89 僕は海賊船に乗りたいんだ!
僕は船体を漆黒に染められた海賊船に近づいた。
「ちょっと、そこの獣人君! 勝手に人の船に触ろうとしないでもらえる?」
「あっ、すみません。カッコよくてつい……」
僕が海賊船に触れようとしていると、妖艶かつ可愛らしさのある声の女性が話しかけてきた。
淡いピンク色のロングヘアに深海のように深い紺色をした真っ直ぐな瞳、そして落ち着いた立ち姿のお姉さん。
年はあまり離れていなさそうだが、ハリのある白い肌に健康的でグラマラスな体型が余計にお姉さん感を出している。
服装は赤と黒、そして金色基調で作られた、いかにも海賊が着てそうな帽子とコート、ショートパンツに白いニーハイを身に付けている。
「まぁこれはテンヤ様が直々に創造魔法で作った船、『オーバートロカム号』だからね。惹きつけられるのも仕方ないけどさ、勝手に人の物に触れるのはダメだよ?」
「はい。すみませんでした」
「まぁ良いさ。君が悪意があって触れようとしたわけじゃないのは分かってたからね。それに、もし君に悪意があったならその時は……」
海賊のお姉さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべて、腰に携えている赫と黄色のフリントロックピストルと、黒と紅色のサーベルをチラつかせた。
「アッ、アハハ。き、肝に銘じておきますね。アハハハ……」
僕はお姉さんの発する不穏なオーラに苦笑いを浮かべるしかなかった。
「うむ、君は賢い子だ。それで、そちらのお二人さんは友達なのかな?」
「あっ、僕はゼーレと申します。僕達はこれでも一応勇者パーティーでして、この獣人、ライムはちょっと抜けてる感じがして頼りないですけど、ほんとはものすごく強い奴なんです」
「同じく、私は勇者パーティーのレイラです。よろしくお願いします」
「っ! 君達がかの有名な勇者パーティーだったのか、私は海賊、『紡ぐ者』の船長を務めているエマだ。宜しく」
「かの有名なって、そんな……。ぐへへ」
ゼーレは、はにかんだ笑顔を浮かべてニヤついていた。
「ゼーレ。嬉しいのは分かるけど、ちょっとキモいよ」
レイラは、ゼーレに凍てつく様な冷たい視線を送った。
「なっ!」
「うん。あからさま過ぎて、流石の僕でも引いたぞ」
「うっ! ひどい……」
僕の言葉を受けたゼーレはしょんぼりと肩を下ろした。
「フフ、勇者パーティーって案外面白い人達だったんだ。仲が良いのは何よりだね」
「あ、アハハ……」
僕達は苦笑いを浮かべた。
僕達がエマさんと話していると、船の上から人影が飛び降りてきた。
「ねぇ姉さん。なんで雑魚そうな部外者がこの船に乗ってんの?」
背は160cmより少し小さいぐらい、全てを見下しているかの様な視線を送っている赤に染まった瞳に蒼髪マッシュヘアのイケメンお坊ちゃん。
横柄な態度に絶対的自信を持っている様な立ち振舞い。正直強そうには見えない。
だが、かすかに上に立つ者、皇帝のオーラも感じ取れるのもまた事実。
「あぁん? やんのかこのガキ!」
ゼーレは腕をまくり、ドスドスと足音を立てて男の子に近づいた。
「ちょっ、落ち着けってゼーレ」
僕はゼーレの両脇を掴み動きを止めた。
「離せよライム。僕は勇者として、あの生意気なショタを分からせないとダメなんだ!」
ゼーレはジタバタ暴れた。
「何でお前が『わからせ』とか言う概念知ってんだよ……」
「お前がハルカとかレイラが居ない時に語ってただろ!」
「あっ、そうだったか?」
僕はただ苦笑いを浮かべた。
「いや、てかそもそも勇者なら煽られたぐらいで怒るなよ」
それからもゼーレは僕に抑えられながら暴れていた。
「ぷっ、アハハハ。お兄さん達面白いね。ボクの名はスズリ、覚えておくと良い」
スズリは、上から目線で話した。
コイツ、マジで典型的な調子乗ってるショタだな。
「こら、スズリ。勇者様達になんて口聞いてるの」
エマさんは、スズリの頭にやさしくチョップを入れた。
「痛テッ! って、ハァ〜ッ! こんな弱そうなのが勇者パーティーなの? 世も末だな」
スズリは、バカにしたような感じで僕達を指さしながら、クスクスとニヤついていた。
ゼーレは、歯を食いしばり、拳を強く握り、なんとか踏みとどまっていた。
「それで、エマさん。1つお願いがあるんですけど、僕達をこの船に乗せてヒストア王国まで連れて行って欲しいです! お願いします!」
僕は流れるような綺麗な土下座で頼み込んだ。
「おい、ライム! 僕は嫌だぞ。こんなクソガキと一緒に船旅なんて」
「そろそろ落ち着いて、ゼーレ」
レイラはゼーレの頭を優しく撫でて言った。
「ぐぬぬ」
ゼーレは、レイラに頭を撫でられて不服そうな顔を浮かべている。
「ふっ、こっちこそ。こんな雑魚勇者を連れての危険な船旅はごめんだね」
「こらっ!」
エマさんは再びスズリにチョップを入れた。
「ライム君? だよね。勇者達の旅路をサポートできるなら、喜んで引き受けたいんだけど、一つ条件があります」
「条件? どんなのだ?」
「近頃の調査でやっと、クレイエスから少し東に行った所の孤島に『水竜プリュトロム』と言う魂之力で体を水に変えている竜が仲間の水竜達と共に巣を作っているのが分かった」
体を水に変える!? つまり、肉体や魂を水に変えて実体が無くなるんだよな?
あれ? そのプリュトロムとか言う奴、神と同じ芸当が出来るって事になるな。マジか、僕そこら辺の竜に追い抜かされてんじゃん。
「それで、僕達はそいつを倒せば良いのか?」
「あぁ。実は私達二人は『水竜プリュトロム』を倒す為にテンヤ様の仲間になり、この船を任されたんだ。でも、今の私達では倒せる算段が無くてね」
「姉さん、これはボク達の問題だ。同じような過去を持つクルー以外の人間には頼りたくない」
「スズリ、分かっているでしょ? 私達の力ではあれを倒すことはできない」
「そうだけど……。ちっ、分かったよ」
スズリは顔を曇らせながら不満そうに言った。
「よし、決まりだな。理由は聞かないが、貴方達は水竜を倒したい。僕達は海賊船でヒストアまで行きたい。両方の利害は一致した」
「ライム、僕達は別に海賊船に乗りたいなんて言ってないぞ」
ゼーレは溜息を付いた。
「えぇ、エマさん達には失礼になるけど、この船より豪華そうな船ならたくさんあるから、そっちに乗るのもありだと思うけど……」
レイラは、ジト目でこちらを見つめながら話した。
「うるさい! 僕は海賊船に乗りたいんだ!」
僕は海賊船を指差しながら、真剣な眼差しでゼーレを見つめて言った。
「ら、ライムがこんなに自分を貫くなんて珍しいな」
ゼーレ達は、僕の普段とは違う雰囲気に驚いていた。
「ハァ〜、分かったわ。水竜を倒して、この船に乗せてもらいましょう」
「そうだな。スズリは気に食わないが、ライムの珍しい姿が見れたしその依頼、僕達勇者パーティーが解決するとしよう」
ゼーレは勇者モードに切り替え、胸に手を当てて、爽やかな笑顔で言いきった。
「よっしゃあー!」
僕は両腕を上げ、大声で喜んだ。
「ライム、まだ旅ができると決まった訳じゃないぞ」
「ほんと、意外と言うか、見た目通りと言うか、ライムは子供っぽい所があるわよね」
ゼーレとレイラは、はしゃぐライムを見て乾き笑いをしていた。




