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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
4章 再生プロジェクト①
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氷柱

 ゆったりとした時間をかけて、シーズ264が重力圏に入った。

 これでもう、小惑星を破壊することも、地表で止めることもできない。誰にも止められない。ただ成り行きを眺めるだけだ。


 巨大な石の塊は青白い大地に直撃すると、巨大な氷の柱を宇宙に突き立てた。宇宙空間へ舞い上がった氷の粒はトライズに突っ込んできて、ミュートさんが光の障壁を作りながら回避運動を行った。

 モニターが氷の粉塵で大地が白く染まりしばらく何も見えない。

 大丈夫かな……。

 最悪なパターンは、氷が割れずに途中で留まることだ。

 不安のなか、小惑星の後方部が液体に飲み込まれているのを目にした。

 やった!!

 静かに拳を作った。でも、喜ぶのはまだ早い。水の中に入り込んだ後、小惑星が地底に届くまで残らなければこの海は元に戻らない。


 しばらくするとピアートから通信映像が入ってきた。

 水中で溶け始めた石の映像と、ワイプで表示されたケインさんだ。

「こちら本部。『命の星』は少しずつ落下している。地底までは当分先だが、順調だよ」

「よかったです。でも、着地時には衝撃で海の中が荒れます。注意してください」

「了解だ。シード264.お前は人に疎まれた星じゃない。その名のとおり、海に藻や珊瑚を作り出す種だ。人類の希望だ」

 そうだとも。

 君はただ無作為に生まれたわけじゃない。必要があってこの宇宙に宿ったのだ。

 岩肌が溶けだし粒子と気泡を出し続けるそれは、どこか輝いて美しかった。

 もう一度生きたい。

 不意にそんな声が私の胸に入ってきた。

 錯覚、いや幻想だろうか。科学的にいえば何一つ根拠がない。

 声の主がピアートなのか、シード264なのか。それともこの海で命を落とした生命の魂か。なんだってかまわない、声の願いを叶えたかった。


 黒色の地面に巨大な石の塊が着地する。同時に一瞬、映像が乱れ通信先のモニターがぐるぐる転がった。探査機が津波の影響で流されているのだろうか。

「――こちら本部」

 聞きなれた声!

「多少の通信障害が発生したが問題ない。探査機に不備はあるがいまも生きている。なによりツクモさん」

 息をのんで返事を待つ。

「ミッション成功。シーズ264周辺の水質が少しずつ和らいでいっている。岩が溶けるペースはシミュレーションどおりだ」

「やったー!」

 両手を上げた後、嬉しさのあまりミュートさんに抱き着いた。ミュートさんは少し驚いた顔をしたけど、私を抱きしめて子供をあやすみたいに背中をなでている。

 目頭が熱くなった。

 不安でも悲しみでもない。

 こんな小さな私でも、誰かのために役に立ったのだ。

 モニターの先から大きな拍手が聞こえてきた。ケインさんだ。私はミュートさんの胸の中にいたまま首だけ曲げてモニターに向いた。

 ケインさんは涙目でコップの水を飲んだ。


「後のことは任せてほしい。この隕石の質量だと溶け切るまでに数十年はかかるし、水質を安定するまで調整も必要だ。君たちは一度トネリコに戻って時間の経過を待ってほしい」

「それでケインさんは?」

「安心してくれ。計画はまだ初期段階だよ。無人でも循環できる環境を整えたらコールドスリープに入る。定期的に起きて、大丈夫そうなら君たちに連絡する。信じて待っていてほしい」

「わかりました!」

 ケインさんは、ありがとうとこぼして通信を切った。


 不意に静まり返る船内で、凛々しい顔立ちのミュートさんと目が合う。

 そうだ。私、ミュートさんに抱き着いたままだ。

「ごめんなさい」

 とっさに離れてその場で立ち尽くす。

 やばい、どうしよう。

 思いだして耳まで顔が熱くなる。たまらず視線を反らしながら、反応を伺う。

 ミュートさんも少しだけ頬が赤い。無口モードだから考えていることがわからない。

「座れ、帰るぞ……」

「う、うん」

 恥ずかしさで固定シートも忘れてぼーっとする。手持無沙汰なせいか膝の間に手を入れてわけもなく腕を動かす。でも気まずい時間が続くばかりで一向に落ち着かない。

 うぅ……うぅ……。何か喋らないと。

「その、いきなり、ごめんなさい……」

 ミュートさんが船を加速させた。

「べつに……。重くなかった。気にするな」

 そこ気にしてねーよ!

 あぁ、もう、ときめきとか台無しだ。謝らなきゃよかった……。


 がっくり項垂れていると、チョコを渡された。手に取って包装紙をあけると、

「帰ったら大変なことになるな。注意しろ」

「あ、うん……」

 心配してくれているんだ。

 黒い塊の固形物は、今度は甘くてもう一コ欲しくなった。


 それからまた半年かけてトネリコに帰るのだが、甘酸っぱい記憶はそれだけ。私は次の計画である太陽光に頭を悩ますのだった。

年末年始も終わりを迎えたので、22時頃の投稿時間に戻ります。

投稿頻度はストックが少なくなったら2日1回になります。

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