ムービーマニア
「ねぇねぇツクモちゃん。ミュートさんと一年近くいたんでしょ? どんな人だったの?」
食堂に入るなり、同期のユーリちゃんが開口一番にいった。
「髪も髭もぼさぼさで大丈夫かなぁって思ってたのに、帰ってきたら別人でさ、ツクモちゃんと何があったのかなぁ」
ユーリちゃんの瞳はテラの少女漫画みたいにキラキラしていた。
私といえれば目を泳がせている。
気持ちは、うん、わかるよ。私だってびっくりしたから……。
「た、ただのムービーマニアだよ。一人でいる時間が欲しいのか活動時間を真逆にして、意外と関わってないんだ」
そうだ、うん、確かに嘘はいってない。
「へー。でも、ヘアスタイルとか変わったよね? どうしたんだろ?」
「さぁ。自分でカットしたんじゃないかな?」
冷や汗を浮かべながら視線を逸らした。
ユーリちゃんは恋愛トークが大好物だ。フェアリー内のカップリングを話したり、ときどきドラマやムービーの俳優を口にしたりする。こんな場所でもけっこうなミーハーだ。
いや、もしかしたらそれが女の子の普通で、私が不慣れなだけかもしれないが。
「あんなイケメンなんて知らなかったなぁ。あーいいなー。先輩だし10歳くらい離れてるし、憧れるなぁ」
乾いた笑いしかでてこない。
顔がいいのは認めるけど、性格は変人そのもの。知ったら後悔するんじゃないか。
笑顔を作って相槌を打っていると、私の横を渦中の人物が通り過ぎた。
食堂にいるみんなの視線を集めているが、当人はいつになく無愛想。
先生にいろいろ言われたのだろうか。
ミュートさんは私と同じく手枷を外されて、私に何も言わず、右奥にいるツーカさんのグループを目指した。
「お灸を据えられた?」
ミュートさんはわずかに首を振って、いつものチョコを口のなかに入れた。
話にいこうか迷ったけど、トネリコの中は絶賛コミュ障モード。行くだけ野暮だろう。
「相変わらずねぇ。旅行……楽しかった?」
ミュートさんの向かいにいるブロンドの長い髪の女性がひじつえをついて微笑んだ。
うぅ、綺麗な人。たしかNO.21のリツキさんだ。食堂でよくミュートさんの近くにいて艶やかな匂いを漂わせている。
ミュートさんは無視して手元近くのコップに水を注いだ。
いや、かなり心境は複雑だけど、もう少し相手をしてもいいんじゃないかな……。
リツキさんはまるで気にせず、うっとりと口元を緩めた。とおもえば、彼女の細い腕が伸びて、コップをもつミュートさんの手に触れた。
「!」
思わず反応したのは私だ。
ミュートさんの耳の上を、彼女の細い指が髪をかき分けて入る。
「すごくきまってるね。あなたが切ったの?」
もう見ていられなかった。
心臓がトクントクン高鳴っている。
何あの距離感……。随分親しいじゃん。
あの人は、彼が重い場所だと口数が多くなるのを知っているのか。澄ましているフリしているけど結構男の子で、そのうえひどい映画マニアだって。そんな人がいいのか。
胸の内がもやもやする。うぅ、なんでこんなに気になるんだ。
もう見てられない。そう思った矢先、ミュートさんがそっと手を払いのけて立ち上がる。
「どこ行くの?」
ツーカ総長が不思議そうに見上げると、
「メンテナンス」
コップを食器置き場に戻してツカツカと歩く。廊下に出る際、一瞬、私と目が合ったけど、素知らぬ顔で通り過ぎた。
不安で押しつぶされそうになったけど、静かに胸をなでおろした。
本人もいっていたとおり、ここは自分の居場所じゃないんだ。
「こほん」
真横でユーリちゃんが手を握って咳をすると、目を細めてにやにやする。
やばい、全然忘れてた! これ絶対にツッコまれる展開だ。
「ツクモちゃんがいない間、こっちは仕事を全部押し付けられて大変だったんだよ。あーもう外の世界のこと聞かないと何もやる気になれないなー」
まずい。意外と策士だ!
「ケーキ用意したから、私の部屋で食べよう、ね?」
「あの、お仕事は??」
「大丈夫! 明日ちゃんと引き継ぎするから。ね、ほら行こう」
仲間たちの視線を集まるなか、ユーリちゃんは私の裾を強引に引っ張った。一瞬だけリツキさんと目が合ったけど、怖くなってすぐに逃げた。




