地底の海
3時間が経過した。
相も変わらず、硬度の強弱がある石の海を進んでいく。ミュートさんは途中で真横に移動したり、斜めに掘ったりして進路を変えた。理由を尋ねると「なんとなくそうしたほうがいい気がした」らしい。一体どんな頭をしているんだか。
それでも、ドリルの状態は良好で、掘れない鉱石の壁や、溶けたマグマに接触することはなかった。
またも強固な地面にぶちあたり、船の速度を緩めながら掘り返してくと、唐突にドリルが空転した。
空洞だ。
ライトを全方向に照らすと、光が屈折してあたりが煌めいた。
そこは鉱石結晶の洞窟だった。透明度の高い白や水色や緑の石が壁や天井や地面に生えている。
「惑星レグダみたいだな」
「あそこは掘り起こされています。でもここは誰も来ていません」
「持って帰れば億万長者になりそうだね」
ケインさんはモニターから周囲を眺めながら顎に手を当てる。
「ミュートさん、このあたりでマッピングしませんか? 微速で動いていれば壁に接触する可能性も減りますし、休憩も必要だとおもうんです」
「そうしよう」
かれこれミュートさんはトイレ以外に運転席から離れていない。発掘中は代わってもいいのに、運転席を譲らないプライドがあった。
洞窟内は針の山みたいに、数種類の鉱石の鋭利な起伏をつくっている。
幻想的な光景に目を奪わながらも、違和感に気づいた。
「二人とも、何か小さな穴がいくつかあるよ」
「ほんとです!」
ケインさんにいわれたとおりだ。鉱石地帯の下部には誰かがくり抜いたような穴が開いている。
一瞬、巨人を想像したがすぐに首を振った。
そんなやつ、この地底でどうやって生きてきたというのだ。
もし自然発生したら、どういう成り立ちだろう。まずいなぁ、研究員としての血が騒ぐ。液体コアまで辿り着いたら、帰りに寄り道できるかな。
「ミュート、何かが近づいてくる」
さっきまで穏やかなだったケインさんの声が、ひりついたトーンに変わる。
ミュートさんは私らに配慮せず一気に船を加速させた。身体は潰されるようにGに押され、手すりをがっちり掴む。
直後。バックモニターから真っ赤な明かりがともった。――いや違う。これはマグマだ。地面から噴き出してあたりを火の海に満たしている。
なぜ周囲に石や岩がなく、鉱石がむき出しになっていたのか……。
考えてみればわかることだった。
マグマの温度が1200度だとすれば、表面の石灰部分だけが溶け、高融点の鉱石部分が残る。多くの鉱石は融点が1500度であるため、形状を維持できていたのだ。
――浅はかだった!
そんな私を断罪するように、背後でマグマが吹き上がっている。炎の柱は天井の鉱石まで噴き上がり、熱と鉱石の塊が飛沫が四方に拡散されていく。
ガスの嵐の次は、火の雨か!
吹き上がったマグマは地面にどろどろとなだれこみ、川のように一面広がっていく。
「!」
一瞬のよそ見が仇になった。モニターに巨大な火の塊が映る。トライズはその中に突っ込もうとした。
まずい! 死を覚悟した一瞬――ミュートさんが旋回してかわす。横のGに耐えながら、私は端末を操作してシールドを展開した。
酸の海には強いトライズだが、火耐性はよくない。チタンコーティングは施されても、関節や隙間やエンジンに触れられては機能が停止する。
「ここは危険です! また下に逃げますか」
「いや、一面にマグマが広がっている。仮に穴をあけたとしても、俺たちの開けた穴にはいっていくぞ。逃げ道はない」
「仕方ないです、一端戻りましょう」
「賛成だ」
ミュートさんはそういうと急に減速して横に180度旋回する。船体が斜めになった直後、上部から火の塊が落ちて、シールドに弾かれる。
衝撃で船が大きく揺れた。
「舐めんな!」
操縦桿で揺れる船体を何度も緩和させ、制御をもとに戻す。
目の前には巨大な鉱石の塊があり、船体を真横に傾けて鉱石の隙間をぬった。
死んだと思った。息が止まっていた。
まぐれ、それとも本当に天才?
考えている暇はなかった。なおもマグマは吹き上がり、空から降ってくる。
運転を任せながら、マッピングを頼りに出口を探す。
「あれ!」
モニターに映る小さな黒丸を見つけると、胴体を伸ばしてその位置を指した。すぐに視界が炎で遮られる。上から迫る小岩をミュートさんはバレルロールで潜り抜ける。
横に、縦に回る船体に、身体のGは安定せず、後ろのケインさんがくぐもった声をあげた。
船が垂直になり急上昇する。
鉱石とマグマの世界から一瞬で狭いトンネルに変わる。
深度計は徐々に上昇し、5キロを超えたところで減速した。
後部モニターは赤くなっているが、マグマが昇ってくる様子はない。
「少し休む」
ミュートさんがそういうとドリルを展開させて横に掘り進めた。
船はバッグ走行できない。周囲を一周するように削った後、土の中でようやく停止した。
「うぅ!」
吐き気を我慢していたケインさんは席を立ち、操舵室を出た。
危ない。ここで吐かれたら悲惨な目にあっていただろう。
静まり返る操舵室で、ケインさんのうめき声が聞こえた。




