金策
オレは今、一人で内街の中央ギルドの目の前という一等地に建っているロックパッカー商会に来ている。
3階建の立派な店内には中央ギルド所属の高ランク冒険者向けの実用品や魔道具が多種多様に陳列されている。さすが一流店らしくこれだけ多くの商品があってもさりげなくオシャレなディスプレイと確実な動線が意識され、さらに店員は美人揃いだ。隙がない。値段以外は。
ロックパッカー商会は王都有数の商会で、主に冒険者向けの実用品を販売している。ココは本店で高級店だが外街や他の街にもたくさん支店があり、低ランク冒険者向けに安い店舗もちゃんと構えている。モットーは実用品を適正価格で。
決して赤字が出るような値段はつけないが、品薄でも人気でも適正価格を維持し、品質は間違いがない。冒険者を支援する事で大きくなった商会で、ギルドや王城とも癒着という意味ではなく仲がいい。
そう、このロックパッカー商会はハイ学校でナーラさんに売り物のマジックバックを無料でプレゼントして親に滅茶苦茶怒られたドロン=ロックパッカーさんが大きくした商会なのである。
ハイ学校は貴族だけでなく全国でいい恩恵をもらった田舎者も集まってくるのだ、将来王城で働くかもしれないので王都のアホ貴族にバカにされないよう貴族教育(貴族の生態などを学ぶ)などもやっている。王都のちょっといいくらいの商会跡取りだったドロン君も人脈作りの為にハイ学校に通いナーラさんにメロメロになってしまったのだった。
冒険者志望ではなく当然戦えないので、王子を含むナーラさんのPTを支援し続けた。マジックバックこそ勢いでプレゼントしたが、他はもちろん有料だ。だけどドロンさんの用意したアイテムの数々が時に窮地を救い、一見無意味そうな品々が過酷な冒険の中で少なくない休息を与えてくれた。その信頼の積み重ねによってドロンさんはナーラさんの取り巻きの一人として認められたのだ。
認められたとかなんだか大袈裟に聞こえるが、現在ナーラさんの取り巻きだった王子は王様になり、他のメンバーは騎士団長、魔術師団副団長、医療教会王都本部長などほぼ王都のトップメンバーなのだ。
ナーラさんも全員と懇意にしていてドロンさんは”おなら読み”の助けも借りて商会を大きくしていったらしい。無頼毎日の取材力はどうなっているんだろうか。
そんなロックパッカー商会で近くにいた女性店員さんに声をかける。
「すみません。ヴィルヘルム君の友人のアルクといいますが、店長さんとお話できますでしょうか?」
「・・・申し訳ございませんが、アポイントはとってありますか?」
不審者を見る目で対応されるが、もちろんアポイントなんてとってない。
「アポイントはとってないです。ブー男爵夫人から紹介いただきまして。まぁ紹介状とかもないんですけどね。」
なんか無言で警備員とか呼ばれそうな雰囲気が感じられる。今日はもう帰ろうと決心して後ろを向いた時店員の向こうから女性にしては低めな声が聞こえた。
「アンダルシア。他ならぬナーラ様の紹介だ。私が話を聞こう。」
奥から歩いてきたのは紅色の髪をアップにまとめて眼鏡を掛けた美人だ。他の店員と同じデザイン(たぶん制服かなぁ)の服なのに素材が一段階いいのが見た目で分かり、細部にオシャレなこだわりが見える。
間違いない。彼女こそオレと2才しか違わないハズなのに王都ロックパッカー商会本店の店長を務める、ドロン=ロックパッカーの一人娘、スカーレット=ロックパッカーその人だろう。
無頼毎日によるとハイ学校在籍中に実に63人の男性を振った伝説の人物らしい。貴族もたくさん振ったが一番すごいのは1年後輩で入学した王子の告白を3回断ったというのだ!
ついた(無頼毎日がつけた)異名は”鉄の乙女。交渉とかもちろん苦手だけど、なんとかお金を稼がないとね。シルヴィに借りたお金も無くなりそうだからね。
SIDE:スカーレット
私はスカーレット=ロックパッカー。この王都ロックパッカー商会本店の店長を務めている。何か3流ゴシップ誌によって広められたせいで世間では”鉄の乙女”とか呼ばれているらしい。
確かに処女だけど!私だって彼氏とか欲しいし!記事の内容だけ読むとホントの事しか書いてないし!訴えられない・・。
だがちゃんと理由があるのだ!私には”目利き”と”鑑定”の恩恵がある。商人にとって最高の恩恵でロックパッカーの長女として誇りに思っている。だが、告白してきた62人は全員がウチの財産か実家への援助を目当てに告白してきたのだ。裏をとって一人一人断っていたら62人になっていただけなのだ!ただ一人なんの裏もなく私に一目惚れしたと告白してきたのは王子だった。・・・無理だから!大商会の一人娘だって王族は無理だから!しかも侯爵令嬢の婚約者がちゃんといるじゃん!なるべく穏便に断ってたら今度こそとかいって再告白してくるし、やっと卒業で逃げようと思ってたら婚約破棄するから結婚してくれとか!!!むりだからーーー!嫌ってるとかじゃなくてもむりだから。パパを通してナーラ様に相談してなんとか話し自体を収めてもらったのになぜか雑誌に載ってるし・・・。
それでも本店店長を任されたのだ。娘だからじゃなく、実力で店長になったと認めてもらう為に我武者羅に頑張って、でも外にはそんな素振りは見せないように。気が付けば1年。有望な冒険者とも懇意になり商会も安定している。・・・でもここ最近の世界はナニかおかしい。ボタンを掛け違えたような、どこかにひずみでもあるような。会長となったパパも色々な街を移動しながら情報を集めている。
書類が一区切りついたので店内を巡回する。有望な冒険者を他より早く見つけ、支援するのも重要な仕事だ。1階まで降りてきた所で店員のアンダルシアがなんだかぼーっとした少年と話しているのが見えた。
「ヴィルヘル・・・・・・」
「店長・・・アポ・・」
「・・・ブー男爵夫人から紹介・・・・・」
少年はどう見ても有望ではなかった。だが、目利きが反応している。ナーラ様の紹介が本当なら話くらいは聞いてみるべきだろう。アンダルシアに声をかける
「アンダルシア。他ならぬナーラ様の紹介だ。私が話を聞こう。」
アンダルシアに店舗奥の商談部屋へ誘導してもらう。部屋のソファに少年と対面で座るとアンダルシアが普通のお茶を淹れてくれて、そのまま私の後ろに控える。普通の店員に見えるがアンダルシアは元Cランク冒険者だ。恩恵がモンクだったので魔物を素手で殴らないとならなかったり、普通に武器持ちの冒険者に勝てなかったりでイヤになった所を私がスカウトした。美人で店員としても十分なうえ素手で警備員も出来る。一応護衛として控えてもらった。少年とはいえ、そう歳は変わらなそうだし、襲ってくる事もないとは思うけど・・・。
「改めまして、ヴィルヘルム君の友人のアルク=カーバンクルといいます。紹介状とかないんですが、ナーラさんから王都で冒険者をするならロックパッカー商会がいいと話を聞いていまして。急な来訪申し訳ありません。」
「王都ロックパッカー商会本店、店長を任されているスカーレット=ロックパッカーだ。ブー男爵家の方々にはお世話になっている。」
表情に出ないように気を付けたが、内心ちょっと驚いている。少し前にパパから情報をもらっている。ナーラ様のいる辺境の街の近くに現れた魔王軍四天王と強力な魔獣。退治したのは学校の生徒でたしかカーバンクルとか・・・その場にいたヴィルヘルム君が倒した事にするとナーラ様から依頼があったらしい。王様も承認したらしいし、そういう事になったのだけれどナーラ様が手をまわしたのだからナニか意味があるはず・・・このぼーっとした少年が?本物なの?
「今日はどのようなご用件で?」
「いやぁ、実は王都に出てきて外街で冒険者として頑張っているんですけどね。まだFランクで全然稼げないのですよ。」
金を借りに来たのか?追い返せばよかったか・・
「それで生活費が厳しくてですね。とある魔道具を買っていただけないかと思いまして。」
「魔道具?冒険者ギルドとかに売ったらいいと思うのだが・・ダンジョンで拾ったのか?」
「いえいえいえいえ、実は最近お世話になっている希代の天才錬金術師シルヴィアーナ先生に作っていただいたアイテムなのですよ。百聞は一見に如かず。まずは御覧ください。」
少年は立ち上がると脇のスペースの前に行きカバンの中から小さなポシェットをとりだした。ポシェットはマジックバックだったらしく、その中から一人用と思われる小さ目な、地味なテントを組み立て状態で取り出した。
「こちらが大発明”携帯用トイレ”です。」
テントの入り口を捲りながら堂々と指し示す。テントの中には大き目の黒い塊が中央に鎮座していた。
「機能説明だけ先にさせていただきますね。まずテントですが防音、防臭、遮光、気配断などの機能がついており、中でナニがあろうと外には一切漏れません。内側からこちらの紐を引っかけてもらえば入り口も外からでは開かなくなります。」
「中にいるのは一応スライムです。テントと一体化して魔道具となっているので移動する事はありません座って、致していただければOKです。黒いのでモノも見えません。事が終わりましたら右側面を軽く2階叩いてください。拭いてくれます。気になるようでしたら紙などを使っていただいて左側面を軽く2階叩けば紙も処分してくれます。」
「とりあえず機能確認をしていただきたいのですが、ボクがココにいるのもアレなのでお店で商品を見せてもらっていますね。確認が終わりましたら声をかけてください。」
そういうと少年は店の方へ出て行ってしまった。いろいろ言いたかったが、確かに目利きがこの魔道具の”価値”を認めている。鑑定しても携帯用トイレとしか分からない・・・。天才錬金術師シルヴィアーナとか聞いた事がない。
「アンダルシア、悪いけどちょっと確認作業を手伝って。」
「え?マジすか店長・・わ、分かりました。」
まずは防音防臭、中に入ってもらって叫んでもらったりこちらの声が聞こえるか確認したり、匂いが強めのアロマなどを使って確認する。
遮光、気配遮断は私が中に入って色々動いてみてアンダルシアにテントのすぐ近くで中の動きが察知できるか念入りに確認してもらう。
「店長・・コレ結構すごいですよ・・・探知系の恩恵は持ってないけど中に人がいるのかどうかも全然わからないです。」
「・・・」
有能な生産職なら作れなくはないのだろうけど、Fランク冒険者の知り合いが作ったとか本当かしら?それに、この中のスライム。
「アンダルシア、ほんと申し訳ないけど・・・使ってくれる?」
「うぇぇ、まぁそうなりますよねぇ・・・別に手当てつけてくれます?」
「もちろん、それに問題がなさそうならアナタの後で私も使うわ。店長として自分で使ってみないと人には売れない。」
「・・・。。。はずかしいけれどぉ、行ってきます。」
アンダルシアはイヤそうな顔で中へと入っていって入り口を閉めた。私は改めて外から中の様子が分かるか注意深く観察する。けどホントに中に人が入っているかも分からない。
しばらく、5分ほど経って中からアンダルシアがやはり恥ずかしそうに出てくる。
「店長。コレすごいです。外からなにか分かりましたか?」
「いや、まったく分からなかった。どうだったの?」
「それはご自分で体験してください。一応危険などはなかったですよ?」
この本店で売っている商品は一度は私自身が使って、自信をもって冒険者におすすめできる物だけだ。今後も変わらない。私は意を決してテントの中へ入ると入り口を閉める。スライムの前で振り返って、10秒ほど葛藤した後思い切ってパンツを脱ぐとスライムに腰かけた。
「ふゎ。」
思わずちょっと声が出てしまった。最高級のソファのようにお尻を包み込み沈んでいく。まったく固い感じがない。かと思えば絶妙な反発力で腰が沈み込むような事もなく体制が安定している。どうすればいいのか分からなくて座っているとすぐにお尻周りだけが凹んで穴のような形になったのが感触で分かる。でも腰は柔らかく受け止められていてやはり沈み込む事はない。これですればいいのね・・・。
事が終わって説明を思い出す。確か・・・右側面を2回?
軽く叩くと穴のあった場所がすぐにスライムで埋まり、さらに少し押し上げてくる。支えるような感じからもっと、お尻に、スライムに接地している部分により密着するように。それが終わると一瞬震えるように密着したままスライムに撫でられる。
「ふひゃぁ」
スライムが通常状態に戻ったので一応終わりらしい。立ち上がって一応持ってきていた紙で拭くケド痕跡は一切付かなかった。水分もなくすっきり爽やかだ。言われていた通り使った紙をスライムの上に置いて左側面を2回叩くとその紙もすぐにスライムの中へ消えていった。中で溶かしているのだろうが、見た事もない黒いスライムは中の様子は伺えない。呆然とパンツをはいて外へ出るとアンダルシアが笑顔で待ち構えていた。
「コレ・・・なかなかスゴイわね。携帯じゃなくて家に普通に欲しいわ。」
「すこいですよねー。あの・・・業務として一応報告しますケド・・・私大きいほうもさせてもらったんですよ・・・ちょっと大き目の音も出てしまったんですけど、外に聞こえてませんよね!?それに終わった後も店長が入る時もまったく匂いが漏れてなかったですテントの外だけじゃなく、全てスライムが吸収したみたいでした。」
全然気が付かなかった。コレは・・・売れるわ。
「すぐに店内のアルク君を連れてきて。商談を始めましょう。」




