【閑話】ありふれた、よくある話というのはよくあるからよくある話なんだ、という話
剣聖レイン=レグリット=ドズルは1時間ほど前に故郷ドズル村の近くで剣鬼アスラ=バン=ドズルと会敵した。息子である剣神レオン=レグリット=ダイヤモンドと共に。
まずは作戦通り動く。レオンがアスラと切り結び、足りない経験や致命の一撃を剣聖がフォローして回避する。直前にナーラから渡された神剣と聖剣は、明らかに国宝の剣よりも性能が高く、なんでも切り裂くという情報の魔剣と切り結んでも壊れない。同じく用意された、一見ただの服は剣神や剣聖が全力で切っても切れなかった服だ。訳がわからなかったが、軽くて動きを制限されない。切れないけれど衝撃は中の人間に伝わる事もしっかりと教えられた。何度か体に軽く魔剣が当たっても報告にあった生命力を吸い取られる感じがしない。当たっても切れていないからだ。
・・・だが・・・それでも・・・・・・・そこまでしても。剣鬼と剣神の剣技の差は覆らなかった何度目かの切り合いに、剣鬼がキレたように力を込め剣神を吹き飛ばす。追撃されそうな所を危機一髪で剣聖がフォローに入りジャマをする。
体格、力、剣技。全てに劣る剣神では剣鬼に勝てる道は見いだせなかった。倒れこむレオンの顔に絶望が浮かぶ。それを見て・・・・剣聖も覚悟を決めた。・・・いや自らの運命を選択したのだ。
レオンは家に閉じこもり本を読むのが好きな子供だった。幼い頃からレグリット家の跡取りとして、剣聖の息子として期待をされ・・・優しいが優秀で王女様の信頼を得る強い姉といつも比べられて。重圧に苦しみ、いつしか剣を手にしなくなった。
だが、レインはそれでもいいと思っていた。昔の自分がそうだったのだから。剣聖の恩恵をもらわなかったらどんな人生になっていたのだろう、と時々思うのだ。だが自分は恵まれていた。そして今ここにいる事に一切の後悔はなかった。自分が選択した結果だからだ。
レオンは結局望んでもいない剣神を与えられ、鍛錬する時間も与えられず、剣鬼の討伐へと向かう事となった。向かう途中で稽古をつけたし、剣神の恩恵はすさまじいほどの効果を発揮したが、・・・だからなんだというのだろう。
息子を見て・・・・剣聖は初めてフォローではなく剣鬼と剣を構えて向き合う。
「茶番だな・・・。」
ナーラという女性は実に不思議な女性だった。魅力的であり多くの男性がアタックしていたのだ。自分も一目惚れで何度も告白した。だが、彼女は自分にも、周りの男性にも、告白する時、なにかを決断する時、迷っている時。必ず、何度もこう言うのだ。”あなたは、それでいいの?”と。若かったオレはもちろんだ!と、オレが決めたんだ!と彼女に言ったが、結局告白の返事をもらえた事はなかった。
時は経ち、彼女の言った可能性が現実となっていき・・・運命の存在を認めなければいけなくなった頃、彼女はオレの運命について語った。必ずそうなる訳じゃない。でも、何もなければそうなってしまう。その時も聞かれたのだ。”あなたは、それでいいの?”と。だが運命の通りなるとは決まっていない。それに運命の存在を認めたのだ・・・よくない!と叫んでもきっとどうにもならない事なのだろう。返事を出来ないオレに初めてナーラは続きの言葉を紡いだ。”運命は変えられない。でも、自らの意思でその運命を選択する事には・・・・意味があるかもしれない。” オレはその時やはり、何も言えなかった。運命に流されても、運命に逆らっても、自らその運命を選択しても。結果は変わらないじゃないか。
そして彼女に言われていた運命の日が訪れた。それだけである。だが、オレは選択した。たとえ結果が変わらないとしても。昔好きだった女性が暗闇の中、道を示してくれた。今も愛する妻が、泣きながら背中を押してくれた。だから・・・。オレは自ら運命を選択したのだ。
「あん?」
剣を構え向き合う。
「久しぶりだな・・・アスラ=バン=ドズル。いったい何年ぶりになるのか・・・。」
「・・・・・貴様・・・キ・サマ!レイン=ドズル!剣聖!!」
狂気に霞んでいた剣鬼の瞳に理性が灯り、相手が誰か認識する。
「剣聖!けんせい!ああああ!あのとき!キサマがいなければ!オレは!!!!」
「あの時の再戦だな。」
「あの時とは違う!ナニもかもが違う!オレの剣鬼に!キサマの剣聖では勝てない!!そう決まってるんだ!!!!」
剣鬼がアスラ流の構えを取る。剣聖も鏡写しにアスラ流の構えを取った。・・・一瞬の後・・・。
「「アスラ流剣術!1の型!雷塵斬!!!」」
2人が同じ技を叫ぶ。剣鬼の剣は剣聖よりも早く、鋭く。魔剣の力も乗せて強力で・・・。だが結果は同時にお互いの剣を弾いた。同じ技名を叫んだのに・・・剣聖の剣の軌道は剣鬼の軌道とはまるで違う道を通った。理を突き詰め、一切の無駄を排除し、まるでそうなるのが正しいような道を描き。剣鬼より遅い剣で剣鬼の剣を弾いたのだ。
「なんだ・・・それは・・・・・そんなのは・・・・・そんなのはアスラ流じゃねえ!」
「バン・・・お前は・・・ドズル村の起こりを・・・アスラ流の意味を・・・知っているか?」
「は?は??イミわかんねぇそんなもんになんの価値がある!オレが!アスラ流だ!」
レインはナーラと出会い、運命に導かれ、血のにじむような剣の修行を始めた。だが、その傍らアスラ流の剣術について、ドズル村の過去について。徹底的に調べたのだ。そしてたどり着いたドズル村の過去と、アスラ流の本当の意味。アスラ流剣術は開祖の剣聖が、生涯をかけ、デチューンにデチューンを重ねた不良品の剣なのだ。だってそうだろう。そうしないと、剣聖ではない彼らに、剣聖の技は使えないのだから。特別な恩恵がない彼らが、自分達の力で村を守る為の剣なのだから。その事にたどり付き、アスラ流には本来の、剣聖が振るった剣が隠れている事に気が付く。試行錯誤と、合理の考察と、自らの剣聖の恩恵により・・・レイン=レグリット=ドズルは過去の剣聖の本当のアスラ流を会得する。
「「アスラ流剣術!4の型!両風輪!!」」
何度かの剣戟も、全てお互いの剣を弾く。
「なんでだ!なんだそれは!!!!知らない!そんなアスラ流は知らない!!ニセモノは消えろ!」
本来の意味で言えば確かに剣聖のアスラ流のほうがニセモノなのだろう。しかし、、、そこまでして、ようやく互角。いつまで競り合えるかも分からない。血の滲む努力を重ね、先人の教えを学び、自らの限界を超越して・・・。それでも勝てるかもしれない止まり。恩恵とは、そういうものだと、決まっているのだから。
だが、レイン=レグリット=ドズルはドズル村が好きだった。いろいろあったけれど、貴族となっても家名にドズルを残すくらいには。ドズル村の人はみんな家名にドズルを付けている。村のみんなが家族で・・・大切な仲間で・・・なにかを決して忘れない為に。だから・・・レインは見つける事が出来たのだ。両親に会いに帰郷した時・・・・誰も見向きもしない村の端にひっそりと佇む名前のない塚で・・・アスラ流の奥義書を。
「見せてやろう!これがお前の知らないアスラ流!開祖剣聖ドズルが勇者と共に魔王を倒した最後の剣!!」
「!!!!アスラ流!疾風突き!」
剣鬼は最速で、アスラ流で最も早い剣を繰り出した。
「アスラ流最終奥義!!!土頭瑠!!!!!」
静寂が訪れ剣聖の剣は剣鬼の胸を、剣鬼の剣は剣聖の胸を貫いていた。
「ぐふっおう・・ぎ・・・くそ!まだだ!オレは奥義も会得して強くなる!命を食らえ!ストームブリンガーーーー!」
魔剣は答えない。魔剣と、聖剣が共にひび割れていく。
「コレは聖剣じゃない・・。最初から魔剣だ。魔剣ソウルブレイカー。一度だけ・・・魂を砕く。たとえ相手が魔剣でも・・・。だから・・・・お前は死ぬんだ。」
「は?は?死ぬ?・・・オレ・・・が?なん・・で?」
「そういう運命なんだ・・・。最初に言っただろう・・これは茶番なんだから。・・・・剣神レオン=レグリット=ダイヤモンド!」
2人の勝負に目を奪われていたレオンが目の前の光景を始めて認識する。
「ち・・ちちう・・え?父上ーーー」
駆け寄るがその前に剣聖の声が響く。
「レオン=レグリット=ダイヤモンド!お前はまだ未熟だ!剣神を背負う事など私が許さない!これから私の”剣聖”を継ぎ!レオン=レグリット=ドズルとして生きることを命ずる!!。・・・母さんを・・・頼んだ・・・。」
再びの静寂。ここに運命が紡がれた。剣神の恩恵は剣聖へと上書きされ・・・結果は剣聖と剣鬼との相打ちとなった。
薄れゆく意識の中で剣聖レイン=レグリット=ドズルは何度も悪態を吐く。”くだらない。まったくなんて茶番だ。・・・だが、これでいい。これがオレが選んだ・・・茶番なのだから・・・・。” 剣聖の意識は闇へと落ちて行った。
王都で運命を見ていたナーラは立ち上がる。
「そう・・・。レイン。あなたは選んだのね。きっとそれは意味のある事。」
ナーラは王と、この国を支える人達に結果を知らせる為暗い王城を歩き出した。
王都のレグリット邸で誰にも知られず、レグリット夫人は泣き崩れる。・・・こんな事の為にあの人と結婚した訳じゃなかったのに・・。夫人の足元には多くの紙の束。それはナーラ夫人と、ある少年から送られた、台本だ。どれ一つとしてハッピーエンドなどなかった。夫婦で寝ないで考えて。泣きながら、選択をしたのだ。息子の未来を選ぶ、と。夫のいない世界で、生きていかなくてはならない。息子も娘も、これからも運命に翻弄されるのだろう。だが、唯流される事など許さない。夫が選んだ未来なのだ。たとえどうにもならない運命だったとしても・・・。自分で選択できるように・・・私が導かなければならない・・・。
こうして・・・剣鬼アスラ=バン=ドズルは消えた。たくさんの命を奪い・・・、しかしアスラ流の最強を知らしめる事はできずに。
「ほら、こういうよくある話ってのはよくあるからいいんですよ。神様も気に入ってくれると思いますよ?」
「そう・・・ね。2人共殺されて、王都の住民も皆殺しにされるよりは・・・マシだけど・・・。私はこれをレインに渡してどうやって死ぬか選べと言うのね・・・。」
「結局運命なんて神様が適当に決めるんです。そんで決められちゃったら逃れるのは至難の業。せめて本人の希望を少しでも反映しないと・・・。オレは、運命に殺されるつもりはないですけどね。ただ、死にたくないだけなんで、適当に、余分な事には関わらず、静かに暮らすんです。まぁ巻き込まれちゃう人もいますから、出来るだけ助けますけどね。自分の命と、仲間の命が第一です。」
「・・・分かっているわ。本当にありがとう。」
「いつもの様に・・・大変ですが、後をお願いしますね。」




