トイレ事情
部屋を出て店をふらふら商品をみながらうろつく。勝算はあるけれど買ってくれるといいなぁ。
適当に商品を流し見ながらこの世界のトイレ事情を考える。どう話をもっていくのがいいか。
この世界のトイレは下水道がちゃんとある。水はコモン魔法なんかもあって結構潤沢なので自動水洗みたいなのはないが貯めた水を桶に入れて流したり、それこそコモン水魔法で流したり。ちょっと大き目な街にはちゃんと下水道があって、農村や小さい村はボットンだ。
ただ、浄化設備はファンタジー。恩恵でスライムテイマーをもらう人がそこそこいて、そこら辺にいるスライムをテイムしてきて下水道の集積場みたいな通り道に適当にいれて放置するのだ。それだけで仕事に出来るほど稼げないので、ちゃんと別の仕事についているが行政から補助金が出るので副収入として月に何度か適当にスライムを放り込むのだ。村なんかではそれこそボットンの中に直接放り込む。スライムは汚物やゴミなど基本なんでも消化して溶かしてくれるが、それで栄養をとって生きているワケではない。魔物の一種なのでちゃんと邪神の力でポップする。ゴブリンと同程度には適当にポップするので足りなくなる事はないが、放り込んだテイムしたスライムは1週間ほどでいつの間にか消えてしまうのだ。はかない。
そんな異世界の意外とまともだった衛星観念もまぁ神様の誘導なんだろう。不衛生で疫病が流行るとかイレギュラーはいずれ世界の破滅の第一歩かもしれないから。
しかしそうも言っていられない状況は存在するのだ。それが女性冒険者のお花摘み問題だ。ダンジョンの攻略で一番困ったのは実はコレだった。もちろんダンジョンにトイレなどないのだ。しかし、攻略するのに10階層上るのは1日2日では出来ない。生理現象はどうにもならないのでそこら辺ですますのだが、ダンジョンなのだから致している最中でも魔物に見つかったら普通に襲われる。むしろ最中ゆえに身動きが取れなく、集中力を欠き一撃で殺されかねない。ゴブリンにでも見つかったら犯されるだろう。男はまぁいいのだ。そりゃ恥ずかしいけどゴブリンに犯される事はないだろうし。女の子は大変なのだ。恥ずかしいのでなるべく遠くでしたいが遠すぎると魔物が出た時に助けが間に合わない。もちろん見張りは立てるのだが、女の子は男に近くで見張られるのは勘弁なのだ。なので基本冒険者PTに女性が一人で入っている事はほぼない。2人以上いてお互いにお花摘み最中に見張りをしている。でもやはり魔物に襲われたり広いとはいえダンジョン内で他のPTと遭遇したりないワケではない。多くのPTが野営をする一応のセーフエリアでもお花摘みに行く女の子を嗅ぎつけて後をつける変態冒険者もいるらしい。女性冒険者にとっては死活問題なのだ!。とまぁ大げさに言うと間違っていないけれど実際には諦めている、達観している女性も多く結論は仕方ない、が現状である。
ちなみに地面がスコップで掘れるような場合は穴を掘ってその中にして埋める。石畳とか掘れない場合は仕方がないので通路の端のほうとかへ放置となる。ダンジョンも気にしているようで30分から1時間ほどでダンジョンに吸収されて消えるのだが、通りすがりに残っている物もあり、もちろんダレがしたのか分かるハズはないのだが、分かっている本人からすると頭の中はショート寸前だろう。楽しい。
それで、色々苦労した後でシルヴィがPTメンバーになったのでなんとかするよう考えたのだ。ちゃんと要望を聞いて色々機能も付けたら結構ヤバイ代物が出来てPT内で使っていたのだけどお金が大分ピンチになって仕方なく売ることにしたのだ。ダンジョンのドロップした素材は当初売っていたのだが、だんだんシルヴィに色々作ってもらって自分達で使うようになったのでギルドに売らなくなった。当然収入がほぼなくなって、ここらで一発大きく稼いでダンジョン攻略に力を注ぎたくなったのだ。
2階でスゴイアイテムを見つけた。スリープシープの羽毛寝袋というふかふかの商品でダンジョン内でも快適に寝れるらしい。羊毛なのか羽毛なのかよくわからないがオレの目利き(持ってない)がコレはいいものだと反応している・・・気がする。銀貨70枚とか買えないケド。
女性冒険者がお花摘みで恥ずかしがっている姿態を想像してふらふらにやにやしていると、さっきの店員さんが歩いていきた。
「アルク様。確認が終了いたしましたので店長が呼んでおります。」
笑顔で感情はよく分からないけど、この美人の店員さんが”確認”したのだろうか?にやにやしそうになる顔を引き締めていつものポーカーフェイス(自称)で後につづいてさっきの商談室へと戻る。中にはスカーレット店長が立って待っていた。
「アルク君。一旦場所を変えるのでテントを回収して付いてきてくれ。」
入っていたポシェットにテントを仕舞って店長と店員さんの後を付いていくとずんずん上へと上がり3階にある店長室のような所へ通された。先ほどより豪華なソファーセットに案内され、先ほどより美味しい多分お高めなお茶が振舞われる。うまっ。このお茶この店で買えるのかな?。
「さて、確認させてもらった魔道具は非常に魅力的な商品だった。是非買い取りしたいのだが・・・希望の金額は?」
スカーレットさんは単刀直入に切り出した。変わった対応からしても思った以上に食いついてくれたようだ。
「こちらの希望は金貨30枚ですね。あといくつか条件も付けさせていただきたいです。」
「・・・それは・・・また大きく出たな。確かにこの商品の価値は高いとは思うが・・・。それに条件とは?」
「ええっとですねー。まず僕等はこの魔道具を売ってそれで生活していこうとは思っていないんですよ。本業は冒険者ですしね。原価はそれほどかかっていないので安くしてもいいんですが、こちらに無制限に供給できるような事はありません。なので、あえて単価を高くしました。店に飾って売るような物ではなく、店長さんの個人的な繋がりで特別に売るような商品にしてもらいたいです。女性冒険者のお花摘み事情は深刻ですし店長さんなら高くても買う冒険者に心あたりもあるのでは?」
「そう・・・だな。中サイズのマジックバックの相場くらいだし、高ランク冒険者なら手が出せない事もないだろう。そういう相談も時々ある。」
「まぁぶっちゃけ、こちらは1個でも買ってもらえばよくってですね、絶対に1個は売れると思っているから持ち込んだのですよ。」
「?」
「ヴィルヘルム君のPTに王女様がいるでしょ?他のPTメンバーもみんな女の子みたいだし、声をかければ金貨100枚でだって売れると思いますよ。」
「!それは・・・そうだろうね。」
「今まで恥ずかしくても我慢していたんでしょうけど、恥ずかしくなくなる事はないでしょ?」
「ヴィルヘルム君や王女様に直接金貨100枚で売ればいいんじゃないか?」
「ボクが?王女様に?普通に捕まりますよ。ルルグ君は本当は死刑だったんだから。ヴィルヘルム君に売って王女様にプレゼントしてもらうのも、そもそも王女様はヴィルヘルム君に恥ずかしい所を見られたくないでしょうからナシです。女性の店長から、直接王女様へ話を振ってください。」
店長は納得しているようだ。この店のモットーを考えたらそんな高くは売らないと思おうけどね。
「それでですね、作り方とかは当然秘密なんですが最大の特徴は中のスライムです。あのスライムはですね魔物ともテイムしたのとも違って、錬金生物にして魔道具の一部となっています。厳密に生きている訳ではないので死ぬ事もありません。トイレ自体が魔道具として壊れればまた違いますが、テントとセットで魔道具として一体化しています。中のスライムだけ取り出す事はできませんしテントの中で動くことも動かす事も出来ません。そして、生物は入れる事が出来ないマジックバックにテントのまま入れる事が出来ます。マジックバックの容量は食いますけどね。入れてきたマジックポーチは容量が小さいのであのテントを入れると他はほとんど入りません。実質トイレ用マジックポーチですね。」
「鑑定でも詳細は出なかったが、すごい魔道具なのだな。」
「商業ギルドに持って行って特許みたいなものも取っていません。直接こちらに持ち込んだのはそういう意図もあって、同じような商品が作れるのなら勝手に作ってもらってまったく問題ありません。多分無理ですけどね。」
このトイレは実際ダンジョンで眠らせて捕まえたスライムを直接錬金して錬金生物化してそのまま魔道具とする事で本来素材として直接使えないスライムを無理矢理魔道具にしてあるのだ。その場で全部出来るクラフターと神の力を集めるソフィがいなければ作れない。錬金術師と魔道具師を別々に作業させても作れないのだ。劣化品やテントだけならなんとかなるかもしれないが。
「・・・・・」
「あとは、誰に売っても自由ですが、一応仕入先となる僕等の情報は隠してください。ちゃんと調べられれば分かるとは思いますが。最初に言ったようにこの魔道具は女性冒険者に使ってもらう為に作ってもらったので、そこらの貴族や金持ちが欲しがっても売りたくないのですよ。それがこちらに直接持ち込んだ最大の理由です。」
「・・・・・・・・・・。」
スカーレットさんはじっとこちらの目をのぞき込んでくる。
「マジックポーチもセットで金貨50枚だ。」
「よろしくお願いします。」
笑顔で握手しようと手を差し出す。
「王女様に私達が使用したトイレを売る訳にはいかない。この場ではとりあえず5セット買い取りたいが、可能か?」
僕はだまって普通のバックの中からマジックポーチを5個取り出して机の上に並べる。
「左端が先ほど確認してもらった魔道具で他は未使用新品です。」
「テントはもうちょっと華美に出来ないか?王族が使用する物としては少し簡素すぎる。」
「トイレを豪華にしてどうするんですか。それがトイレだって知れ渡ったら中でナニをしてるのかは分かっちゃうんだから、目立たないほうがいいですよ。それに大きさ的にもコレなら大き目のテントの中に設置できます。さらに秘匿性が上がるでしょう。あと、外側からは光が入るので暗く思わなかったと思いますが、夜だったりダンジョンの中だったりで使用する時は普通にランプもって入って下さいね。外に光は漏れませんから。」
「アンダルシア、大金貨2枚と金貨50枚、用意してきてくれ。私はポーチの中の商品を全て確認する。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
「あーーすみません。大金を持ち歩くのも怖いので金貨10枚だけ直接下さい。残りはギルドの銀行にPTの口座を作ったので後日で構いません。」
「はい。」
アンダルシアさん?は金貨の用意で外へ出て行った。スカーレットさんはさっそく中身を取り出し一つづつ確認している。鑑定を使って問題ないか見ているんだろう。細かい情報を聞くと鑑定した時の内容も変わるらしいしね。
鑑定しているスカーレットさんに声をかける。
「もし、どうしても売りたい相手がいて追加が必要になったら、東外街の冒険者ギルドに闇の住人で指名依頼を出してください。特殊な薬草の納品を銀貨1枚で。近場のロックパッカー商会の店舗にマジックポーチを納品するので手を回しておいてください。」
「キミ達は本当に目立ちたくないようだな。」
「?」
「ナーラ様から話は聞いている。情報は伏せられたが国の上層部は知っている事だ。」
「あー。」
「諸々、承った。今回はいい取引が出来たと思う。今後ともよろしく。」
確認が終わったスカーレットさんのほうから手が差し出されたので、今度こそ握手して交渉成立である。
金貨250枚!ひゃっほう!実際一人なら2年以上遊んで暮らせる金額だ!まぁそんな訳にもいかないんだけどさ。
アンダルシアさんが持ってきた金貨をスカーレットさんから受け取って、振り込みの念書にサインを書いて終了だ!。ヴィルヘルム君に出会う前にさっさと退散しよう!。だがその前に・・・。
「アンダルシアさんすみませんが・・・」
「はい?」
「スリープシープの羽毛寝袋を一つ売ってください。」
これでしばらくは金銭的な余裕が出来た。大分予定が変わってしまったので今後の事を打ち合わせしないとね。




