90 船出の時
「それで、プリュトロムは何処に居るんだ? 早く倒しに行こうぜ!」
ライムは、早く海賊船で旅をしたい気持ちでワクワクが止められなくなっていた。
「ライム君、そんなに急かさないでくれ。今日この船に私達の仲間が皆んな集まっている訳では無い。どうせなら、皆んなが集まっている時に倒したいんだ……」
エマは沈んだ表情で言った。
「んまぁその為に集まってんだもんな。ごめん早とちり過ぎた」
「いや、謝る必要は無いよ。普段乗らない者からしたら、海賊船は魅力的なんでしょ?」
「うん。めっちゃカッコいい!」
ライムは目をキラキラと輝かせて言った。
「まぁだとしても、明日の朝まで待ってもらいたい」
「おい、ライム。あまりエマさん達を困らせるなよ」
「分かってるよ。じゃあテンヤから貰ったお金も結構あるし、今日は奮発して宿に泊まるか。エマさん、宿の場所教えてもらっても良いですか?」
「うん、良いよ。でもここは宿というより、ホテルの方が正しいけどね」
エマさんは、持っていたクレイエスの地図を片手に宿の場所を教えてくれた。
「今日は宿に泊まれるのね。何だか久しぶりにお風呂に入る気がする」
レイラは、自身の髪の匂いを嗅ぎながら言った。
その後、僕達は港を後にし、エマさんに教えてもらった宿に向かった。
時折、路地裏にシエル達やナイトサンダーズの人影が見えたが、いつものことなので特に気にかけずに歩いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エマさんに教えてもらったホテルは、大きなビル丸々ホテルの高級そうなホテルだった。
「すっげぇ〜、テンヤ達が居たビルも綺麗だったけど、更に綺麗だ」
「壁が光を反射していて眩しいくらいね」
僕達はフロントまで行きながらホテルの内装に呆然としていた。
え〜っと、僕も前世でこういうところに泊まったことがないから分かんないけど、まず始めはチェックインだよな。
「あの、すみません」
僕は色白で金髪碧目をしたフロントのお姉さんに話しかけた。
大きな胸の横部分がチラ見えするほど露出の多い服に金髪をセンター分けにしている美女。接客向きすぎる。
てか、なんかこの世界ってやたら美男美女が多いからか、露出度の高い服を着てる人が多いんだよな。
「ようこそお越しくださいました、勇者ご一行様。お部屋は既にご用意しております」
思わず聞き入ってしまうようなよく通る高い声にライムは内心拍手をした。
すげえきれいな声だなこのお姉さん。つーかこのお姉さん、僕達が来ることを知っていた!? まさか……。
「え、怖!」
ゼーレは、大きいリアクションで驚いていた。
「お姉さん、何故私達が来る事を知っているんですか?」
レイラは恐る恐るフロントのお姉さんに聞いた。
「あれ? お知り合いの人に頼んだのではないのですか? 黒いスーツにフードを深く被って顔を隠したエルフの二人が『勇者様達が来るから最高級の部屋を用意しろ』、とお金を置いてかれましたよ」
フロントのお姉さんは、不思議そうに首を傾げながら話した。
はぁ~、やっぱりナイトサンダーズだったか。状況から考えるに、フロントのお姉さんにお金を渡したのはアイとカルラだろうな。
「ま、良かったじゃん。これでタダで高級ホテルに泊まれるんだし」
「そこまで楽観的に捉えられると、逆に羨ましくなってくるな」
「それでは、こちらお部屋のカードキーでございます」
「え? お姉さん今なんとおっしゃいました?」
僕はフロントに勢い良く手をついて、お姉さんに顔を近づけながら大声で言った。
「えっと……、カードキーと言いました……」
フロントのお姉さんは、慌てた表情を浮かべ狼狽しながら言った。
か、か、カードキー!?
おいおい、そんな技術まで採用してるのかよ。まぁ透明になったり、異次元と繋がる空間を出現させたりする方がぶっ飛んでるか。
僕達はフロントのお姉さんからカードキーを貰って、最上階までエレベーターで上がった。
カードキーに書いてある部屋まで行くと、扉の横にキーをかざすであろうパネルがあった。
僕は恐る恐る、キーをパネルにかざした。
すると、ガチャッと音がして鍵が空いた。
「よし、開けるぞ」
「「うん」」
僕はゆっくりと扉を開けた。
「うわー凄い!」
ゼーレは思わず声を漏らした。
目の前には、ふかふかのベットが3つと大きなテレビ、全面ガラス張りのベランダがある最高の景色が広がった。
僕達は先ずふかふかのベットにダイブし、その後夕食が来るまでダラダラして過ごした。
夕食も期待を裏切らない豪華さだった。
洋食も日本食も余すこと無く、最高レベルの再現度。
ゼーレ達は初めて食べる料理に箸が止まらなくなっていた。
僕も久しぶりに食べる料理に涙が出そうになりながら味わって食べた。
その後に勇者パーティーだからと言う名目で予約制の大浴場へも行き、ホテルを満喫した僕達は寝る用意をした。
真ん中がレイラで、扉側がゼーレ、窓際が僕の順でベットに寝た。
ゼーレ達は早い段階で熟睡していたが、僕は楽しみ過ぎてあまり寝れなかった。
数時間後。
「おはよう」
「「おはよう、ライム」」
僕達はホテルの朝食を食べた後、直ぐに支度をしてチェクアウトを済ませた。
その後、ホテルを後にした僕達、特に僕はリュックを背負いながら軽やかなステップで港へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
海賊船には、数十人の乗組員が乗っていた。
「そうだ。詳しく聞いてなかったんだけどさ、プリュトロムってどんな場所に居るんですか?」
海賊船に搭乗したライムは、エマに話しかけている。
「『水竜プリュトロム』は、ここから東に船で大体2時間程移動した先の孤島付近に生息しているの」
「結構かかるんですね」
ゼーレは、勇者モードで大人しくなっていた。
「えぇ、だから3人にはその時間に乗組員の人達とお話しでもしてもらおうと思って。もし水竜を倒せたら、最低でもそこから1週間は一緒の船で生活するもの、仲良くなってほしいわ」
「確かに、ギスギスしたまま同じ船に乗るのは気まず過ぎるものね」
レイラは苦笑いを浮かべて話した。
その後、ゼーレとレイラは乗り組員の人達の話の輪に入って行った。
「ゼーレは分かるけど、レイラって普段クールで僕達以外とはあまり話さないのに結構コミュ強だよな」
僕は呟きながら、黒竜の形をした船首に登った。
「いや〜、やっぱ出航の時は此処に居とくのに限るよな」
僕は船首から海を一望した。
「ライム君。落ちないように気を付けてね」
エマは子供を見るような目でライムに微笑んだ。
「うん、分かってるよ〜!」
それから少しして、『オーバートロカム号』は港から出港した。
「よし、じゃあ『水竜プリュトロム』討伐の航海に出航だ〜!!」
僕は右腕を高らかに上げ、叫んだ。
「「オォー!!」」
すると、ゼーレ達や、スズリを除いたエマさんと『紡ぐ者』の人達が僕に続いて叫んだ。
ゼーレ達はノッてくれるだろうなって分かってたけど、まさかエマさんや乗組員の人達もノッてくれるとは。
僕はエマさん達の予想以上の陽キャっぷりに圧倒された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数分後。
僕は船首から降りて、ゼーレ達と一緒に乗組員の人達と談笑している。
エマさんとスズリは、船にある部屋の中で作戦会議をしているようだ。
「それでな! 俺がプリュトロムを倒したい理由は、俺の大事な漁船をぶっ壊しやがったからなんだよ!」
「そ、そうなんですね……」
レイラは、スキンヘッドに翠眼で、日焼けしたムキムキ体型のおじさんに詰められて困っていた。
「ちょっと、ケントさん。レイラちゃんが困ってるじゃない」
長い赤髪を後ろで結び、おでこを出した黒い瞳の強気なお姉さんがケントを叱った。
「私、ちゃん付けされる年齢でもないんですけど……」
レイラは、顔を赤らめて顔を掻きながら恥ずかしがっていた。
「アハハ、ごめんねレイラちゃん。エルフって年齢と外見が合わないからなんて呼んだらいいのか分からないんだよ」
「まぁ、あるあるなんでそこまで気にしてませんけど……」
レイラは、照れくさそうに言った。
「そうか、なら良かったよ」
赤髪で強気なお姉さんは、レイラの頭を激しく撫でた。
「何を話してるんですか?」
僕達が乗組員の人達と談笑をしていると、エマさんが割って入ってきた。
「おっ! エマさんじゃないですか。作戦は決まったんですか?」
ケントは立ち上がり、ハキハキとした声で話した。
「はい決まりましたよ。プリュトロムの居る海域まで近づいたら皆さんを集めて話します」
エマは、キリッとした表情を浮かべている。
「それより、ケントさん達は何を話していたんですか?」
「あぁ、えっとですね。勇者様達が俺達がこの船に乗った理由を知りたいって言うからさ、俺がこの船に乗る理由を話してたんですよ」
「そうなんですね」
「そう言えば、エマさん達って何でプリュトロムを倒したいんですか?」
「ちょっとケントさん。それは……」
赤髪で強気なお姉さんは、二人の間に入って小声で言った。
「良いんですよ、アメリアさん。別に最期まで秘密にするつもりもありませんので。それに依頼とは言え、勇者様達に隠し事をしたまま手伝ってもらうのも悪いですしね」
「私達がプリュトロムを倒したい理由。それはか……」
エマが言いかけたその時、帆の上で見張りをしていた男の人が叫んだ。
「海賊船発見! あれは……、『フィアーロ号』です! あちらは既に戦闘準備を始めている模様!」
「海賊船!?」
僕は高鳴る鼓動と共に船首へと走った。
船首に登って目を凝らすと、遥か遠く、水平線付近に赤に染められ、鉄で作られたような海賊船が見えた。
「ちっ、『火翼海賊団』か。総員戦闘準備! 大砲やその他武器をふんだんに使い迎え撃つ。そして今、我々の船には勇者パーティーが乗っていることを忘れるな!!」
エマは口調が変わり、格好良く凛々しい雰囲気で乗組員達に指示を出した。
「オォー!」
乗組員達は一斉に武器を取り出し、戦闘準備に取り掛かった。
グヘ、グヘヘヘ。海賊同士の海上戦。これぞまさに海賊、楽しくなってきたぁー!
僕は、前世からカッコいいと思っていた海賊同士の海上戦ということもあって、テンションマックスになっていた。




