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馬蹄の轟きに違和感を感じたのは、関所で審査待ちの市民たちだった。
ひとりが慌てて街道の端に向かうと、続いて気付いた者たちが取り乱して逃げてゆく。
不審に思った警備兵たちが街道を見やれば、目前にまで六角棒と槍が迫っていた。
瞬く間に血しぶきをあげ、三体の死体が音を立てて転がる。
「ようし、次はあの小屋じゃ」
何やら外が騒がしいと顔を見合わせ、ひとりが確認に立ち上がった時だった。
詰所の扉が吹き飛び、オーガの姿が見えると同時に異風な集団がなだれ込んだ。
「よし、兵士だけだ。撃て!」
火縄銃の轟音が連なると、驚愕に目を見開いたまま警備兵たちが崩れ落ちた。
豊たちが素早く小屋を後にすると、入れ替わるように現れたゴブリンメイジが、たちまち詰所を炎に包んだ。
「鳥どもによれば、誰も逃しておらぬ。ここからは馬を潰さぬよう駆けるぞ」
僅かな距離にあるのは、7領の玄関口となっている大きな村だ。飛び退く人々を横目に、街道を土煙を上げて疾駆する。
石壁に囲われた村では、ふたりの門番が壁に寄りかかって軽口を叩いていた。
ふと、砂塵が舞い上がるのを遠目に確認すると、怪訝な顔で相方に声をかける。
「おい、あれ何だ。妙に急いでるな」
暫く凝視していると、見た事もない軍装の騎馬集団がみるみる近付いて来る。
「ありゃなんか、ヤバイぞ! 急いで門を閉めよう」
狼狽えながら門を閉ざして、大声を張り上げる。
「誰でもいい、自警団を呼ぶんだ! おかしな奴らが向かって来てる!」
門番の叫びに只ならぬ異変を感じ、村人たちが大騒ぎで走り始めた。
一方で門を隔てた向こうでは、早くも豊の軍勢が門前まで寄せていた。
「さすがに見晴らしが良過ぎたわい。これは牛頭でもおらねば破れんのう」
木製の門扉はかなり頑丈そうで、村を囲う石壁も三メートル近くありそうだった。
「ハウザーさん、壁を越えられる?」
壁際に馬を寄せて、オーガがその背に立とうとした時だった。
門の向こうで閂の外れる音がして、ハーピーたちが飛びたって行った。
「でかした!」
弾正が空を見上げて喝采すると、ロルフたちがすぐさま門を開いて突入する。
「決めた通り、先ず厩舎を押さえ、女子供は逃げるに任せよ。必ず五人組で動き、決して一人離れるなよ!」
三十人ほどの無慈悲な集団が、悲鳴をあげて逃げ惑う村人たちに襲いかかった。
六角棒が叩きつけられ、背中を槍で貫かれる。
僅かに武器を構えて逃げなかった者も、筒先が向けられ破裂音とともに崩れ落ちた。
家の中で息を殺して隠れる者にも、次々と炎が投げつけれてゆく。
累々と死体が転がり、僅かな呻き声だけになるまで村内の蹂躙は続いた。
立っている村人の姿が消えると、弾正が大きく手を振って合図し、ハーピーが舞い降りる。
「赤鬼と餓鬼の二組に、残さず火をつけて回るよう伝えてくれ。わしらは目ぼしい物を奪って、有りったけ馬車に載せるんじゃ」
積み込み終わった馬車から、順次8領への帰路へと進ませてゆく。六台目の馬車の荷が満ちた頃、ハーピーが舞い降りた。
「かなり遠いらしいが、こっちへ軍が向かっとるらしい。わしと鉄砲隊は殿じゃ、あるじは、ティモと馬を根こそぎ運んでくれ」
豊たちは馬の群れを率いて、馬車を次々と追い抜いて行き、弾正と鉄砲隊は、最後尾の馬車に続くように進む。
「大漁じゃわい」
にまにまとご満悦の様子だったが、何度か後ろを振り返るうちに笑みが消えて、不機嫌そうに声をあげた。
「奴らも必死じゃわい。イザーク、馬車を少し急がせろ」
十人長のイザークが駆けて行くと、弾正は遠目に上がる砂塵を見つめて距離を測る。
米粒ほどの人馬が認識できるまで迫っていて、河川敷の街道に入る前に追いつかれそうであった。
「弓の距離まで敵が寄せたら、その場で馬を降りるぞ」
狭隘な街道まで逃げ込めれば、迎え討つにも容易いが、猛追する敵が許してくれそうになかった。
白銀の全身鎧を纏う三十騎ほどが、はっきり見えるまで迫り来ている。
「馬を降りて、折り敷け!」
一斉に馬を降りると、片膝立てて素早く火縄銃を構え、弾正の命を待った。
矢が飛んで来ないことを訝しんでいると、敵は円錐型のランスを手に密集隊形で突撃して来る。
「最初はラルフ隊だけぞ、まだまだ寄せるぞ」
全身金属の塊が槍の先端を向ける迫力に、瞬きすら恐ろしく火縄銃を強く握る。
僅かに三十メートルほど、敵の突撃に兵たちが恐怖で腰を浮かしかけた時、
「撃てえ!」
ダダダァーンと耳をつんざく轟音が連なり、敵の先頭集団は人馬もろとも、もんどり打って倒れた。
後続する敵の騎兵も、のしかかるように突っ込んで倒れ、あるいは棹立ちになった馬が嘶く。
「イザーク隊、撃てえ!」
混乱する敵を追撃の弾丸が襲う。
僅かに馬を馭した者たちが続けて地に落ち、かろうじて残った騎兵が慌てて馬を返そうとしていた。
「そのまま動くなよ、敵を睨みつけてやれ」
残った半数ほどの騎兵が右側へと、大きく回り込むような動きを見せている。
ふたたび集結すると、突撃の構えを見せながらも逡巡している様子であったが、
「ようし、撃て! イザーク隊も続け」
ダダァーンと鳴り響く破裂音に、四、五体の人馬が崩れ落ちると、残った騎兵は怯えをみせて馬を駆けさせ退却を選択した。
「生き残りを仕留めるぞ。鎧を剥いで持ち帰る。馬も歩けるのは連れて帰るぞ」
兵たちが勇躍して飛び掛かってゆく。
弾正は薄く笑みを浮かべて見送ったが、内心では撃退できたことに安堵の息を漏らしていた。




