↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみさまのいるせかい  作者: MIH
PR
35/58

【閑話】ありふれた、よくある話

王国の南の辺境の田舎にドズル村という村がある。

その村は村というには少し大き目で町というには整備などが行き届いていない、開拓に成功した村だった。

特に特産物や特産品がある訳でもない普通の農村は、その昔まだ魔獣の勢力圏だった時の小さな開拓から始まった。数ある開拓村の中でたまたまその村が成功して大きくなったのは単純に他の村より安全になったから。

ある勇者PTにいた剣聖が魔王の討伐を果たし、しかし結果として無二の親友だった勇者を失い戦いから逃げた先にこの小さな村があっただけだ。

丁度頻繁に魔獣に襲われていた村を通りかかった剣聖が守った。大喜びした村人達は剣聖を歓迎し小さな宴を開き、束の間の平和の間に襲われて死んだ仲間を弔う。

剣聖に行く当てなどなく、潰れそうなこの村を見捨てて立ち去る事も出来ず、この村に留まり付近の獣を狩り魔獣の襲撃から村を守り、流されるままなんとなく村にいただけだった。

魔王を倒したとはいえ前線では魔王軍との戦いは続いているだろう。だけどその戦いには終わりなどない事がなんとなく分かってしまった。逃げ出した、戦いがイヤになった剣聖が村を守り村人から感謝され死んだ勇者は取り戻せない。行き場のない自分への感情を魔物にぶつけてしばらく村に滞在していると何人かの男の子が剣聖の元に訪れて剣の教えを求めた。戦いの恩恵がなくても、自分達の村を守りたいと。家族を守りたいと。

勇者が死んでから止まっていた剣聖の人生はまた動き出す。勇者が全てを捧げて魔王を倒したのだ。この村は平和にならなければならない。未来へと剣を繋ぎ自分が死んでもこの村の誰かが、勇者ではない普通の村人が平和を守れるように。

何年もの時をかけ、村に剣術道場を開き教え子の一人であった村長の娘に押し切られ結婚し、剣聖や教え子が村の近辺の魔獣を減らし、安全だという噂を聞いた開拓民が移り住み、村は村のまま自分達で平和を守れる少し大きな村となった。



そんな村の起こりを知っているのも村の長老の一部となるくらいの時が流れ。どこにでもある剣道場のある田舎の村と成り果てた平和な村で20年ほど前にあった、この世界でよくある話である。


村ではガキ大将と呼べる男の子がぶいぶい言わせていた。村の剣道場の長男で子供の頃から鍛錬を積み自分でも将来は道場を継ぐのだと息巻いていた。けれど幼い精神は自分より強い子供がいない狭い世界で少しだけ暴力的になり取り巻きを作って子供達を率いていた。

そして、10才となった男の子がもらった恩恵は”剣士”だった。本当は”剣豪”とか”剣聖”がよかったが、運命とはままならない。たとえ剣の才能があったとしても恩恵はどうにもならないし、一応は剣の恩恵なのだ。自分の才能なら道場を継げるだろうと思っていた後ろから人々の驚きの声が聴こえてくる。

”剣聖”だ!この村から”剣聖”がでたぞ!

”剣聖”をもらった色の白い少年は男の子の取り巻きの一人で戦う事を嫌い、将来は学者になりたいと本ばかり読んでいた所を男の子に無理矢理連れ出され子分にされていた少年だった。

一瞬で頭に血が上った男の子はその場で少年に木剣を突き付け決闘を申し込む。

「子供の頃から剣の修行をしてきた”剣士”と剣を握ったこともない”剣聖”、どちらが強いか勝負だ!」

周りの大人は子供達のチャンバラ遊びも容認しているので笑って見守っていた。”剣聖”の恩恵がどれほどの物か知らなかったから。


一応剣を持ったもののどうしていいか分からない少年に、男の子は道場で教えられた剣技で殴りかかる。

少年はただただ怖かった。自分が今から殴られるという現実に、学者になりたかったのに与えられた”剣聖”の恩恵に。目を閉じて体を強張らせた瞬間、体が勝手に動いた。目を開けた時には男の子が地面に倒れていた。周りで囃し立てていた大人達も言葉を失っている。


男の子は両親からも、村の大人達からも”恩恵は大事だけれど、恩恵に胡坐をかいて努力しなければ恩恵のない者に追い抜かれる事もある”と教えられてきた。道場の理念の一つだし道場に通う者も戦闘の恩恵のない人も多い。そういう村だったし、もっと言えばこの世界でよく言われる逸話でもあった。


だが、現実とは少し違う。恩恵を持った者が一切の努力をせず、恩恵を持たない人が何年も死ぬような努力を重ねて、ようやく追い抜く事もある・・くらいの話なのだ。欲しい恩恵が得られなかった人が夢を諦めない為の言い訳でもあるし、確かに恩恵がなくても成功した人はいるのだから。


男の子は子供の時から鍛錬をしていたけれど、死ぬ気でやっていた訳じゃない。体も成長しきっていない子供の時の鍛錬の差など、あってないようなモノで”剣士”では”剣聖”には当然勝てななかっただけ。


剣に限定せず、恩恵にまつわるよくある話だ。


その後少年は両親と村人の強い勧めでイヤイヤながら町へ出て学校(スクール)へ、そして王都のハイ学校(スクール)へと進み、ピンク色をした運命と出会う事となる。運命に導かれ、Aランク冒険者の”剣士”に負けて、努力を始める。彼女の周りに集まる人々と交流し、全力で剣を鍛え、望むまま研究者として本を読み、共に振られた王子へと忠誠を誓い、現在は王国騎士団長にして、レジーナ=レグリット=サファイアの父となっている。元田舎の村人は振られた後優しくされた侯爵家の娘に絆されて本人が望んだ訳ではないが貴族となった。剣聖レイン=レグリット=ドズル、この国の最高戦力とされている。



一方で男の子はその後、急に無口になり、内向的になった。周りの子供達はガキ大将から解放されて大人達は相手が剣聖なんだから仕方ないと言ってくれている。しかし、その日から男の子の時間は止まったままだ。ずっと”どうして!なんで!”と繰り替えす。

特に熱意もないが、日課の鍛錬は続けた。外で鍛えたいと言って学校(スクール)へ通い、剣聖をなるべく見ないように過ごして冒険者となった。気のいい仲間も見つかり、順調に冒険をしたが、Cランクになった後、いつまでもBランクになれなかった。そのうちPTの魔法使いがケガをして引退した。剣士の女と僧侶の男が結婚して引退した。PTは解散し、そろそろおっさんに片足を突っ込む男はソロで小さい依頼を受けて金を稼いでギルドで管を巻く。上手くいかない人生。それほどでもない恩恵。子供の頃自分の道場の流派が世界最強だと思っていたのに・・・。


いつものように小銭を稼ぎにゴブリンとオークの間引きをする為、初心者の森をうろつく。期間があいたハズなのにあまり敵が出てこない。森の空気に少しの違和感がある。長年やってきた冒険者の勘は逃げろといっている。だが・・・・自分の中で悲鳴をあげ続けている心がなにかが始まると引き留める。

少し奥の方で悲鳴が聞こえた。足は自分の意思とは関係なく悲鳴に向かっていく。森の中に何人か倒れている初心者冒険者らしい子供達。その前にはこの森にいるハズのない魔物が剣を手に佇んでいた。

2本のツノを生やした赤い巨体、Bランクの魔物オーガ。だが、甲冑のようなモノを着込みその手に禍々しい魔剣を持っている。何人かの冒険者が斬られ倒れ伏す。残った冒険者も動けないようだ。体が勝手に動いてオーガへ切りかかる。オーガはその肉体能力を全面に出して防御を考えず切りかかってくる。

男は所詮Cランク冒険者までしかなれなかった”剣士”ではあるが、子供の頃から続けた鍛錬は今も続いていて、それがギリギリでも拮抗をもたらす。力任せなただ振り回している剣を反らし剣技を使い切りかかる。だが、オーガは多少傷ついても倒せる見込みが見いだせない。男はオーガの動きに集中していて一切の雑念をもたず、なんとか打ち合っていたが、自分の未熟な剣に絶望していた。”アイツ”なら・・・”剣聖”なら・・・こんなヤツに負けないのに。

頭の中に声が響く。”その怒りをもって、絶望をもって、”剣の魔王”を授けよう”


「ふざけるな!魔王も!勇者も!剣聖も!どうだっていい!!アスラ流が!!オレが!!!世界最強なんだ!誰かに負ける最強なんてくそくらえ!!!!」


魂の叫びにこたえるのは、邪神でも神々でもなく・・・。


”おもしろい・・・これが人間。これが剣技。誰にも負けない世界最強・・・。我が道を示してやろう・・・。手に取れ!我が名は!!!”


オーガが剣を持つ自らの腕を切り落とす。魔剣が大地に突き刺さり男は躊躇なく剣を手にする。


「ストーーーーム!ブリンガーーーーーーー!!!」


絶叫と共に振るわれた魔剣がオーガの体を鎧ごと小間切れにする。


”簡単な事だ。全ての魔物を、全ての人間を殺し尽くせばお前が世界最強だ。”


振り向くと生き残っていた冒険者を一人づつ殺していく。生命力が体に流れ込んでくる。殺し続ければ睡眠も、食事も、休息もいらない事が分かる。


「最強になるまで・・・オレは進み続ける。」


止まっていた時間が動きだし。ここに”剣鬼”アスラ=バン=ドズルが誕生した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。