星の歴史
ケインさんに導かれるまま、私たちは地底基地のメインエントランスにたどり着いた。目に入ったのが巨大な円柱状の電子ライブラリィで、ケインさんが正面の装置を動かすと、何もない空間に3D映像が現れた。
「これは、初めて来た人に我々の星の歴史を紹介するものだ。この星がいかに繁栄し、死の星に成り代わったか伝えたい」
3D映像は宇宙が映り始め、ピアートの公転軸となるガス惑星「ライザン」をフォーカスした。
ライザンはピアートの二〇倍の面積がある巨大なガス惑星で、太陽のように光を放っていた。そのライザンを囲うようにいくつかの惑星があり、その1つピアートも映っている。
ライザンは他の太陽系と違って光が弱かった。
そしてピアートは公転の軌道が楕円形かつ、自転も縦回転であったため、陽光があたる場所が限られた。
陽の光が近い場所で、ピアートに海と大地が誕生した。そこから生命が生まれ、類人猿に火を使える賢者が現れて、水中ガスや石炭などを利用し急速に発展した。
人類が誕生し3000年の時を経て世界地図が完成する。けれども、土地と太陽光を巡って二つの大国が戦争を始めた。
長期化する戦争に嫌気が指した一部の人間は、光がない氷の世界へ移住した。彼らは陽光の代わりとなる資源を求めて水の底に基地を作った。
「それがここ、第三の国イースなのです」
映像を途中で止めたケインさんが地面を指して告げた。
「我々の存在を無視するように地表では戦争が続きました。けれども4521年、ライザンの熱光線が弱まったことで二大国の資源が減り人口が減少。両国は乏しい太陽光を巡ってさらに戦争が激化させたのです。
そして悪夢の年と呼ばれる5577年。二大国が大地を焼き尽くす大戦争が起きます。
大量の化学兵器の影響で酸の海が生じ、海の生物が絶滅しました。魚や哺乳類や海藻を主食にしていたイース人は、食料を失い衰弱死や自害が増えたのです。残された人間は、この星の歴史と醜い惨劇を残すため、コールドスリープで眠ったのです。
いつか訪れるであろう別の惑星人に伝えるために」
少しの間、沈黙が続いた。
私といえばケインさんの話を受け止めきれずにいた。
なんて自分は身勝手な想いでこの星に来たのか。酸の海になった理由も考えなかった。
宇宙政府の歴史もそうだが、人は争ってばかりだ。なんて虚しい生命なのだ。私たちの愚かな行いが、星に住む多くの生命や惑星そのものに被害を与えているじゃないか。
「奥にはコールドスリープで眠ったままの同胞がいます。ですが、この状況で彼らを目覚めても、ピアートで生き抜くことは難しいです」
「できるとしたら星の移住か」
ミュートさんのことばにケインさんも頷く。
でも、それで彼らは救われるのか。
見知らぬ星、見知らぬ土地に生きて何が幸せか。救いがないようにおもえた。絶対にこれまで生きてきた場所に戻りたいはずだ。
「ケインさん! 私はこの星を再生させたい! 空も海も元通りにして、ピアートの人たちが自分の星で生きていけるよう、昔の状態に戻したい!」
無茶で無謀で浅はかなのはわかっている。人の力では到底できない、神様からしたら傲慢な考えだ。
だけど、こんな悲しい星の歴史に触れて、トネリコに帰るなんて嫌だ。
私の発言に、ミュートさんは目を見開き、ケインさんは口をあんぐりと開けた後、目を輝かせて大きく頷いた。
「えぇ! それこそ私の本望です。だが、こちらはお二人の具体的な科学レベルを知りません。星を復活させるため、どういった手段があるか教えていただきたい」
「それは……」
私も具体的な案は浮かばない。
気持ちが先走ったものの、人間が星を蘇らすなどおこがましいのだ。
悩みあぐねているとミュートさんが手を挙げた。
まさか意見をくれるのか!?
「どうぞ!」
「少し腹が減った。ここにチョコレートはあるか。口が寂しくて仕方ない」
他人事かよ!!




