第6話「弱者」
最強のはずの勇者は封印の腕輪でレベル−100、泣き虫で剣も持てない。
国家随一の魔法使いはサディストで、仲間を実験材料扱い。
忍者はなぜか高確率でハト。
そしてそこに、何も知らない冒険初心者の少女――『初心者ちゃん』が加わった。
雑すぎる王国と、じわじわ崩壊していく世界の中で、
彼らは今日も笑って、泣いて、叫んで旅をする。
ゆるいけど危険、危険だけど笑える。
そんなドタバタ勇者パーティーの冒険譚が、今はじまります。
勇者さんの顔から血の気が引いていく横で、路地裏のチンピラたちはますます下卑た笑いを浮かべた。
「おい、聞いたか? 生きてて恥ずかしくないかってよ」
「はっはっは! こいつ、俺らより先に自分で心折れてんじゃねぇか!」
「しかも勇者とか呼ばれてんぞこいつ!」
勇者さんは涙目で振り返り、魔法使いさんの袖を掴む。
「ね、ねぇ魔法使いさん、なんでそんなこと言うの……僕ただでさえ力で敵わないのに精神的にも殺されそうなんだけど……しかも仲間に、主に仲間に」
魔法使いさんは慈母のように優しい笑みを浮かべ、さらりと答える。
「だって事実だろう?」
「ひどい!?!?!?」
そのやり取りにチンピラたちまで吹き出す。
「アッハッハ! 仲間にまで馬鹿にされてんじゃねぇか!」
「やべぇ、腹痛ぇ! おい勇者さんよ、せめて泣きながら土下座でもしてみろや!」
勇者さんはぷるぷる震えながらも、意地で剣を抜こうとする。
だが――ガンッ! 抜こうとした瞬間、重すぎて鞘ごと地面に叩きつけられた。
しかも顔から。
「ぎゃああああああ!腰がぁあああああああ!!!」
路地裏に勇者さんの情けない悲鳴が響き、チンピラたちは完全に大爆笑。
「お、お前なにそれ!? 剣すら抜けねぇ勇者!? 勇者っていうより弱者だろ!」
「弱者だな!!」
「もはや原型がないじゃないですかそれ!」
私が即ツッコミを入れるが、勇者さんは涙目で腰を押さえたまま震えている。
その隙に、路地の屋根の上から声がした。
「……フッ、雑魚が雑魚を笑うとは、この世も末だな」
全員が見上げると、そこには――いつの間にか現れた忍者さん。
腕を組み、月明かり(※昼間です)を背負ってカッコつけていた。
「なっ……!? だ、誰だお前!」
チンピラの一人が叫ぶ。
忍者さんは目を細め、意味深に言い放った。
「私は影、闇に潜む刃……永遠の17歳……」
「年齢自己申告すな!!!!」
私が全力でツッコむと同時に、屋根瓦がずるっと滑り、忍者さんは派手に転落。
バコーン!と地面に上半身が突き刺さり動かなくなる。
「忍者さぁああああああああああああん!!!!」
チンピラたちも勇者さんも、思わず一斉に拍手した。
「いや芸人かよ!」
「見事な落下!」
「勇者より役立ってねぇ!」
……そして。
地面に顔から突っ込んだ忍者さんを見下ろしながら、魔法使いさんがにこりと微笑む。
「ふふ、これで君の恥ずかしさは少し和らいだんじゃないかな? 勇者くん」
「和らがないよおおおおおおお!!!!」
――アラタナール初日、宿代を失った我々は、まだ街の本当の恐ろしさを知る由もなかった。




