シード264
ここからは宇宙政府と、その起源となる惑星レギの歴史になる。
まだ宇宙政府が成立する前、惑星レギとその周辺宙域の宇宙では、レギ連邦政府と宇宙連合軍が対立していた。テラで有名なガンダム作品をイメージしてもらっていい。
転機が起きたのは4777年。戦争を支援していたAIが突如反旗を翻した。
効率化かバグか、一部の人間が書き換えたか原因は定かではない。理由はどうあれ、映画のターミネーターみたいに機械が人を滅ぼし始めた。
すると、これを契機に人類は協力。根源のAIを打ち破って宇宙は平和になった。
で、本題はここからだ。
首謀者のいたAIの中心には悪魔の輪と呼ばれるドーナツ型の兵器があり、それを破壊するために人が到底住めなさそうな隕石群をぶつけた作戦が残っている。
そのなかにアンモニア含蓄量が高い、氷成分の小惑星も存在した。それがシード264。最直径は20キロメートル。成層圏の星であれば、落ちれば核の冬がくるものだ。
惑星ピアートの表面積はそれほど大きくなく、海に溶ければ水質が変わる可能性がある。仮に中性にできなくも、人が触れても問題ない水質なら、人工的にアンモニアを生成し、海の成分に近づけるはずだ。
また、シード264を選んだ理由はもう一つ。
自走運転ができるのだ。悪魔の輪を倒すべく小型の推進エンジンが取り付いて、大雑把だけど方向転換が可能だ。
「でも、これを使うには超重要な問題があるんです」
そのとおりだ、とミュートさんも小さく頷く。
「シード264は惑星ピアートから果てしない距離にあります。通常の航行では、1億年はかかりますし、政府の管理するワープ装置は使えない。何より無断で持ち出したらすぐに捕まります。現実的に不可能です」
そう補足すると、ケインさんは組んでいた腕をほどいた。
「実験結果がないのですが、ピアートで研究したワープ装置を使えば可能かもしれません」
「そんなのあるんですか!?」
「えぇ、研究者の間だけで、公には認められていませんが」
ミュートさんがおもむろに手を上げる。
「政府が使っている天然のワームホールや、ワープ装置と干渉しないのか」
「おそらく。あなたがたの転移は4次元空間を経由して移動しますよね。私たちの技術は単純に光の速度を越えます」
「できるのか!?」
あの涼し気なミュートさんがいきなり声を荒げた。
「ある物を使えば。施行回数は少ないですがね。そのために、お二人の船にあった金の亀裂が入った石をお借りしたいんです」
私とミュートさんがおもわず目を合わせた。
「すみません。あなた方と接触する前に、船内を調べさせてもらいました。宇宙海賊の恐れもありましたから」
ミュートさんが腕を組んでじっと見つめる。
「あの石には光の速度を超える何かがあるのか」
「はい。専門外なのでどういう理屈かわかりませんが」
ミュートさんはこめかみを押さえた。
珍しい、これは悩んでいる顔だ。
「ミュートさん、やろう! あの石の調査が進むかもしれないよ」
「好きにしろ」
お得意の返事に、私とケインさんはハイタッチを交わした。
残る問題は小惑星の質量と、ピアートの重力における衝突計算だ。
なにせ分厚い氷を割って海に沈める必要がある。強ければ地殻が揺れて、海底都市が崩壊するかもしれないし、勢いがなければ氷の上で止まることになる。
「ここからは地獄のような計算が必要ですね」
そういっているケインさんはどこか晴れ晴れとしていた。
あとは総当たり戦だ。当たりを引くまで地味で過酷な作業だけど、それすら楽しみでならない。
やばい、妄想するだけでにやにやしてしまう。
私の改造したトライズが、魚やクジラたちと一緒に海の中を泳ぐんだから。
頭のドリルがクソダサいけど!




