帰還
瞬く星の海が過ぎた。
周囲が漆黒に覆われ、吸い込まれていく重力圏。穏やかに流れる重力の波に逆らうように、銀色の巨大な船が黒い濁流の中にぽつんと浮かんでいる。
我が家だ!
いくつかの星を廻り、ワープ装置を使ってようやく生まれた場所を前にすると、その特異性に違和感を覚えた。まるで迫害されたグループだ。
改めて自分は中央政府の実験体なのだと気づく。
宇宙船が基地に接近すると格納庫のドアが開いた。トライズのAIはトネリコとリンクしていて、船は自動で中へ入っていく。外部モニターは全て遮断されて、中の様子が見えないでいる。
私たちは先生の警告を振り切ってでていったのだ。いうなれば政府に逆らった犯罪者。歓迎はされないだろう。
電子制御で出入口のスロープが動く音が聞こえると、隣にいたミュートさんがいきなり操舵室をでた。はや! 一緒にいこうとおもったのに!
私は自室にあるショルダーバッグを抱えると、開いてあるドアを抜けて格納庫の外へ飛び出した。
「あ」
両手を頭の上に置いて硬直するミュートさんと、それを取り囲む仲間の面々が銃を構えていた。
なかなか辛い構図だな……。
「ミュート。ツクモ。これから二人を指令室に案内する。悪いね、これも命令なんだ」
群衆より前に出てフェアリーズNO.3のツーカ総長だ。気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
ミュートさんはどうだろう?
横をちらりと向くと、無言で口元が緩んでいる。
やれやれ、またか。
好きにしろ、とでも言いたげだった。
手錠をかけられるのは人生初めてだけど、別に嬉しいものじゃない。
指令室は立体映像で作られた空間が広がっていて、どこまでも続く真っ白な世界に、あのグラマーで幼さが残る先生がぽつんと立っていた。
でも、この部屋は私が培養液の中で想像した記憶領域を再現していて、先生は実際にいない。
ミュートさんには何が見えているんだろうか。
知りたかったけど、視界を遮られているせいか気配を感じられなかった。
「ツクモ、あなたの行ったことは命令違反であり、基地のみなさんの規律を乱す行為となります。弁明はありますか?」
「いいえ、何も。大変いい休暇になりました。残りの期間、誠心誠意働かせてもらいます」
先生は額に手を置いて嘆息した。
「そういう問題ではありません。あなた方は政府の管理下にあります。就業期間を待たずに勝手なことをすればほかのフェアリーの存在も問われます」
私は先生を睨んで、
「政府が何をするっていうんです。保身のために試験管ベイビーを作っておいて。誰もブラックホールに来たがらないから私たちがいるんじゃないですか」
殴りにくるなら来いとおもう。臆病者め。
「落ち着いて。ツクモのいうとおりかもしれませんが、悪い噂がたつと卒業する者が困ります。だから身勝手な行動は控えてといっているんです」
……うぅ、機転が利くAIだ。私たちよりよほどお利口じゃないか。
「わかりました。大人しくします」
小さく頭を下げてやり過ごす。
ここで暴れても仕方ない。トネリコで数か月過ごせば、きっとケインさんがピアートの海を復活させてくれる。それまで我慢だ。
「とにかく……無事に戻ってくれて助かりました。みんなツクモを心配していたんですよ。元気な姿を見せてあげてください」
先生はそういうと、遠隔操作で繋いだ手錠のロックを解除して、その場で消えた。すぐ後ろに廊下のドアが開く。帰ってもいいらしい。
だけど――先に入ったはずのミュートさんの姿がない。
大丈夫かなぁ。全然喋らなさそうだから、反感くらってないといいけど。




