出口
トライズが垂直に下降していく。
ドリルは回転しているが、マントルを掘っているというより脇にどけているといっていい。密度が低く無重力に近い状態なので接触すると避けてしまうのだ。
計器が回復する見込みはない。モニターから見える外観の速度と、心の内で1秒ずつカウントすることで船の時速を考える。
目印になるのはブラッドゴールドだ。
深さが増すごとに金色の部分の輝きが増していった。
ゴールは近い。そういうことのなのだろうか。
石や鉱石をどかしていたトライズだが、急に硬さが戻った。ドリルの先端が土質の中に埋まった瞬間、室内が黄金に輝いてモニターが見えなくなる。
咄嗟に船が急旋回し、きた道を戻った。
操縦桿を握るミュートさんは額に汗を浮かべ、ケインさんが胸をなでおろした。
何かよからぬ危機を感じたかもしれない。
「ツクモ、ケインさん、あれをどう思う?」
「おそらくコアの前兆じゃないかな……」
私も激しく頷いた。
マントルの長さを計算した際、液体コアまでの距離は足りなさそうにおもえるが、内部の電磁波の回転で、均一になるとは限らない。
「惑星コアの温度は4000度から6000度になります。これ以上すすんだらトライズごと溶けることになります」
「モニターの記録とマップは記録しているな。マッピングというにはいささか物足りないが――このまま帰るか?」
ミュートさんの問いかけに、私とケインさんは神妙な顔になる。
「正直、確証には至らないので中までみたいです」
「そうだね。何か探れる手段があればいいのだけど」
「……レーザーでも撃つか」
ミュートさんがさらりと言った言葉に、私の思考が止まった。
「それです、やってみましょう! マントルは割れる可能性がありますし、液体コアに触れたら外部の刺激によって何か変わるかもしれません」
「Uターンする道をつくる。二人とも堪えていろ」
そういうと、トライズは直線状の距離を何度も行き来して、周囲のマントルを外側に弾いていく。上昇と下降が繰り返され、身体の三半規管が狂わされた。
ケインさんはお腹に手を当てて堪えると、船が水平に止まった瞬間にトイレへ向かった。
年齢的に耐えれきれないだろうか。そうおもっていると、小さなうめき声が聞こえてきた。
うぅ、悲惨だ。
――休憩を挟んだ後、すべてのセッティングを整える。
到着地点から500メートル離れた位置からレーザーを発射。放射した直後に反転し、変化がなければ再度撃ち、変化があれば即退散する。
私たちは互いに頷きあって覚悟を決めると、ミュートさんが力強く操縦桿を握った。
「行くぞ」
「お願いします」
「頼んだよ」
数秒、深呼吸した後、ミュートさんは、操縦桿の下にあるトリガーを引いた。
両翼についたレーザー装置の銃口から、青白い光が一直線に伸びる。レーザーの速度はほぼ光の速さ。鉄やチタンも貫くその兵器は、瞬く間に底部のマントルに着弾する。
船が180度旋回する。真後ろでモニターを見ると、表面が光り出した。その直後に、ブラッドゴールドが自分も当たったかのように眩い光を放った。
二発目はいらなかった。
計器の異常は加速し、背後からわけもなく熱量を感じ取った。
「ミュートさん!」
「わかっている!」
ペタルを深く押し込んだ。何度も往復してできた広い縦穴を、急加速で上昇する。散乱するデブリを弾き返して、一直線にトンネルの中へ向かう。
トライズはなおも加速する。シールドを展開し、ドリルを回し続け、細い線となった通路を走る。
氷の湖にたどり着き、すぐさまカーブしてマントル内に入る。
ブラッドゴールドはさらに輝く。
マグマを避けて作ったトンネルに突入する。いくつもの穴の残骸が一瞬目に入る。
視界はコマ送りみたいになって、どこを走っているかわからない。
ミュートさんは寸分迷わず来た道を戻っている――どんな記憶力と神経しているのか。
船が減速して90度の旋回を始める。さらに加速した瞬間、後ろの穴から焼けるような突風が流れてきた。
――死ぬ。
走馬灯が見えた瞬間、操舵室の中央から金色の光が溢れて、爆発したような熱と共に自我が消えた。




