人工太陽計画
格納庫のドアを開けて階下にいくと、狭い廊下が伸びていた。
ケインさんたちの後を追っていると、等間隔に部屋のドアがついている。一部は開いていて、倉庫やベッドルームなどが見えた。
どこまでいくのだろう。不思議におもっていると、8人掛けのテーブルに椅子のある部屋に着いた。正面にはモニターがついていて、無線での表示が可能となる。おそらく会議室として使っているんだろう。
ここが私の処刑台か。
そうおもいながらみんなの動きを見守る。
ケインさんの隣にナグ君が座り、反対側にミレイヤさんと私、ミュートさんが対面する。私たちが着席すると、宇宙政府の制服女性が入ってきた。盆には人数分のコーヒーがあり、テーブルの中央に包装紙に包んだチョコレートとクッキーの山を置いた。
隣からにゅっと腕が伸びる。
ミュートさんだ。数種類のチョコを見比べ、小さく頷いている。
なんだこいつ。
いや、いつものことだから気にしないようにしょう。
私は自分のタスクに集中する。
トライズからもってきた自前の端末を操作すると、事前に送っていたプレゼンデータがすぐに開ける状態になっていた。
画面をタッチするとモニターに端末の画像が反映した。
『太陽復活計画』
壮大な音楽とともにピアート近郊の宇宙映像が映る。そこには元太陽だったガス惑星ライザンと、それを囲う4つの惑星があった。内側から2番目の惑星「ピアート」に焦点が定まると、映像はさらにフォーカスしていった。
宇宙圏から中に入り、地平線に氷の大地が広がっている。そこへ橙色の太陽が地平線からのぼり、空の真上までくると、氷が溶けだして青々とした海に塗り替わった。
いつしか白色の大地はなくなり、空に群青が広がる。
音楽が止むと、私は咳ばらいをした。
「ピアートを再び生命の星にするには、熱と光が必要です。だから映像のような太陽を作ろうとおもいます」
すっとナグ君の手が上がる。
「ツクモの資料を見た。人口太陽を宇宙に設置するみたいだけど、あれは巨大な照明じゃないか」
ナグ君が訊くのももっともだ。
さきほどの映像はイメージにすぎない。現実はもっとロマンがない。
ナグ君は続けざまに疑問を投げる。
「電球みたいな明かりで惑星があったまるとはおもわないんだけど」
私は小さく頷くと、太陽の代わりとなる透明な巨大照明をモニターにだした。
「光源はキセノンランプを使います。キセノンランプは硝子の中にキセノンガスが封入されていて、紫外線や赤外線も太陽光を再現しているのが特徴なんです」
「でもその数値って宇宙空間で計測したわけではないでしょ? 出力が不十分じゃないかしら?」
発言したのはミレイヤさんだ。
「そこは懸念がありますけど、ランプを巨大化したり、レンズやミラーで放射エネルギーを集約すれば、地表まで熱を届けられるとおもうんです。なにより照明技術ならピアートの技術だけで作れます。大きなサイズとなれば政府の力は必要ですけど……」
「そこは現地惑星のことも考慮しているのね」
ミレイヤさんはコーヒーをすすった後、テーブルに両肘を置いて豊かな双丘を寄せた。
嫌味か! そのおっぱいわ!
「前の宇宙戦争では大量の電力を消費してレーザーとして発射していたわ。それを弱めて明かり程度にするってところかしら」
「はい。私のプランでは扇状にエネルギーを拡散するつもりです」
ミレイヤさんのだいなまいとばでぃにキレていると、ケインさんがゆっくり手を挙げた。
「そのプランの問題はそのエネルギー量じゃないですか? 照明だけで凍った惑星全体を温めるとなれば、膨大な電力を必要とします。現在ピアートで使っている地熱エネルギーではとても不可能です」
「それは僕もおもったよ」とナグ君。「巨大ランプのそばに核融合炉を設置して電気に変えるかとおもったけど、それじゃ核融合炉の燃料がない」
私は深く頷いた。
ミレイヤさんもそうだけど、このナグ君もよく調べている。
「そのとおりです。だから、人工太陽には受電用装置をつけて、別の場所で核融合炉を設置し、そこから電力送電用のレーザーを撃ちます」
端末を動かしてイメージ映像をモニターに映す。
拡大されたピアートの画面はズームアウトして宇宙へ戻った。そして今度はライザンに最も近い惑星に近づく。
「私が狙っているのが、ガス惑星のマミナです。ここにはヘリウムと水素が主成分で、核融合炉に必要な3重水素が潤沢にあります。この惑星の衛星軌道上に巨大な核融合炉を設置して、送電用のレーザー装置をつければ電力問題は解消されます」
一瞬、室内が静まり返った。
ナグくんは腕を組んで指先を叩く。何かいいたげな雰囲気だけど、一応は納得しているみたいだ。
これまで静観していたミュートさんは、チョコレートの包装紙を開けながら言う。
「平たく言えば、巨大電球と大型レーザー、それに見合う核融合エンジンがあればいいわけか。シンプルだな」
ケインさんもうなずき、
「宇宙政府の技術提供は必要ですが、資源は近郊の宇宙で賄えます。これなら政府に借りをつくらなくていい」
みんな納得していたのか、ほっと胸をなでおろした。
つぎはぎだらけのプランだけど、一応の目途は立ったか。あとは装置を建設してトライ&エラーを繰り返すだけだ。
「ここからは私の話ね」
ミレイヤさんは席を立つと、私の端末を奪ってICメモリを挿入する。
「私たちも惑星再興に手伝う分、見返りはもらうわ。ナグ博士には交渉人になってもらう」
「ケインさんじゃないんですか?」
私の発言に当人は苦笑する。
「ナグ君のほうが頭がいいからかね。それに私は年を取りすぎたよ。未来は若者が築いたほうがいい」
そういうものだろうか。
そのナグ君は呆れたように肩をすくめる。
「やれやれ。そんな話になるとおもったよ。それで僕らの見返りっていうのは?」
ミレイヤさんは端末を軽やかにタップすると、
「まずは星の歴史のデータね。私たちとはべつの惑星で人類が誕生して繁栄していったのは、それだけで価値があるわ」
「安い買い物じゃん。てっきり水や地下資源だとおもっていたのに」
「ピアートは水や水素やアンモニアばかりだもの。大して興味はないわ。それよりも、人工太陽が成立したら、将来的に同盟の手続きをしたいの。植民地にするつもりはないけど、移民を受け入れてもらえれば一番だから」
「断ると言ったら?」
「あなたたちの眠っている仲間が、博物館みたいにずっと飾られているままよ」
ナグ君は小さく首を振った。
「所詮は原住民族の惑星か……。好きにして結構だけど、自治権だけは渡さないよ」
ミレイヤさんはウィンクして、
「そんな戦争の火種なんて起こさないわよ。少年」
ナグ君は一瞬だけ顔を赤くした後、気まずそうにそっぽ向いた。
やっぱりまだ子どもみたいだなぁ。
次話はいつもどおりの時間ですが、
切りが悪い箇所があるので、18日の深夜1時に短話を乗せます。
その日は忙しいので深夜投稿で終わるかもしれないです。




