【閑話】マリアンネ=ロックパッカー
アカーシャの町にマリアンネ=ロックパッカーという女の子がいる。彼女はいまや大商会となったロックパッカーの一族として生まれ、豪華絢爛とはいかないが何不自由なく育てられ愛されてきた。
また、ロックパッカーの一族には家訓のような”ロックパッカーの教え”というものがあり、その理念にそって多種多様な知識を教えられてきた。ただのお勉強ではない、政治経済、地政学、または種族価値観、多角的なモノの見方。
ロックパッカーの教えに人の価値を計る時、決して人種、性別、社会的地位などの外的要因で判断してはならないとあり、そのための教育がなされ本人もその教えに従い町の孤児院の子も、別の商会の店主も分け隔てなく接していた。そして自分とは違う考え方を学び、それでいて決して影響を受けず本人の資質もあり順調に成長していた。また教えの最後にして核心にはこうある。”金で買えない物を手に入れる為に金を稼ぐ”。ロックパッカーの教えとは古臭い格言ではなく、一代で商会を大きくした現会長の生きてきた今までの教訓なのだ。
人との縁、相手の信頼、そのものずばり生命。世の中には金で買いたくても買えない物があり、お金を稼ぐのはあくまでそれらを手に入れる為の手段である。幼いマリアンネにはピンとこなかったが、かっこいいと思った。だからマリアンネは孤児院の友達を大切にした。孤児院の子供はみなよく教育されており、特に周りの空気を読む能力に長けていた。そしてマリアンネが大商会のお嬢様でも物怖じせず自分の意見を言ってくる。マリアンネも知り合ってから一度も哀れみや施しの感情はなく対等な友達として仲良くしている。マリアンネには今手にしているこの友達こそお金では買えない大切なものだったのだ。
だが運命はマリアンネに試練を与える。ある時町で遊んでいた孤児院の子供と共に誘拐されたのだ。恐怖に震えながら大人の助けを待ち、きっと親が大金をつめばなんとかると自分を保つ。だが希望は一瞬にして砕かれた。孤児院の友達と共に早々になにかのスキルにより奴隷とされてしまう。最初は呆然としていたがすぐにそんな余裕はなくなる。動くなと命令されると動けなくなり、喋るなと命令されれば喋れなくなり、命令された事以外の一切が自分の意思でできなくなる。いままで感じた事のない恐怖に苛まれるが震えることも出来ない。男達が下品な話をしていても表情も動かせない。この瞬間なんでもない”自由”がお金で買えないものだと気が付いた。そして自分の今後を考え・・・・絶望しかなかった。
絶望に囚われ色をなくした世界に光が灯ったのはどれくらい後だろう。長かった気もするし、実際には丸1日ほどだったらしい。
冒険者PTに助けられ、しかし、まだ奴隷のまま指一本動かせなかったマリアンネに剣が突き刺さる。その光景を見ながら自分は死ぬのだろうと思った。その瞬間、世界に色が戻り、お金で決して買えない”自由”がもたらされ、やはりお金では買えなかっただろうマリアンネの”未来”が手の内に戻ってきた。
経緯も分からず呆然としている間に町へたどり着き衛兵が家族へと連絡を入れていつの間にか自宅へと戻っていた。家族と抱き合い涙するが頭の中は助けてくれた恩人の横顔でいっぱいだ。そして、事ここに至ってまだお礼すら言えていなかった自分に気が付く。
「お父様、お母さま。わたくしとんでもない事を・・。助けていただいた方にまだお礼も言えていなかったのです。」
「まぁ。どうしましょう。」
「・・・私も直接お礼が言いたい。ロックパッカーとして改めて晩餐へご招待するのはどうだろう?」
「それは素敵ね。」
またあのお方に会える!私の胸のドキドキは止まりません。しかし、私の無事を確認に来たおじい様が止めます。
「あの方々は表に出る事を嫌う。豪華な晩餐などはかえって迷惑となるだろう。私は仕事が出来た。店へ戻る。」
!おじい様は助けてくれた冒険者が誰か知っているのだわ!。でもせっかく会えると思ったのに晩餐への招待は却下されてしまった。もう一度会いたい・・・。どんなに感謝しても足りないこの胸の内を伝えたい!。
奴隷から解放され身も心も疲れ果てていたけど、胸がいっぱいで休めない。これは、恋なの?だってしょうがないじゃない。命を、心を救ってもらったのだ。物語で読んだ英雄そのものだ。
夜遅くになり帰ってきたおじい様の所へお邪魔する。
「おじい様、遅くに申し訳ございません。どうしても聞いて欲しいお話があって。」
「マリアンネ、まだ寝ていなかったのか・・・。どうしたんだい?言ってごらん?」
「おじい様は私達を助けてくれた冒険者様を知っていらっしゃるのですよね?。」
「ああ。マリアンネを探す為に情報を集めていたからね・・・。彼らは本部より特別待遇の伝達のあった”闇の住人”だ。なにか別の用事でたまたまこの町を訪れて、助けたのは偶然だと言っていたよ。」
「会っていたのですか!?」
「ああ。助けていただいたのは偶然だが、彼らのPTとの縁は本部が得たお金で買えないものの一つだ。そして少し話しただけだが、その意味を深く理解した。」
「あの!わたくし、どうしても直接お礼が言いたくて・・・あとお礼の品も・・・。なにをお贈りすれば喜んでいただけるでしょうか?」
「・・・・・・。マリアンネ。彼等との”縁”はお金で買えないものなのだ。お礼を言えば答えてくれるだろう。贈り物をすれば何を送っても喜んでくれるだろう。だが、それだけだ。彼等にとってお前はたくさんの過去に助けた、これから助ける人々の内の一人でしかなくなるだろう。それでいいのかい?」
私は自分の浅はかさに衝撃を受ける。浮ついていたとはいえ、そんなことに気が付かないなんて。
「いいえ。いいえおじい様。彼等はわたくしに多くのお金で買えないものを与えてくれました。たとえ、それがあの方達にとって大したことのない事であっても、わたくしは自分の心の全てをもって感謝を伝えたいです。」
「自分の心の声を聞くんだ。マリアンネはなにが欲しい?マリアンネにとって、お金では手に入らないが絶対に譲れないものはなんだい?」
「わたくしは・・・かんしゃ・・を・・・いえ。いいえ!わたくしはあの方のお傍にいる事ができる資格が欲しいです。・・・でも・・・そうか・・・。足りない・・・なにもかも・・足りない足りない足りない。今のわたくしではその資格を伺う事すらおこがましい!。」
「マリアンネ。ロックパッカーの教えだ。絶対に譲れない、どうしても手に入れたい物が出来た時のためにお金を稼ぐ。だがお金はただの手段に過ぎない。なんでもいいから、”その時”の為に備えるのだ。」
「そう。心が張り裂けて死んでしまいそうだけれど、まだ”その時”じゃない。・・・おじい様わたくしはたった今この時より、自らの全てを掛けて”その時”に備えます。」
本当に欲しいものが出来て、教えを真に理解する。
そして、ちょうどその時・・・12時をまわり、マリアンネは10才を迎える。つい何日か前までは漠然と商人系の恩恵をもらい商会で働くのだろうと思っていた。だが今はそんな恩恵ではダメだ。強く、強く願う。あの方の隣にいる為の恩恵を。そして。
「ああ・・・神様。ありがとうございます。わたくしの背中を押してくれるのですね。」
夢。そう、どうしても叶えたい夢が出来たのだ。
「おじい様!わたくしの夢はわたくしの全てを捧げソフィア=カーバンクル様にお仕えする事!その夢を叶える為にあらゆる努力を積み自らの価値を高めます。来るべき”その時”に向けて!」
「よくぞ言った!私の夢はマリアンネの夢を叶える事!このジェイル=ロックパッカーが今この時の為に備えた資産、知識、人脈、全てを使いマリアンネの夢を応援する。絶対に叶えるのだ!」
マリアンネはアカーシャ生まれアカーシャ育ち。生粋のアカーシャっ子なのだ。
夢追い人の町アカーシャ。変な領主の呪いか、変な神の祝福か、町の女性にメイドの加護がやたらと送られる町アカーシャ。ああ~アカーシャ。アカーシャ~。
マリアンネをもっとストーカーっぽくねっとり書いてミスリードもしたかったのですが、文才がなかったです。




