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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
2部 4章 地底探索
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死の風

 レーダーには地表からの深度が示される。

 地殻の厚さは50キロを想定しているので、表層界のマッピングはせず、垂直に掘っていく。ドリルは緩やかな音をたてて回っていて順調そのものだ。

 さすが分厚い氷の壁を貫いた実績がある。砂や石ならどうってことないのか。

 何度か空洞と石の層を突破していくと、急にドリルから金属音が鳴り響き、船の遅くなる。地質が固い層に到達したみたいだ。


「ミュートさん、ここからは慎重に」

「わかっている。操縦桿でその感触を確かめる」

 ドライバーにしかわからない感覚だろう。

 私はレーダーとドリルの状態を確認しながら異常がないか調べる。進行中、ドリルがたびたび怪しい金属音をたてる。岩か鉱石に接触したか。

「速度を落としたほうがいいんじゃないですか?」

「安心しろ。危機回避能力には長けている。前方ヨシ!」

「ヨシじゃないでしょ! 前は岩なんだからわかるわけないでしょ!」

「ブラックホールで鍛えた目だ。見えなくても見えている」

「死んでくれ!」


 呆れる私の後ろで、ケインさんが声を殺しながら笑っている。

「二人とも息があっていますね。ここが危険地帯じゃないみたいだ」

「危機感ないのはミュートさんだけですよ!」

「俺はちゃんとしてるぞ。ツクモが騒いでいるだけだ」

 私は身体を伸ばしてミュートさんの膝を叩いた。

「いて、事故って死ぬぞ!」

「加減してますー。変なこというミュートさんが悪いんですー」

「ちょ、笑わせるのはやめてくれないか……」

 後ろをみるとケインさんがお腹を押さえてにやついている。


 私はモニターに向き直ってメーターを見つめた。順調に星の底に向かっている。

 安心していると不意に大きな空洞にでくわした。周囲をライトで照らしたが、闇が広がり底が見えない。

 深度は40キロに到達していて、マントルまでもうすぐだった。

 不意に船が水平に傾いた。

「どうしたんですか!?」

「この空間、嫌な予感がする」

 ミュートさんは速度を落として外部モニターを次々と切り替えた。

 私は端末から電磁レーダーを照射し、モニターに地形を反映させる。緑の波が機体から360度に広がり、上部の突起が映しだされた。

 ――だけど。

 下部と全体が見えない。

 なにこれ。

 なんで天井がこんなに広いの。

 重力がないわけでも、水の中でもない。

 電磁波が反応していないのだろうか。


「怪獣でもいるんですかね?」

 横から顔を出したケインさんがモニターを見つめながら言う。

「そんな非現実的な」

「静かにしろ」

 刃物みたいな口調に、一気に船内が凍り付いた。


 ミュートさんは船首を下に傾けて、徐々に下降を始める。私は電磁レーダーを連続運転に切り替えて、地形の波を何度も発生させた。1秒、2秒、3秒……だめだ、変化はない。

「!」

 後方に拡散する電磁波が何かをとらえた。

 大きな丸い形状。それと同時に船がガタガタと揺れ、私は咄嗟に椅子の肘置きを掴んだ。

 ミュートさんは瞬時に操縦桿のボタンを押す。

 秒でシールドが展開し、ハンドルと足元のペダルで急旋回を始める。

 私たちは横に激しいGを煽られながら背中から迫る何かをこらえた。


 電磁レーターの接触音が流れた瞬間、船は上部に傾き、縦にぐるぐると回り始めた。

 これは――

 遠心力にあおられながら、レーダーの正体と、この事象を想像する。

 固いものにぶつかった衝撃じゃない。

 だとすれば気体。地底から噴き出すガスの一部が、空洞へ一気に吹いたのだ。

 まずい。そう思っても私に対抗する手段はなかった。

 ミュートさんは冷静だった。

 操縦桿と足元のペダルを小刻みに動かしなら、空いた手でボタンを早業で押していく。

 縦回転した船体は次第に減速し、ぐんと強い衝撃とともに水平に戻った。

 頭が真下になって、髪が爆発しているけど。

「大丈夫ですか?」

 後ろからケインさんの声がして、うんうんと答える。

「地底に嵐が吹いているのか。怪物のほうがまだかわしやすそうだ」

「冗談いってないで避けましょう。また吹いているかもしれませんな」

「急ぐと余計に操作を失う。ツクモは引き続きレーダーの監視、ケインさんはバックモニターを注視してくれ」

「わかりました」

 数刻前までは呑気に寝ていたのに、死地になった途端に頼れる。

 横目で見ていたけど、胸がどきどきした。

 吊り橋効果なんだろうか。

 トネリコにいたリツキさんが、好意をむけているのが分かった気がした。


 空洞内は嵐みたいにガスが吹きあげ、強風とはべつにゴゴゴと不気味な音も聞こえている。この空洞をミレイヤさんたちは埋められるのだろうか。

 ――いや、いまはコアにたどり着くことを最優先に考えろ。

 レーダーを見ているが、風向きが不明瞭でなす術がない。ひたすらにトライズは風に煽られて、機動を奪われる。

 だけど、ミュートさんは偉大だ。垂直に飛んでいたかとおもえば、すぐに方向を傾け、加速と減速を繰り返しながら、姿勢を元に戻す。

 先読みしているのだろうか。

 理屈があるかわからないけど、特殊な能力があるらしい。

「レーダー反応ありました。マントルです!」

「わかった」

 ミュートさんが垂直方向へ舵を切ると、ドリルの先端を真下に向けて落下する。

 ガスの嵐が吹くより先に、下へいって逃げるつもりだ。


 先端のドリルが金属のような固い部分に触れると、ミュートさんがペダルを踏ん張りながら急ぐ。

 無理をしているような気がするが、この地帯から逃げるほうが先決かもしれない。

 ドリルが以前より激しい音を立てて地中を掘る。

 漆黒の世界にマシンの音だけが響く。

 速度深度硬度を指すメーターを注視しながら、五感を信じてわずかな違いを頼りに進んだ。

 ガスの嵐は過ぎ去り、地殻の壁を越えた。

 マントル部は地質の密度が高く、中心までの距離が長い。さっきまでの移動は遊び程度だ。

 ドリルの音がさらに高くなる。深く掘れば掘るほど、岩石の硬度は高くなり、その分だけドリルの負荷も強くなる。

 果たして持つのだろうか。

 私が何かいいだすより先に、ミュートさんが減速を始めた。

「ここからは慎重にいく」

 死地を乗り越えたミュートさんがいうのだ。信用するしかない。

「ツクモさん、いま掘っている地質はどうおもいます?」

 バックモニターを注視しているケインさんが尋ねてきた。

「鉄か、それより硬い鉱石が混じっているかもしれません」

「私もそうおもいます。光が薄く当たっているところは輝いていますね」

「ツクモ、引き返すことも頭に入れておけ」

「わかっています」

 わざわざ忠告するのは、最初より危険地帯だと感じているわけか。

「とりあえず、このまま進みましょう」

 私たちは息を殺すように、船内の音を頼りながら先へ進んだ。


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