彼の好み
ワープステーションで物資を買いそろえた後、出発の時刻に近づいた。
「準備できたようだな。いくぞ」
以前より多弁なミュートさんが合図をする。最初の頃は「……くぞ」くらいしか言わなかったのにすごい成長だ。
子どもの成長を喜ぶ親みたいに頷く私を、怪訝そうな顔で見てくる。
「人の話、聞いてるか?」
「はい、もちろん!」
まずい、にやにやが止まらない。一年前の彼に聞かせてあげたいぞ!
不服そうな顔をしてトライズを加速させる。
船はゆったりと政府のシステムエリアに入り、船の制御を明け渡す。
ワープのタイマーがモニターに表示される。
それまでミュートさんは映画を、私は必死で太陽計画のデータを調べる。
トライズはワープ装置の輪っかに入ると、白色の光の中に包まれた。
私の意識が途絶える。
ーーーー。
意識が戻ると、まばたきをして視覚を戻した。
背部のモニターは光が溢れていて、少し進むと黒い船があった。ミレイヤさんの乗る宇宙船だ。
彼女の誘導にしたがって進むと、正面モニターに通信が入る。
それを見た瞬間、私はすぐさま咳ばらいをした。
「ミレイヤさん! なんて恰好してるんです!!」
「民間人より優先されたから、先にシャワーを浴びてたわ」
長い髪を束ねたミレイヤさんは、つやつやな褐色の首筋とバスローブから見えるふくよかな谷間を画面いっぱいに映した。
おい!ちくしょう!
むずむずしながら、隣にいるミュートさんに視線を送る。
彼は画面いっぱいに映るミレイヤさんを一瞥すると、小型端末から映画を開いた。
もしや私の視線を気にした? 全然わからん!!
にしても、なんてプロポーションだ、うちの査察官は。
「とにかく上着を着てください! ミュートさんも隣にいるんです!」
「べつに減るもんじゃないでしょ」
なんでそんな恥じらいがないんだ! こっちが困るっての。
「まぁ、髪も乾かしたいから手短にいうわ。ツクモちゃんのプラン、ほんとにあのプランでいいわけ? 前時代すぎない?」
お、おう。
ピアートの再生計画か。
「それでミレイヤさんはどうおもいます?」
「多少のツッコミどころはあるけど、ほかの人の反応次第ね。技術が必要なら政府が協力するわ」
うぅ、痛し痒しか。
「それじゃ、ピアートでまた話しましょ」
ミレイヤさんはバスローブの宗元を抑えながら通信を切った。男子が見ていたらドギマギする映像だった。
あ! 思い出したかのように脇のミュートさんに向いたが、彼は一瞬だけこちらを見てムービーを眺めている。
もしかして盗み見した? わかんないな。
彼をじっと見ながら、
「ミュートさんはおっぱいが好きですか」
「は?」
動揺しているのか変な声が漏れた。
「男の人って一般的に好きじゃないですか」
「そうだろうな……。俺はチョコレートのほうが好きだが」
思わず座席から転げ落ちそうになる。
「食欲と性欲は別ですよね」
「生憎、俺は母親を知らない。ヒトのぬくもりもな」
「でも、本能ってあるじゃないですか!」
つい声が大きくなる。なにを聞いているだ私は。
ミュートさん呆れたようにこちらに向くと、
「お前はそんなことを気にするのか。あってもなくても、お前はお前だろ。いまさら自分を着飾ってどうする」
うぅ、ど正論……。
「身体が目的なら、最初からお前の誘いに乗っている」
「そういえばそんなことありましたね……」
やばい、恥ずかしくて乾いた笑いしかでない。
「くだらないことを考えてないで寝ろ。どうせ明日もプランを練るんだろ」
ミュートさんはムービーに集中したいのか、しっしっと手で払った。
うぅ、なんだこいつ。
生い立ちを聞いたところで、ますますこの人のことがわからなくなった。
ぶっちゃけ蛇足です。
初期原稿では設定など書いていましたが、次話以降で同様の内容が語られるので削除しました。
また仕事が忙しくなったのと、改稿が多くなりそうなので、投稿頻度がさがるとおもいます。
本編は3部中盤までできているので、完結はほぼできるとおもいます。
よろしくお願いします。




