条件
レグダに寄り、カニ型探査機の保管をお願いすると、補給を済ませてピアートへ向かった。
久しぶりの船内生活に心が躍った。仕事がない分、いつ寝ても起きても自由だ。
とはいえ、ピアートを復活させる課題が前代未聞だった。
惑星全体を覆う氷を溶かし、大気層をつくって地上と海に酸素を与える。
ヒトの知恵でできるものじゃない。神の所業だ。
とにかく光を作り出さないことには始まらない。
もし新しく太陽をつくるなら、距離に応じて熱量を上げる必要がある。宇宙が無の空間といっても、実際にはガスなどが滞留しているため、太陽からの光子は進むにつれて拡散される。
どこを光源にすべきか。最初に考えたのは、元太陽であるライザンの再生だった。
しかしながら、一度輝きを失った太陽を生き返らせることなどできるのだろうか。宇宙からみたらライザンは燃料の尽きた搾りカスだ。惑星コアによる核融合はこれ以上の望みはない。仮に何かの形で復活しても、今度はピアートの海さえ干す可能性もある。
そうなると、近郊の惑星を太陽にさせるしかない。
操舵室の端末でケインさんがくれたピアートのデータを読み返した。
周辺にはライザンを軸した4つの公転する惑星がある。ピアートは内側から2番目だ。この直近にある星が、内側にあるマミナと外側のラルセイムだった。
トネリコのデータからこの2つの惑星を見比べる。
内側にあるマミナは、ピアートの4分の1サイズのガス惑星。ライザンの代わりになりそうな星だが、仮に燃やすとなれば制御できないほどの光と熱が発生する恐れがある。
もう一つの外側にあるラルセイムは、ピアートの2倍ほどの大きさの鉱石惑星だ。ただ星の密度が低く、コアに近くづくとダイヤモンドの雨が降り注ぐ星で、着陸するのも困難となる。
正直、ふたつとも太陽の代わりにするのは難しい。
現実的に解決するとしたら、人口太陽の設置か。
人口太陽は、いわば核融合エンジンの巨大版だ。製造や運搬は技術的に可能だが、それをどうやって惑星ピアートに光と熱を放射させるかが難しい。巨大な核融合炉は密封されているし、仮に開いた形で核融合を起こしても、そのエネルギーは扇状に広がるため、エネルギーが弱くなる。
また、人口太陽となればそれを消費する燃料も必要になる。宇宙に設置しても、供給源がなければただのゴミでしかない。
どうしたものかね。
頭をフルに使った私は、休憩がてらに背もたれに身体を預ける。
目を閉じている間に意識が朦朧として、いつしか夢の中で寝息が聞こえた。
「やられたな……」
珍しく沈んだ声を聞いて目が覚めた。
うーん。
硬くなった背中を伸ばすと、肩からさらりと何かが落ちて背中と座席の間に落ちた。毛布だ。
ミュートさん、機を利かせてもってきてくれたのか。
レグダを出発して、私は何度も操舵室で寝落ちした。それを見かねたのか心配してくれたのだろう。
ふふ、と微かに笑ったあと、おぼろげな視界を目でこすると、正面モニターを目にした。
「あ……」
一瞬で頭が冴える。
いくつかの戦艦が光を点滅させて、砲門をこちらに向いた。
『オマエタチハ ホウイサレテイル』
戦艦から電子ジャックが入り、警告の文字があちこちに張り付いた。
どうしよう……。
呆然としていると、戦艦の間からどこかで見た宇宙船が見えた。
ミレイヤさんが乗っていた船だ!
「ミュートさん、トネリコを飛び出す前に、ミレイヤさんの船の燃料を奪ったんじゃないんですか?」
「あぁ、そのはずだ……」
詳しく聞こうと思った矢先に、通信が入ってきた。ミュートさんが回線を開く。
「久しぶりね」映像に映ったミレイヤさんはしたり顔で手を振った。「あなたたちが無断で出ていくのは前回の件で想定していたわ。私の船を妨害することもね。だからエンジンと各部の燃料は別個に用意していたの」
ミュートさんは額に拳を置いた。
私は、ほえーと感嘆するばかり。
全部読まれていたわけか。だとしたら、ユーリちゃんの遠隔操作も敢えてやらせていたことになる。
「そうはいっても大変だったのよ。何度もスイングバイを行ってようやく先回りできたんだから」
「だろうな……」
「ピアートへいくにはワープ装置を使うしかない。だからワープステーション前で待っていたの。いまからそっちに合流するわ。言われた指示に従ってね」
ミュートさんはお手上げとばかりに肩をすくめた。
ヤバいなぁ……。捕まっちゃうのかな、私たち。
トライズの居住リビングで私たち三人はテーブルを囲んだ。
リビングを使うのは初めてのことだ。この共同スペースは調理くらいにしか使わず、食事やタスクなどは自分の部屋か、操舵室の方が多かった。
3人分のティーカップに砂糖なしのコーヒーをいれる。ミュートさんは口に入れると怪訝そうな顔をした。お子ちゃまか! ブラックチョコは食えるのになんでだよ。
ブラウスの第二ボタンまで開けたミレイヤさんは、くつろぐように膝を組んだ。
「接待ありがとう。それでツクモちゃん、太陽設営計画は順調?」
「どうしてわかったんです!?」
緊張感も忘れて驚いた。
ミレイヤさんは優雅にブラックコーヒーをすすると、
「ピアートの宇宙史を観れば当然よ。あの星を再生させるなら、ライザンを復活させるよりべつに太陽をつくったほうが現実的でしょ」
「なんでもお見通しですか」
「あなたの性格を理詰めすればわかるわ。条件次第では手を貸すわよ」
うぅ……。足元を見られている。随分と物分かりがいいなぁ。
「目的はなんだ」
お皿に並べた一口チョコに手を出しながらミュートさんがいった。
「ケイン氏のワープ技術。政府は喉から手がでるほど欲しがっている」
そのために私たちは泳がされたってわけか。
「出し抜く必要なかったんじゃないですか?」
「二人が私に従うとは思わないもの。だから実力行使が必要だった」
私とミュートさんは顔を合わせる。
ミレイヤさんの許可がないかぎり、ワープ装置は使えない。それに政府が管理する宇宙で彼女を出し抜くのも不可能だろう。連れていくほかなさそうだ。
「それはそうと、あなた髪を切ったのね。覚悟の表れ?」
「べつに」
バツが悪そうに顔を背けるミュートさん。隣の私のなんだかドギマギする。
「素敵な彼女の前ならいいカッコしたいのかしら?」
「へ、え??」
いきなり言われて顔が熱くなる。
「好きにしろ」いいながらミュートさんがコーヒーを口に含める。渋い顔をしながら「用が済んだら船に戻れ。もう抵抗するつもりはない。早くいくぞ」
ミレイヤさんはにまにま口元を緩める。
「焦らないの。周囲の戦艦の撤去にはまだ時間がかかるわ。それより再生計画の話してくれない?」
いいながら、まだ顔の熱い私に向いた。
「ツクモちゃん。太陽を作りたいなら設備と人材が必要よね」
うぅ……。気まずそうにテーブルを見つめる。そうなることは予期していた。
「まだプランは練っていますけど、大掛かりな装置は必要です」
「ケイン氏の説得をすれば政府が協力するわ。あなたがいえば納得する人も多いはずよ」
苦渋の選択だ。
そもそも、ケインさんの考えはわたしもよくわからない。
「ケインさんは惑星ピアートが政府の手に渡ることを恐れています」
ミレイヤさんは足を組みなおして微笑んだ。
「ワープ走行の技術が入るなら取るに足らないものよ。いまさら資源の乏しい惑星の自治権を手に入れても、得るものは少ないでしょうし」
うぅ、大人だ……。この人はどこまでも仕事人間っぽい。
私は胸の内でケインさんに謝りながら、
「わかりました。いま計画を練っているのでまとまったら連絡します。よろしければプランの精査していただけますか?」
「えぇ、協力するわ。こんな楽しいこと滅多にないでしょうし」
ミレイヤさんは自信たっぷりにウィンクしてみせる。
「それと、あなたたちをどうこうするつもりはないから安心して」
トネリコを逃げ出した私たちを許してくれるのか。
……なんて切れ者だ。この人に一生勝てる気がしないぞ。
「これで宇宙が拡大するんだもの。楽しみでならないわ」
あれ? もしかして主役が交代した?
次話以降で似た表題がでたので変更しました。それだけです。
本文は変えていません。推敲も面倒だからしていないです。




