隠したいこと
ガリガリガリと聞こえるような掘削した様子がモニターに映っていた。
現在、イース人の設計した龍の無人探査機で氷を割っている。
格納庫に置かれた、私が生物と見間違えたやつだ。実際に操作するとはおもわなかったぞ。
探査機には目の部分にモニターが付いており、それで正面のみを観ることができる。探査機には頭や口部のほか全身に棘がついており、ヘビのように蛇行しながら前進することで氷を割ることが可能になっていた。
ーー地獄のような計算の結果、シード264をそのままピアートに落としても氷の大地を壊すことができなかった。なにせ海水まで20キロの厚さだ。水中までたどり着くには氷に亀裂を生じさせて割れやすくする必要があった。
それにしてもイース人の技術はすごい。
探査機は水中だとステルスモードがついて、特殊装甲による屈折で水と同化する。静音性も優れていてソナーに引っかからない。トライズで潜水したとき、見つからなかったのはこのためか。
私とミュートさんが海底基地から探査機を動かしている間、ケインさんは一足先に宇宙へ旅立った。
格納庫に置いていたもう一台の宇宙航空機でシード264を取りに行っているのだ。
戻るまで3日と12時間。それまでに氷の採掘ミッションを2日のうちに終わらせ、残りの時間はトライズで宇宙にあがり、落下地点へ誘導するミッションとなっている。
順調に氷を割って進む画像を見ていると、ミュートさんが不意につげた。
「ツクモはあの男に違和感を抱かなかったか?」
探査機の操作に夢中になっていた私は、ん? と小首をかしげた。
「ブラッドゴールド、そしてワープ走行。そんな技術があればイース国の住人を宇宙にあげることもできた」
「資源がないんじゃ無理だったんじゃないですか? 私たちは中央政府の存在があるから移住できることは知っていますけど、イース国の人は宇宙にでたことがありません。惑星の移住は簡単ではないですよ。それに、もしコールドスリープしなかったら地表の二か国から襲われる可能性もありましたし」
「たしかに一理ある。まぁ悪い奴には思えないが、何かきな臭い」
他人に頓着しなさそうなミュートさんなのに、珍しかった。
「隠したいことがあるってことですか?」
静かに頷くミュートさんに、私は首を前後に動かすばかりだ。
普通の人は過去をもっている。それが美しいものか醜いものかは知らないけど、誰しも秘めた記憶があり、それを引きずりながら生きているはずだ。
「詮索するのは野暮です。騙されたら悲しいけど、それでも私は海が見たい。そのためなら何でもします」
話していたらコンピュータから警告音が鳴った。
やばい、探査機を酷使しすぎた。海の中に戻って冷却させないと。
焦っている私に、不意に視線が注がれる。
ちらりと横をみると、ミュートさんが澄んだ眼差しでじっと私を見ていた。
うぅ、急になんだよぉ。ここは深海なんだしいいたいことがあればいいのに。
「お前みたいなやつ、初めてだな」
「ちょ、なんですか急に!」
こっちは探査機がオーバーヒートするんじゃないか焦っているのに。
「やりたいことがあっていいんじゃないか?」
ミュートさんが優しく微笑む。
「――――」
胸の内がキュンと貫いた。自分の頭が熱くなるのがわかる。
なんですか、その可愛い顔は。宇宙にいるときと全然ギャップが違うじゃないですか。
ようやく警告音が止んだど、私の心臓はいまも高鳴っている。
ほんと反則。こっちがオーバーヒートしそうだ。
「そ、そういえば政府の船が消えましたね……」
火照った顔を隠すように、画面に近づけながらいう。
「水中都市といっても半分は崩壊している。地底も見づらい分、リスクを冒してまで入りたくないんだろう。上の命令で仕方なく来るやつもいるだろうからな」
「熱心じゃないんですね」
「あぁ……死の海を調査したところで、たかが知れているからな。ツクモの送った画像も、コンピュータのバグだとおもって引き上げるだろう」
ケインさんが中央政府ではなく、私たちに協力をもちかけたのもうなずける。
やっぱり自分たちの手で元通りにしなきゃ。
冷却を終えた龍の探査機を再び氷の壁にぶつけた。




