惑星をなおす少女
基地内のオフィスに集まった。
海中資源が主だったイース国では、チョコの原料であるカカオはなく、ミュートさんは寂しそうにトライズへ取りに戻った。
何なのだ、あのチョコマニア! ほんとに星のことなんてどうでもいいのか。
もしかしたらバレンタインを世界一喜んでいる男かもしれない(そしてあのビジュアルが憎い!!)。
無言でキレる私に、ケインさんは苦笑する。
もういいや。二人だけで考えよう。
切り替えるように嘆息すると、
「威勢よくいったのはいいですけど、具体的にどうすればピアートを戻せますかね?」
「まずは水質でしょう。私たちは種の保存のため、人類以外の海生類も眠っています。水と酸素が戻れば、彼らを元に戻すことができます。次いで太陽光になりますね」
「先に大気圏を作るんじゃないんですか?」
「海の生命が活動できることを証明したほうが、不安はなくなると考えます」
うむ、と腕を組んで頷く。
「これは別件ですが、もし星が再生できたら改めて法律を作る必要があります。私はこの星が再び争いが起きるのを見たくない」
「同感です。何のために復活させたかわかりませんしね」
話を聞きながら、船からもってきた小型端末に打ち込んでいく。
目標
1.海の再生
2.太陽および大気圏の生成
3.惑星国家の法律
顔をあげるとケインさんが不安そうに私を見つめていた。
「これは推測ですが、星を元通りにするには数千年は有します。私たちはコールドスリープで眠り続けていますが、ツクモさんは難しいのでは」
「大丈夫です!」
私は両手を叩くとフェアリーの説明を始めた。
「トネリコでは1年で宇宙の400年分過ごすことになります。だからこのミッションは私たちにうってつけです。ピアートが回復している間、宇宙政府は技術革新が生まれるかもしれません。正直いいことしかないです」
生まれて初めてフェアリーでよかったとおもう。まさか星の再生に私たちの存在が役立つとはおもわなかった。
感慨に耽るのはこれくらいにして、具体的に考えなきゃ――。
最初の課題である海の再生だ。
現在、ピアートの水は強酸性で、鉄をも溶かす濃度だ。星の自浄作用では歯が立たない。
「イース国には海を循環する装置はないんですか?」
「残念ながら。全長10キロ程度の湖ならなんとかなりますが、この星のほとんどが海です。人間の力ではどうにもなりません」
ケインさんは悲痛な表情を浮かべる。
私は腕を組んで考え込む。
巨大戦艦やコロニーの浄化装置はあるものの、
星にある海そのものをすべて循環した過去はほかにない。人類の科学じゃどうしようもなさそうだぞ。
仮に宇宙政府がろ過装置を用意することができても、莫大な時間が必要だし、稼働エネルギーも馬鹿にならない。彼らだって、ただの惑星人のためにそこまでしない。
大気を循環できる植物がいればいいけど、太陽光がないから育たないし(もっといえば植物を調べて、育つ環境を整える必要もある)、地中の岩石成分を調べても、水質を中性に戻す石の量が足りないだろう。
そもそも、ほとんどの有人惑星の原初は、酸性の海である。そこから幾億年かけて、地中の土や岩石の成分を溶かして弱アルカリ性になった。
悠久の時を経て生命が宿る星になったのに、また戻すなんて不可能では。
いや、諦めるな。べつに重力をつくるわけじゃないんだ。水族館の水槽だって人の手で管理できる。水の成分を変えること自体は簡単なはずだ。問題はその量が多いだけ――。
「あ……」
アイディアが浮かんだ瞬間、咄嗟に頭を抱えて、髪をくしゃくしゃにした。
「ど、どうしたんです? 」
まだ答えるわけにもいかず、私はデスクに腕を置いて顔をうずめる。
うぅ……。どうしよう、本当にやるのか。具体的かつ現実的かわからない。でも、前例はあるし、いや、その前例が危険すぎるから私の身も危うくなる……。
「ツクモさん、大丈夫ですか??」
声を荒げるケインさんに、私はゆっくりと顔を上げて苦笑した。
いまさら安定をとって何になる。私はこの命をかける覚悟があるんだ。
「唯一方法があります」
粗ぶった髪が事の重大さを物語る。
私がそれを口にした瞬間、ケインさんは瞬きを二回した。
「は? よくわかりませんでした。もう一度お願いします」
私は髪を手櫛で整えた後、天井に人差し指を指した。
「星を落とすんです。アルカリ性の強い星を」
我ながらぶっ飛んでるな。




