第10回「クルッポー(任せろ)」
最強のはずの勇者は封印の腕輪でレベル−100、泣き虫で剣も持てない。
国家随一の魔法使いはサディストで、仲間を実験材料扱い。
忍者はなぜか高確率でハト。
そしてそこに、何も知らない冒険初心者の少女――『初心者ちゃん』が加わった。
雑すぎる王国と、じわじわ崩壊していく世界の中で、
彼らは今日も笑って、泣いて、叫んで旅をする。
ゆるいけど危険、危険だけど笑える。
そんなドタバタ勇者パーティーの冒険譚が、今はじまります。
「囲めぇぇぇ!!」
怒号が路地裏に響き渡る。 チンピラたちが一斉に武器を振り上げ、棍棒と剣の波がこちらへなだれ込む! 足音は地響きのように迫り、壁に反響して倍増された恐怖が押し寄せる。
彼らの目は血走り、口元には歪んだ笑み。 まるで獲物を仕留める直前の野犬の群れのようだった。
こっちはというと――
勇者さんはまだ泣いてる。 「痛いよぉぉぉ……腰がぁぁ……」 涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。
地面にうずくまり、剣は遠くに転がり、背中に背負った盾は床を転がる。
その姿は、戦場というより病院送り寸前の患者だった。
忍者さんは―― 「クルッポー(任せろ)」
いや、その口に咥えたの爆竹だよね!?ちょっと待って!?
ハトの姿で器用に爆竹を咥え、目はギラギラと輝いている。
羽ばたきながら、まるで戦場の救世主のような顔をしているが、どう見ても火薬の使い方を間違えている。
魔法使いさんはというと…… 満面の笑みで、魔法陣に向かって手を広げていた。
その指先からは光の粒が舞い上がり、空気が震える。
彼のローブは風に揺れ、髪が炎のように舞い上がる。
「――完成だ」
パァァァァァァッ!!
光の円陣が空に浮かび、赤・青・緑の火花が旋律のように散りはじめる。
地面からは燐光の柱が立ち上がり、空からは光の矢が降り注ぐ。
まるで夜空に描かれる魔法の楽譜。
空気が震え、チンピラたちの動きが一瞬止まる。
「これは……“業火のアラベスク”……!」
「名前からして嫌な予感しかしないんですけどぉぉぉ!!」
魔法使いさんは陶酔の表情。
薄っすらと開かれた瞳は輝き、口元にはうっとりとした微笑み。
「序章は優雅に、主旋律は破滅的に、そしてクライマックスは……大爆発だ」
「だから爆発前提やめろーーーっ!!!」
私の叫びも虚しく、光が一つの点に収束し始める。
空気がピンと張り詰め、まるで世界が息を止めたようだった。
ドンッ!!
轟音が響く。
爆発――
ではなかった。
なんと、空中で火花が回転し始め――
ドドドンッ! パララララァァァン!!
色とりどりの花火になった。
赤、青、金、紫――無数の光が夜空に咲き乱れ、路地裏の空を華やかに染め上げる。
壁に映る影が踊り、ゴミ箱の中の猫まで目を見開いて見上げていた。
「は、花火……?」
魔法使いさんはうっとりと見上げながら呟いた。
「ふふ……“爆発するって言ったね、あれは”比喩”ってやつだよ」
「比喩にしてもこっちは命がけなんですよ!?!?」
しかし、肝心のチンピラたちは硬直していた。
「な、なんだこの光……まぶし……」 「目が、目がぁぁ……っ!!」
一斉に目を覆ってふらつくチンピラ集団。
武器を手放す者もいれば、壁に頭をぶつける者もいる。
だが、さすがにそれだけで戦闘不能にはならない。
「ちっ……小細工しやがって……」
先頭の一人が突進してきた!
目を細め、怒りに任せて一直線に走る!
その時――
ガスン!
「うぇっふぉ!?」
なんと、倒れていた勇者さんの木の盾に思い切りつまずいたのだ。
勢いそのままに顔面から地面に激突。 鼻血を吹きながら転げ回る。
「ま、また偶然ヒット!?」
チンピラは足を抱えて転げ回っている。 その様子を見て、魔法使いさんが一言。
「君の存在自体がトラップだね」
「バカにしてません!?」
「してるよ」
「してるの!?」
勇者さんは涙を流しながら盾を「ありがとう、ありがとう……」と抱きしめる。
ハト(忍者さん)は頭上を旋回しながら、次の一手を狙っていた。
しかし、それでも数の差は歴然。
残りのチンピラたちは怒りで顔を真っ赤にしていた。
「もういい、まとめてぶっ潰す!!」
武器を振り上げたその時――
「クルッポーーー!!!!」
ハト(忍者さん)、空中から再び急襲!
今度はくるくる回転しながら――
……爆竹の束を投下してきた!!!
「いやいやいやいや!!私たちも巻き込まれますってそれ…!!」
私の悲鳴が響く。
ポイッ → 地面に落ちる →
バンバンバンバンバン!!!
耳をつんざく音と煙。 しかも音だけじゃない、煙がピンク!視界が悪化!
「けほっ、けほっ……なんだこれ、毒か!?」
「見えねぇ……ピンクの煙で何も見えねぇぞ……!」
煙は甘い香りを漂わせながら、路地裏を覆い尽くす。
視界はゼロ、音は爆音、空気は混乱。
まるで夢の中に迷い込んだような錯覚すら覚える。
……チンピラたちの叫び。 だが私も見えない!! なんなのこの煙!!!
「クルッポー(錯乱せよ)」
「お前……目的が漠然としてるなぁ!?!?」
混乱と煙の中―― 何が起きてるのか誰にもわからない。
叫び、咳、爆音、羽ばたき、そして勇者の泣き声が混ざり合う。
唯一、路地の外から覗いていた通行人の子供だけが、 ぽつりとこう呟いた。
「……サーカス団かな?」




