転移
3日ぶりの宇宙にきた。落下地点の登録を終えた私たちは、トライズに乗り換えて海底から大気圏、そして宇宙へ飛びだした。
さすが汎用小型宇宙艦だ。重力があろうがなかろうが容易に飛んでくれる。
ケインさんとの合流時間までもう間もなくだった。
果たして戻ってくるのだろうか。トネリコからピアートまで、政府が管理するワープ装置を使っても半年はかかった。それを72時間で戻ってこれるのか。巨大な隕石を携えて。
「ケインさんがブラッドゴールドを持っていきましたけど、何の力があるんですかね?」
「さぁな……」
ミュートさんは以前より口数が少ない。元に戻ったというべきか。
相槌を打ってくれるのはこのプロジェクトに興味があるからだろう。
ブラッドゴールドは不思議な石だ。だけど、この銀河ではまだ見ぬ謎の物質があるんじゃないかと考えてしまう。中央政府が宇宙開拓を進めているのは、天然のワームホールのような、超エネルギーの発見だろう。それが人の希望や豊かさに繋がるのだとおもっている。謎を解明したいのは人の業かもしれない。
『周囲の宙域から熱反応感知』
船内のAIから音声が流れる。
「!」
私とミュートさんが同時にモニターを切り替えた。
複数の外部モニターで詮索していると、デブリみたいな凹凸のある石の先端が、何もない宇宙空間から現れ始めた。
それは少しずつ巨大化していき、ついにはトライズが米粒とおもえるほど、巨大隕石が姿を見せた。後部にロケット噴射口がついていて、炎を吐き出している。
シード264、小惑星って聞いたけどなんて大きさだろう。くすんだ黒い大地に、白色の氷を纏った石の塊。あんなものが動いていたら、宇宙政府にすぐ見つかってしまうはずだ。
「ほんとに来たのか……」
ミュートさんが声を漏らした。
ケインさんの船はどこだろうか。モニターを拡大して調べると、トライズに通信が入った。
「こちらケイン。転移に成功しました。目標地点の座標をお願いします」
「はい!」
返事をしながら伝達先を追う。モニターを拡大すると、隕石の先端部に平坦な地面があり、その場所に黄金の戦闘機が止まっていた。
「こちら、トライズのツクモ。速度は指定した数値を維持しつつ、小惑星を誘導してください。くれぐれも逃げ遅れがないようにしてください」
「わかってる。私も海が復活する様子をみたいからね」
通信が途切れると、徐々に接近するシード264を見守った。ケインさんは隕石の表面にとりつけた噴射口を操っているのか、四方のロケットからでる炎を調節している。
「こちらツクモ。予定コースに入りました。周囲に障害物はありません」
「了解。もう少しで既定の速度に到達……。来た! エンジンを停止させて私も離陸する」
小惑星の端部から青白い閃光が線を描いたのが見える。
「離陸成功。ツクモ、ミュート、すまないけど私は一度基地に戻る。海の状況は水中探査機で細かく把握しておくよ」
「お願いします」
「例の石、後で取りにきてもらっていいかな?」
私とミュートさんは互いに目を合わせた。
隕石落下を見届けた後は、水中形態に戻るのが面倒だったので、このままトネリコに戻る予定だ。
大丈夫? と目で告げるとミュートさんが黙って手を振った。
「持っていてください。お願いします」
「わかった。次に君たちが来るまで安全な場所に置いておくよ」
確認でミュートさんに向くと、一回だけ顎を引いた。
喋ればいいのに。思ったけど、声にださなくてもわかる気がした。いつの間にか私も慣れてきたな。
ミュートさんが安全圏まで移動すると、小惑星を追走するようにエンジンを切った。
あとは星に到達するだけ。
衝突まで数時間に及ぶが、不安は尽きない。
ちゃんとたどり着くだろうか。落下した後、氷を割ってくれるだろうか。
速度と重力の計算は問題ない。ピアート星にあったシミュレーション装置で何度も試した。その通りであればいけるはずだ。
両手を重ねてじっと祈った。
この宇宙のどこかにいるかもしれない神様。
もう一度水の惑星に命を与えてください。




