第9話「うちのパーティ、戦闘になるとバグります」
最強のはずの勇者は封印の腕輪でレベル−100、泣き虫で剣も持てない。
国家随一の魔法使いはサディストで、仲間を実験材料扱い。
忍者はなぜか高確率でハト。
そしてそこに、何も知らない冒険初心者の少女――『初心者ちゃん』が加わった。
雑すぎる王国と、じわじわ崩壊していく世界の中で、
彼らは今日も笑って、泣いて、叫んで旅をする。
ゆるいけど危険、危険だけど笑える。
そんなドタバタ勇者パーティーの冒険譚が、今はじまります。
魔法使いさんは、指先で小さな炎を弄びながら、目を細めてつぶやいた。
「さて……君たちの断末魔を、どう表現すべきかな」
炎はただの火球ではなく、幾何学模様の光の輪となって空中に描かれていく。
その模様はぐるぐると絡まり合い、まるで光の万華鏡のように複雑な陣を組み始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください!普通に火の玉でいいじゃないですか!!」
「ふふ……シンプルなんて退屈さ。せっかくだから、君たちの断末魔を“炎の交響詩”として仕上げたいんだ」
魔法陣からは音符のような火花が散り、路地裏全体が赤く染まる。
チンピラたちは完全に腰を抜かしていた。
「な、なんだよこれ……」
「お、おい! 殺される! 芸術に殺されるぅううう!!」
勇者さんは涙目で前に飛び出した。
「だめですぅぅ! みんな燃やされちゃうじゃないですかぁぁぁ!!」
そのまま勇者さんは魔法使いさんの前に仁王立ち――しようとした瞬間。
「うぐっ……! 腰ぇぇぇ……!!!」
ガクンと崩れ落ち、皮肉にも先ほどチンピラに要求された通り土下座する形になった。
「や、やめてくださぁぁぁい!!!」
まるで“燃やしてください”と言わんばかりの姿勢。
「ふふ、なるほど……勇者自らを生贄に捧げるとは。芸術点が高いね」
「高くないですからぁぁぁ!!!」
その時――
「クルッポー!!!」
頭上から白い影が急降下。
ハト(忍者さん)だ。
勇ましく羽を広げ、華麗に回転しながら飛び込んでくる。
その嘴は、まっすぐ勇者さんの後頭部に――
ガツンッ!!!
「ぎゃああああ!! なんで僕なんですかぁぁぁ!!!」
「クルッポー(勇者は囮)」
「翻訳しても容赦なさすぎですよね!?」
私が叫ぶが、ハト(忍者さん)は胸を張って誇らしげ。
だが、その突撃で勇者さんは前に転がり出て、偶然にもチンピラの足にタックルする形になった。
「うわっ!?」
チンピラは見事に転び、後続の仲間たちと将棋倒し。
「えっ……あれ?勇者さん、今すごい活躍しませんでした?」
「ぐすっ……僕、頭つつかれて泣いてただけなんですけど……」
魔法使いさんは冷めた目で勇者を見下ろし、肩をすくめた。
「ふふ……無様でも結果的に役立つ。まるで君そのものだね」
「ひどすぎません!?!?!?」
一方チンピラたちは怒りに燃えて立ち上がる。
「こ、こいつら……遊んでんのか!?絶対に許さねぇ!!」
「囲め!一人ずつぶっ潰す!!」
彼らの目にはもう恐怖より怒りの色が強い。
錆びた剣や棍棒を振りかざし、こちらに一斉に迫ってくる――。
「わぁぁぁ!! いよいよ本格的に戦闘開始ですか!?」
路地裏の空気は一気に緊迫し、
だがこちらの仲間たちは――勇者は腰を押さえて泣き、忍者はハト、魔法使いは芸術魔法を構築中。
「……いや、これもう詰んでません!?」
私は木刀を握り直し、背筋に冷や汗を感じた。




