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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
2部 2章 ふたたび宇宙へ
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昔話

「そろそろ昔のことを話してください」


 ごわごわの髪を切りながら、ミュートさんに訊いたのが、ほんの数時間前になる。

 散髪中のミュートさんは、猫が首根っこを掴まれたみたいに大人しく「準備が終わったら」と静かにいった。

 準備ってなんだ?


 しばらく寝室で待機していると操舵室に呼ばれた。

 正面モニターには外の景色ではなく、宇宙政府の映像が停止してあった。

 培養液の中で見たことがある。ブラックホールフロンティア計画の発端のシーンだ。

 ミュートさんが再生ボタンをタッチすると、壮大なBGMとともに始まった。

 幾何学デザインの船団が宇宙を旅し、その船団がズームアウトしてマイクロチップ映像が大きく映る。このチップこそがブラックホール内部観測データであり、いつか政府がたどり着こうとしている場所だった。


『プロジェクトを進めるため、最も大事なのは人員でした』

 男性の無機質なアナウンスが入る。

『勇気ある科学者六人がブラックホールへ向かい、200年の歳月を経て帰ってきました。彼らはいいました。研究の成果を得たところで、帰りを待つ人がいなければ意味がないと。彼らの悲劇を踏まえて私たちは決断しました。過去がない人類がどうしても必要だと』


 欺瞞だ、と私はおもう。数千年前からちっと変わっていない。


『政府は人工授精で生まれた子に着目しました。勇気ある6人のような優秀な遺伝子の人間を、ブラックホール近郊で生まれれば彼らが順応するのではないか。

 苦渋の選択でしたが、政府は人工授精の技術を確立し、親のない人間を作ったのです』

 不意に映像が止まる。

 ミュートさんが端末から切ったのだ。


「ブラックホールフロンティア計画で、最初に造られた人間。それが俺だ」

 事も無げに彼は呟いた。

「え、は、え……?」

 まさかさっきの映像資料が関係しているとおもってもみなかった。

「フェアリーズを作るための前段階、いくつかの人工授精の実験があった。失敗し処分された生命もある中、俺は成功側だった。

 親のいない人生。それがわかり、自我が芽生えたとき、最初に感じたのは孤独だった」


 悲観するわけでなく、淡々と告げている。


「俺は病院のような施設に育てられ、物心ついたときは孤児院にいた。保護してくれた施設所員には政府の人間がいて逐次報告していた。孤児院は学園と隣接して成績もよく発表された。俺の成績は大体よかった。当然だ。人工的に作られたからな。


 それから12歳を過ぎた頃に生まれた理由を聞かされ、いわれるまま宇宙軍の学校に入った。

 宇宙学校は自由そのものだった。

 そこでは志望した人間も、親のいいなりできた人間も、俺と同じように孤児で金がなくて入ったやつもいた。動機なんてどうでもよく、同じ時間を過ごす仲間がたくさんいた。

 ――だが、俺はなぜか溶け込めなかった。

 些細な事で笑いあう同級生に何が面白いかわからず、ずっと困惑した。

 俺は利用されるためだけに生まれた――そうした諦念が、他人との壁をつくったのかもしれない。


 誰とも合わなかった俺は、貪るように映画を観た。登場する数多の人間にどんな背景があるか妄想した。きっと自分の虚しい過去を穴埋めしたかったのだとおもう。

 そうして学校の卒業を控えたとき、仕事先を悩んでいると政府の人間からブラックホールフロンティア計画を聞かされた。自動操縦型統合システムAIのフォロー役が必要だと。

 どうせ世界に居場所がなく、自分もその計画の一部として生まれた。

 収まるべき場所に収める、それでいい気がした。だから俺はミュートを名乗り、NO.10偽装した」

 

 操舵室が静まり返る。

 過去を語り終えたとき、不思議と親近感が湧いた。

 親のような、兄弟のような気もする。

 それでいて、外の人間だと言われれば妙に納得した。

「俺とフェアリーがちがうのは、過去があることだ。俺は0歳で生まれ、幼少期はうっすらと記憶があり、虚無な思春期も過ごした。だが、ツクモたちはちがう。いくら大人のような知性をもっても、実際は1歳や2歳だ。その溝は埋まるものじゃない」

 無表情のミュートさんだけど、それがやけに私の胸に沈んだ。

 聞けば聞くほど政府は勝手だ。

 イライラを募らせる私に、なぜかミュートさんは微笑んだ。


「いくつか見たフェアリーズの中で、ツクモだけが強烈に輝いていた。政府にたてついたのはお前が初めてだ。それは俺がないものだった。だから、手を貸してみたくなった」

「え、いや、べつに、大したことじゃなくて……」

 もう何回狼狽しているのだろう。

 彼の微笑がいけない。カッコいいずるすぎる。

「これで十分か? 俺が過去を偽っていた理由」

「はい! はい! 大丈夫です、ありがとうございます!」

 なんで私はぺこぺこしてるんだ。

「こんなに長く話したのは初めてだ。疲れたからもう休む」

 ミュートさんは映像を消すと一人操舵室を出ていった。


 私も疲れているが一緒に帰るのはどうも気が引けた。

 ほのかにミュートさんの残り香がする船内で、自分の座っていた座席をぼーっと抱いた。

 あの人にとって私は特別なんだろうか。

 いまだによくわからないけど。

 好きっていわれるよりとても大事なような気がした。


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