EランクPTの実力
「ただいまですー、おきゃくさまなのですー?」
シルヴィが居間を覗いて固まった。美男美女がひしめいていればびっくりもするだろう。
「あら、ヴィルヘルム久しぶりね。おにいさまから話は聞いているから準備はできてるわよ?」
「・・・・・」
ダークはもちろん影に隠れている。シルヴィの後ろに隠れたのでちょっとはみ出してしるけど。
「ソフィ、丁度いろいろ話をしていたんだよ。狭いけど一緒に聞いて?」
「では、お土産のプリンがあるので食べながらで。」
ソフィが自分達のお茶とプリンを用意しはじめる。お土産はいつもすぐ食べる分と食後の分で多めに買ってくるので全員ありつけるだろう。
「ああーーー!知ってるのですー!この人王女さまなのですーーー!アルくんの買ってる雑誌にのってたのですーー!」
硬直が解けたシルヴィはほへーっと王女を見つめている。
とりあえずプリンとお茶を配って、みんな席についたので一通り自己紹介をした。今度はヴィルヘルム君のPTも全員だ。PT名は”光の翼”らしい。初めて知った。”闇の住人”ととても相性が悪そうだ。
一応女性陣同士はそれなりに和やかな雰囲気だ。プリンは偉大だなぁ。シルヴィの自己紹介でちょっとびっくりしていたけれどトイレは無事に渡っているらしい。
「それで、ちょっと話は逸れるんだけど。」
「ああ。」
「なんで”光の翼”には斥候職がいないの?」
話が飛んだのでちょっと?マークのヴィルヘルム君に代わりルビーさんが自身満々に答えてくれた。
「ウチがいるから問題ない!サーチエネミー、サーチトラップにリムーブトラップ、アンロックこれだけあれば斥候職はいらへん!むしろ魔法のカギを開けられない斥候職のほうがいらんわ。」
「実はPT結成当時は結構探したんだけどね、王女様狙いの変な男冒険者しか来なくてそんなのPTに入れるくらいなら要らないってなったんだよ。でもどうして?」
「ダンジョンの62階層くらいからフィールドトラップで魔法使用不可エリアとか出てくるよ?魔法のサーチトラップだと感知できなくてふつーに死ぬよ?」
スキルは使えるし、フィールドトラップもダンジョンのトラップなので斥候職の罠解除なら解除できるのだ。理屈はよく分からないけど。
62階層はまだまだ先の話だろうけど
「あと、ダンジョンだけじゃなくて情報収集も斥候職の重要な仕事だよ。貴族ばっかりのPTじゃ街中の情報に疎いだろうしアリサさんは平民だけど、ちょっと遠慮して意見とか言えない風に見えるから、客観的に戦力分析や情報収集できる人入れた方がいいと思うよ?」
「62階層の情報なんて怪しげな雑誌より眉唾やん。」
「イイ人がいればもちろん力になってもらいたいんだけど、さっきも言った通り内街の冒険者ギルドにはもうPTに所属してる人しかいないし・・・。」
「王様に探してもらえばいいよ。王城には諜報部隊のメイドさんとかいそうだし、王様の紹介なら王女様の安全も担保できる。どの道ルルグ君を討伐して生き残らないとだけどね。」
「・・・考えておくよ・・・・。」
みんなプリンを食べていてあまり話さないので今のうちに話をすすめよう。
「あともう一つ、どうしても聞いておかなきゃならない事なんだけどさ。ルルグ君を上手く討伐出来たとしても、いずれ本物の魔王が表に出てきたら勇者の出番になっちゃうでしょ?それで勇者が死ぬのはヴィルヘルム君は納得しているの?」
ヴィルヘルム君はいいやつなのだ。ルルグ君を可哀そうと思っているくらいには。だから親しい誰かが死ぬ事を許容できるのだろうか?事故だとか病気で突然じゃなく、魔王が出てきたら確実に起こる現実としてどう思っているのか聞いておきたい。国も神様も勇者が死んだらまた新しい勇者が出てくればいいと考えてると思うけど、アリサ=フォーリンスは一人しかいないし、替えなんていない。
「・・・・・・・母上から・・・以前習得できなかったスキルで”奇跡のおなら”というのがあると聞いた。すごく古い文献にちょっと出ていただけだけど、運命を変える力があるらしい。今のボクの実力じゃまだまだ届かないけど、なるべく急いてダンジョンを攻略して使えるようになってみせる。それで、魔王を討伐した時に相打ちになる運命を変えるか、サクラにリザレクションを頼んで奇跡を使って生き返らせるか・・・。一度しか使えないらしいけど必ずなんとかしてみせる。」
ヴィルヘルム君が今まで見た事ないような顔をして言った。
「魔王を討伐して生き残ったら他の魔王の討伐に廻されて死ぬだけだよ?」
「そんな事はさせない!本物の魔王討伐は勇者の運命だから仕方ないけど、魔王を討伐したらアリサをボクの妻としてブー男爵家に迎える予定だ!母上にも話をしてあるし、他の魔王は他の勇者が討伐すればいい!」
「「え?」」
王女がプリンのスプーンを取り落とし勇者が驚きの表情で固まっていた。
ヴィルヘルム君はバツが悪そうに勇者を見ながら
「ゴメン・・・急にこんな事を言われて戸惑っていると思うけど、スキルの事も含めてずっと考えてたんだ。まず、実現するだけの実力をつけないとだし、なにより今回生き残らないと意味がない。だけど・・・もしアリサが受け入れてくれるなら・・・必ず実現してみせる。」
王女の顔が真っ青になってきて、勇者は驚きから顔を真っ赤へと変えていたが
「はい!」
にっこり笑って返事をしていた。ヴィルヘルム君と見つめあって。
はい!じゃないんだよなぁ。王女が倒れそうだ。
「ままま、まあ、未来はどうなるか分からないですし、今はルルグ=アシュレイを討伐しなくてはですし!」
親子2代共振られかけている王女は話をなんとかそらそうとしているが、まったくもってその通り。奇跡のおならはまだ先の話なのでここで死ぬ訳にはいかない。
「ヴィルヘルム、少し・・・見直したわ。女を侍らせて笑っているクズだと思っていたけれど・・・。協力してあげる。」
ソフィはそんな風に思っていたのか・・・同じような状態のオレにも効くからもうちょっとマイルドに言って欲しい。
「ヴィルヘルム君の覚悟は十分分かったよ。こちらも全力で協力する気が出てきたよ。」
「そうなのかい?」
ヴィルヘルム君はちょっと照れて横を向いている。
「でも、こちらに被害を出さないでルルグ=アシュレイを討伐するにはいくつか条件を飲んでもらいたい。条件が揃わなければオレ達が協力しても多分倒しきれないし逃げられる。ついでに王女も攫われると思う。」
「条件・・・。」
「まず、騎士団と冒険者の派遣を全てキャンセルしてほしい。行くのは光の翼と闇の住人だけでいい。」
「な!・・・」
「もっと言うと勇者とヴィルヘルム君とウチだけでいい。まぁ危険だけど王女がいればルルグ君が逃げる可能性はなくなるだろうけどね。」
「姫が行くのに私が行かないハズがないだろう!しかも他の助力を断るとは!バカにしてるのか!」
「魔法ナシでどうやって大量のゴブリンを倒すんや・・・死ぬ可能性が上がるだけやん。」
要らない言われた2人は不満だろうが、少なくとも他の勇者は絶対に排除しないとだし、現場の神の力はほとんどソフィが使うだろうから居ても意味はない。
「ゴブリンをほとんど倒さずにルルグ=アシュレイだけ討伐する作戦がある。派遣が決まってる人達に直接言っても聞かないだろうから王様とギルドマスターに言って派遣を止めてもらって。勝手についてくるとかもナシにしたいから。王様とギルドマスターは言えば簡単にうなずいてくれると思うよ。ナーラさんの意向が伝わってるハズだから。ついでに、国宝の聖剣も返してきて。剣はこっちで用意してあるから。王様になるべく借りを作らないほうがいいよ。」
ヴィルヘルム君は考え込んでいるけれど話した内容全てを吟味しているのだろう。勇者を生き残らせる為にはなんでもするはずだ。
「その大層な作戦とやらを教えてもらえるかしら?」
王女が真っ赤な顔で怒っている。青くなったり赤くなったり王女の体調が心配だ。応援してないけどがんばれ!
「作戦は現場で伝える。難しい事はなにもないから。でも、あまり干渉しないハズの神々は信用できないから今は言えない。」
「死刑にしてやる!」
レジーナさんが怒りのあまり荒ぶっているが、それは勘弁してほしい。
「じゃあ、このPTの実力を示しましょう。オレとレジーナさん、ソフィとルビーさんで模擬戦とかどうでしょう?丁度馬車は冒険者ギルドで待っているでしょうし、訓練所を借りましょう。」
「死刑にしてやる!」
「ウチはええで。」
「模擬戦だから死刑は勘弁してくださいね。」
ソフィはにこやかにお茶を飲みながらうんうん頷いている。Eランク冒険者がBランク冒険者をぼこれるのだ。なかなかない機会で嬉しそうだ。
全員でぞろぞろ東外街の冒険者ギルドへ歩いていく。道すがらもギルドの中も相当ざわついて野次馬が集まっている。ギルドの訓練所はヴィルヘルム君に言ってもらって貸し切りにしてもらった。しがないEランク冒険者PTにそんな権力ある訳ないのだ。とりあえず訓練所の真ん中あたりに集まる。訓練所の外周には見学者がぎっしりだった。
「とりあえず、いろいろ見せる訳にもいかないから・・・ダークお願い。」
ダークが無言で懐から黒いナイフを4本取り出して真上に投げる。
「”ダークルーム”」
ナイフが訓練所の4隅に飛んでいき地面に刺さると真っ黒い壁ができ黒い部屋の中のようになった。続いて白いナイフをやはり4本真上に投げる。
「”シャイニングワールド”」
同じように4隅にナイフが刺さり今度は白い壁が全周を覆う。眩しいほどではない明るい空間だ。
「これで音と中の様子は外から見えないです。無理矢理突破しなければ入ってもこれないでしょう。」
そういいながらオレだけ前にでる。
「死体は見えないほうがいいからな。」
レジーナさんはホントちょっと落ち着いて欲しい。マジックバックから木剣を取り出して渡すと向い合う。
「仕切り直しナシで10本先取にしましょう。たまたま1本取っただけとか言われても困るんで。」
「つまり、10回殴れる訳だな!」
元気に素振りをしているがさすが聖騎士は強そうだ。
「キミ達の事はヴィルヘルム様より聞いている。私は”睡眠無効”のアクセサリーを付けているが、恨むなよ?」
「はじめー」
ダークの適当な合図でレジーナさんが突っ込んでくる。すごい早い剣はオレの周りの30cmぐらいで急にふらふらゆれて遅くなる。横に回避しながら言う。
「ホントに寝なくていいんですか?」
「貴様の力など効かん!」
「じゃあ、普段オレがどれくらい眠いのか体験してもらいましょうか。」
「”眠れる森の美女 リンクコネクト”」
レジーナさんを含んで世界を塗り替える。前の魔王軍四天王の時にきつかったので実は今はズルをしている。普段確かにオレの周りには神の力は寄り付かないんだけどそれはなんかキモイみたいな感じで逃げていくだけだ。だから厳密にはまったく神の力がいない訳じゃない。そこを塗り替えるのが結構大変だったのだが、簡単な話力を使う前にソフィに回りの神の力を集めてもらって、最初からまったく神の力がないエリアを作るのだ。力もそんなに濃い感じじゃなくて薄く世界を覆う。
元気いっぱいだったレジーナさんが急に倒れこむように体制を崩してすぐに踏ん張る。
「ぐっ!睡眠無効を突破するのか!」
睡眠無効は関係ないけどわざわざ教えない。
「いやいや、ちゃんと寝てないじゃないですか。オレの力は自分の眠さを相手に与えるのと、物凄く眠くなるけどスキルの力で無理矢理眠らないって能力です。どうです?眠いでしょう?」
半分くらいはウソだ。普通の魔法やスキルでの睡眠付与は一回レジストすればいいからずっと眠いなんてことはない。オレの普段の眠いけど頑張れば眠らない事が出来る状態を味わってもらっている。本人は大真面目だが、まともに剣とか振れる訳がない。何度かふらふらの体制のふらふらの剣を避けるとレジーナさんは歯を食いしばって吠えた。
「これしきの事で姫を守れるかー!後で治療をお願いします!!」
懐からナイフを取り出すとそれを左腕に刺した。痛そう。
「こ、これなら!」
よくある手だけどホントにやる人がいるとは。まぁ本来痛みで眠気を逸らすんだろうけど周りの世界が眠くなっているのだ。痛くても眠いのはなくならないし、痛いしそうしてあるから眠くても寝れないはずだ。
「く、くううう」
適当に避けながら木剣を軽く頭に当てていくが避けれない。
「いっぽーん、にほーん」
「ガードおーら!プリンセスシールド!れじすとオール!・・・なぜだー」
スキルはちゃんと発動している。周りに神の力がないから体内の力だけなので効果は弱いが。まぁあんまり関係ない。そういうモノだから諦めるのだーわはははーたーのしーい。
「ごほーん、ろっぽーん」
雑に胴体や腕も叩いていく。
「じゅっぽーん」
後ろに回り込んで最後の一撃で直接眠気を送り込む。寝ないで済む能力を解いて、さっきスキルで体内の神の力も使ったから簡単に。幸せそうに前に倒れていく。分かる。眠い時に寝ると幸せだよね。
でもまぁ危ないので倒れる前に支えてヴィルヘルム君を呼ぶ。聖女の所へ運んでもらって治療してもらわないと。
キツネに化かされたようなよく分からない表情の光の翼の面々を他所にやりきった感で後ろに下がると真面目な顔をしているがウキウキしているソフィが前にでる。
「さっさと済ませましょう。おにいさまの正しさも少しは分かるでしょう。」
カチンときたルビーさんが前へ出る。
「殺さないように手加減したるでー。」
「はじめー」
向こうのPTはまだ治療中だがダークがやる気なさげに開始を告げる。
「泣いて誤れば許したるでー”フレームトルネード・ブルーム!”」
多分爆炎の竜巻が現れるハズだったのだろう。そんなの当たったら普通に死ぬから脅して勝つつもりで。
でも彼女の頭上には小さいヘビのような火がチロチロとくるくる渦巻いていた。ソフィは目をつぶって動いていない。
「ぶ、”ブリザード・コキュートス”!”アーススパイク・ドラゴンロアー”!」
魔法は少ししか発動しない。実はそれほど影響がないと思われた恩恵のレベルアップだがソフィは変な形で現れた。元々自分で集めた神の力をいくらでも自由に使えたので関係ないと思われていたが、ダンジョンの階層を上がると神の力への強制力が上がった。シルヴィの鍛冶仕事の時のように本来神の力は使える量や相性が決まっていて”本来その力を使う恩恵の人”がいればその人の方が神の力を引っ張れる。だが、レベルが上がったらしいソフィは他の人が使おうとしていた神の力まで無理矢理奪い取って集める事ができる。どういう事?って聞いたら詳しくは分からないけど、ホストのようにキミの力が必要なんだ。こんな事を言うのはキミだけだよ。みたいに働きかけるとコロっと騙されるらしい。まぁどちらにしろ賢者がどんな魔法を使おうと周りには神の力がなく、元々体内にあった分しか使えない。本気を出すと時間はかかるけど体内の神の力も吸い出せるらしい。
「火と氷と・・土ね。」
技名も言わず白炎と煌めく透き通った氷と黒光りする魔法剣が現れ飛んでいき、少し発現した賢者の魔法を粉々に吹き飛ばす。
「”スコール”」
「ぎゃーーー」
扇子を前に向け適当にソフィが言うとあらゆる属性の魔法剣が現れ賢者の周りに降り注ぐ。いや、光は聖女が治療しているから使ってないみたいだ。優しい。
「.う。。うううう。」
ルビーさんは座り込んで泣いていた。ついでに地面も濡れていた。オレは興味がないようなふりをしてうんうん頷きながら薄目で痴態を見ていた。ダークからナイフが飛んできてオレの視界は真っ暗になった。
見えるようになると簡易トイレが展開されていて魔法剣も惨状も一切なくなっていた。
「ちょっと!なにこれなにこれ!」
ウチの簡易トイレはウォシュレット機能がついた最新式でどうやら制作しているパンツを渡したらしいのでトイレから出てきてダークに詰め寄っている。ダークがイヤそうにしているのでソフィとシルヴィが寄って行ってお話をしていた。さっきのおもらしはなかった。なにもなかったのだ。
いつものようにぐだぐだにはなったが、ヴィルヘルム君は迷いが吹っ切れた顔で手を差し出してきた
「条件は必ず全て飲む。だから・・・ボクとアリサに時間が欲しい。」
「行く事自体は半年前から決まってた。ルルグ君の因縁は終わらせよう。明日の昼頃北門に行く。」
がっちりと握手をして頷きあう。ヴィルヘルム君は一応ちゃんと心の友なのだ。女の子だったらもっと良かったんだけどね。
ギルドの結界を解いて、目を覚まさない幸せそうなレジーナさんを馬車へ押し込み(聖女の膝枕でさらににやけていた)光の翼は帰っていく。ルビーさんだけはウチの女性陣とこしょこしょ話をして残っていた。家に帰って商談でもするのか、スイーツを食べるのか。仲良き事はいい事だ。おもらし女子も見れたし満足満足。いやそれはなかった事だった。ルルグ君にはとっとと退場してもらうとしよう。




