ向かった。
49話と50話について。
物語に余韻を与えるため、あえて連投する形になりました。
時間を置いて登校する術もありましたが、それもややこしくなりそうだったので……。
リアルタイムで読んでくれた方がいたら、申し訳ないダス。
(そんなやついるのか!?)




