メイドさんがやってきた
ある昼下がり、みんな家でゴロゴロしていた。オレは部屋で寝ていた。すると、外でチャイムが鳴る。今日に限らずこの家を訪れる予定の人は誰もいない。たまにヴィルヘルム君が来たり王女が来たりするが。あいつらアポとか取った事がない。急に来るのだ。ちなみにやっと王城は落ち着いたらしくナーラさんは旦那さんと地元へ戻った。億劫ではあるが、基本みんな来客の対応はしない。潔いゴーイングマイウェイ加減なのだ。起き上がり玄関へと向かう。一応中から覗き窓みたいなモノで外を確認すると・・・。見た事のないメイドさんが微動だにせず立っていた。相当な良い生地を使ったメイド服には皺一つなく。茶色の髪の毛を2つお下げにして、大きな丸メガネをかけている。これぞ微笑みって感じの表情が逆に怖い。オレはすぐさま全員玄関に呼び出す。オレ一人で相手をしたくないのだ!。うーん王城からの呼び出しにしては馬車とか見えないし、そもそもこれだけキッチリしたザ・メイド!なのに明らかに幼い。シルヴィと同じくらいに見える。幼女か幼女じゃないか・・・。レディに失礼だな。と、思ってたらシルヴィが玄関を開けて声を掛ける。
「あれ~マリアンネちゃんじゃないですか~こんな所でどうしたんですか~?」
・・・うん?シルヴィは知ってるのか?名前を聞いてもさっぱりだ。すると、その女の子は貴族令嬢もかくやといった綺麗なカテーシーで挨拶を告げる。
「マリアンネ=ロックパッカーと申します。皆様に助けられた御恩をお返しする為、私自身が皆様と共にありたいと願い、闇の住人へ加入させて頂きたく参りました。」
えええ。
「今オレのハーレムメンバーは募集してないんだけどなぁ。」
ソフィのハリセンがオレの頭を一瞬で3回叩き、ぷー子が丸くなって腰に突進してきた。うぐう。
「ウソですごめんなさい。でも特にPTメンバーの募集はしてないのはホントなんだけど・・・え?助けられた?助けたの?・・・ロックパッカー?・・・ああ。」
もう5回はたかれた。
「覚えていないのも無理もありません。わたくしはあれから努力して学校も無事卒業しまして、皆様と同じEランクの冒険者となっております。」
「あれ?え?何歳なの?。」
「11才となります。去年より、希望者に10才からの学校入学が認められるようになりました。」
言葉も出ないとはこの事である。顔も整っているし端的に可愛い。ロックパッカーの一族なのだからこんな所で冒険者やらんでもとしか思えない。
「あの~いろいろあるんだろうから~とりあえず上がってもらいましょうよ~」
「あ、ああ!そうだね。ゴメン。気が利かなくて。面接って訳じゃないけど上がってお話を聞かせてよ。」
とりあえず、話し合いだね。
ーーーマリアンネsideーーー
緊張しっぱなしではあったが、メイドらしく振舞えているだろうか?これまでの準備は全て今からの為にあったのだ。PTに加入したいのならここからの交渉で自らの価値を表明しなければならない。だが、玄関先に出てきた皆様の中にソフィア様の姿を捉えて目が、頭が離せない。助けられてから1年半ぶりにお会いできたのだ。必死に自制して招かれたお宅にお邪魔する。EランクPTではあるけどロックパッカー商会から相当お金が行っている割には小さ目な一軒家。それほど広くない平屋でしかも賃貸らしい。買ってしまうか、もっと広い家に住めばいいのにと思ってしまう。玄関を過ぎ、短い廊下を歩くが・・・なんだろう妙に生活感がない。汚れているわけでもキレイなわけでもないが・・飾りなどもなく、掃除のやりがいもなさそうだ。メイドの利点を生かせればいいけれど・・。
そうして扉をくぐるとリビングと思われる部屋の真ん中には・・・なぜかテントが立っていた。部屋自体は殺風景でソファやテーブルさえない。そもそもテントはド真ん中に鎮座している。どうぞどうぞと通されてそのままテントの中へと導かれる。中には驚きの光景が広がっていた。家は平屋なのにテントの中は2階建てのログハウス風。入ったすぐのリビングには低い座卓が中央にあり、飲みかけのカップや雑誌などが広がり生活感しかない。なんか犬と猫もいてそれぞれくつろいでぐでーんと床に広がっている。
「散らかっていてゴメンね~。こっちの方が居心地がよくて~。あ、このテントはもちろんダンジョンにそのまま持ち込むから~ダンジョンの中でも快適だよ~。さあ座って座って~。今お茶をいれてくるから~みんなちょっとかたずけてね~」
雑誌やカップがとりあえず片付けられる。その言葉を聞いて急いで手を上げる。
「あ、あの!お茶を淹れるのはメイドの嗜みです!。是非わたくしに美味しいお茶を振舞わせて下さい!」
「あ~。お客様だから~気にしなくていいのに~。」
「せっかく言ってくれてるんだ。ご馳走になろう。シルヴィ台所へ案内してあげて。あと、シルヴィのお茶もお願い。やる気になってるからこれも試験にしようか。」
アルク様のその言葉を聞いて俄然やる気が湧いてきた。本当はソフィア様に美味しいお茶を飲んでいただけたら満足なんだけど。お茶といえばメイド、メイドといえばお茶。わたくしのお茶をくらわせて差し上げるのです!。・・・シルヴィアーナ様に案内された台所はキレイで・・・あまり使用感がなかった。お湯を出す魔道具や使い方を聞く。茶葉の場所も教えてもらったけど、わたくしのマジックバックの中には様々な想定の物が入っている。人数分のティーセットを取り出し、ロックパッカー商会で一番高く薫り高い茶葉を取り出す。ポットを温め、丁寧に美味しい紅茶を淹れてリビングの皆様にお出しする。10分ほど掛かったけれど、満足できる出来だと思う。皆様がそっと紅茶を口に運ぶ。その評価は。
「うんうん。なかなか美味しいんじゃない?ちょっと飲んだことのない高級な感じがする。香りがいいね。ソフィどう?」
自分でも一口飲んで確かめる。ばっちりの出来だ。これでなかなかとか言っちゃうとは舌がおかしいんじゃないの?
「回転屋の豆大福。」
ソフィア様が呟く・・・あ!
「も…申し訳ございません!紅茶はお茶請けに合わせて淹れる物なのに・・わたし・・・。」
アルク様がひょいひょいとマジックバックから豆大福を出している。まさしく王城御用達、回転屋の豆大福だ。みんな大福を食べながら紅茶を飲んでいる。
「うんうん。さすがソフィのスイーツ眼に間違いはないね。上品な味わいと香りが甘さを通して美味しさに変換される。豆の少しの塩気が紅茶の茶葉の味わいを引き立てる・・・。素晴らしい。」
「ここではロシアン茶葉もよく飲むからお茶の後に一番合うお茶請けを出すわ。気にしなくていいのよ・・。十分美味しいわ。」
ソフィア様の優しさに震えていると大福を食べ終わったシルヴィアーナ様が立ち上がる。
「次は~わたしの番なのですよ~紅茶の淹れ方初めて見たので~本気を出しちゃいますよ~」
え?どうやって紅茶を淹れていたの?シルヴィアーナ様はさっき勧められた茶葉と、個人用と思われるマグカップとお湯の入ったボトルを並べる。不思議に思ってみていると、とんでもない光景が展開する。
「う~ん~。てぃ~は~りん!」
「お、ギャダムじゃなくてお茶専用を使うとは。大人げない所が素敵だぜ。」
机の上が光ったと思ったら、湯気を出す紅茶が淹れられていた。え?紅茶ってこうやって淹れるの?
「さ~あ!飲んでみて~」
一口飲む。・・・もう一口飲む。温度、舌触り、滑らかな口当たり。今この瞬間に完璧な紅茶。紅茶は温度管理が命なので、淹れているタイムラグでどうしても最高の瞬間を逃すのだ。それが、一瞬で紅茶がカップに入り完成する事で今一番美味しい紅茶を飲める・・・。しかも!なにこの紅茶!味わい深く渋みが強めなのにさっきの大福の残った甘さをさっぱりと流していく。こんな美味しい紅茶飲んだことがない・・・。
「あの・・・失礼します”鑑定!”」
わたしは我慢できなくて茶葉を鑑定させてもらう。ロイヤルブッシュエンペラー・・聞いたことがない。
「おー、すごい。鑑定使えるんだ。」
「あ、はい。それより、この茶葉の名前を聞いた事がないのですが。」
「ふっふっふ~これはですね~食材ダンジョン58階層に出てくる~ロイヤルブッシュエンペラーっていう~3mくらいある~生い茂る灌木の魔物のドロップなのですよ~。」
5じゅう・・8?あれ?食材ダンジョンてあまり人気がなくて30階層が最高到達だったような・・・。
「・・・ジューシーのセクレティーのイチゴショートとスコーン・・・間違いないわ。」
やはり、マジックバックからすぐに出てくるショートケーキとスコーン。ショートケーキを食べて紅茶を飲み、スコーンをかじって紅茶をのみ・・・全ての工程がそれぞれの良さを引き立てる。・・・マリアージュ。そして気分が最高潮で迎える頂上のイチゴ。今はイチゴの時期じゃないハズなのにその酸味と甘みは間違いなく旬のジューシーで最高のイチゴ。そしてセクレティーといえばジューシーでも毎年トップ10に入るかというような神スイーツショップ。負けた・・・あんなに頑張ってきたのに・・・。メイドのプライドはボロボロだ・・・。でも美味しい。スプーンと紅茶は止まらない。
すっかりまったりしてしまったが、これは面接だった・・・。大失態だ。なんとか挽回しないと。
「えーっと。シルヴィのアレは反則みたいなものだから気にしないでいいよ。同じ茶葉を使って普通に淹れたら絶対キミの方が美味しいから・・・。それに誰もカップとか気にしなかったけど、ティーカップセットで飲むとやっぱり気分が違うね。お客様用にちゃんとしたのを買おうかなぁ。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、とりあえずー・・こういう時は自己紹介からかなぁ。オレは・・」
「はい。皆様の事は僭越ながら調べさせていただきましたので大丈夫です!。是非!わたしの自己PRを!聞いてください。」
「・・・おっけい。」
「わたくし、マリアンネ=ロックパッカーは”上級メイド””戦闘メイド””商人メイド”の3つの恩恵を授かりましたメイドのプロ!でございます。Eランク冒険者として、皆様を支え!ソフィア様のメイドとなるべく厳しい試練をクリアし、ここに参上いたしました。!どうかソフィア様のお傍にいる為に!わたくしをPTへ入れてくださいませ!」
ーーーーーー
「なるほどー。」
「あと・・・メイドでありながら不躾ではあるのですが・・・・・・ソフィア様、どうか”おねえさま”と呼ばせていただけないでしょうか。わたくし助けていただいたあの日から・・・おねえさまと一緒にいられる日を夢見て頑張ってきたのです・・・。」
上級メイドって身分があれば王城でメイド長が出来る恩恵だ。カテゴリ的には剣聖とかと一緒でメイドの最上位の恩恵なのになんでこんなPTに入りたいのかは分かった。ソフィ目当てなのね。当のソフィは発言を聞いてから驚いた猫のような目を広げている。あ、なにかマリアンネの後ろへ回り込んでハグしてる。
「おにいさま。この子わたしがもらいます!。PTにもいれます!わたしずっと可愛い妹が欲しかったんですの!」
お前の妹は故郷にいるよ。一度も戻ってない故郷から半年ほど前に知らせが届いたじゃん。まさかジューシーより帰郷頻度が低くなるとは・・。まぁ別に帰ってこなくてもいいとは書いてあったけどさ。
「おーけい。ソフィがそういうなら問題ないよ。・・・ちょっと多分マリアンネが知ってる常識からはずれるから頑張ってね。あと、PTメンバーは基本呼び捨てだ。戦闘メイドのほうはダークに師事してもらって。あとはマリアンネの好きなようにして大丈夫・・・ダーク、ちょっと認識阻害解いて。あと犬猫も寝てないで挨拶して。」
「ありがと・・・うございます。あの、ぷーにゃ様のお膝の上にずっといる子供は・・・その…魔族の方ですよ・・ね?」
「魔王だ。」
「よろしくおねがいーしまふ。」
”我はぽん太。主の従魔をしている聖獣である。”
”わらわはみーちゃん・・・中身は邪竜なのよ。ほんとなのよ。”
ぶうぶう!
「ぷー子もよろしくっていってます。これからよろしくお願いしますね。」
「わたしのことも~シルヴィおねえちゃんって呼んでいいのですよ~」
「よ、よろしくおねがいします。」
「マリアンネ。貴方は今日からわたしの妹。ロックパッカーの名は捨てるのです。別に縁を切らなくてもいいわ。でも貴方は新しい貴方を始めるの。」
「はい!おねえさま!」
「今日から貴方はマリアンネ=メイディアスよ。このPTの一員と胸を張れるように・・・頑張りなさい。」
マリアンネは涙を流して喜んでいる。平和だなぁ。




