↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
領内平定
31/82

31

 日が昇ったばかりの水面が複雑に光り、豊は眩しそう目を細めて振り返った。


「ここなら遠いし、森と違って人が居ても気づきやすいから安心だ。的はあの白い岩くらいかな」


 射撃の的は、薪にする前の輪切りの材木だ。

 楽しい実験とあってか大汗かいて運んできたが、

 ぼやきひとつなく笑顔である。

 白い岩の上に据えて、慎重に一歩ずつ数えながら距離を測って進む。


「おれは練習が必要だから、じゃあ、宇喜多さんここからお願いします」


「これは、遠いですな…」


 豊の歩測では二百メートル程、火縄銃の有効射程といわれている。と、いっても五十メートルなら鎧を撃ち抜くほどの威力だが、この距離では薄い木の板を撃ち抜くのも怪しい。

 ダァンと爆ぜる音が反響して、驚いた鳥たちが次々と空へと放たれる。

 豊が目を凝らすが、遠い的に変化はない。


「申し訳ありません。外したようです」


 直家は目を細め、仰角を修正するように構えると、呼吸を整え引き金に指を掛ける。

 だが、暫くすると怪訝な顔をして火縄銃を下げた。


「如何したのか、次が撃てません」


「えっ?そうなの、何か手順があるのかな。とりあえず、もう一丁で試してみて」


「畏まりました」


 新たに火縄銃を受け取った直家は、先ほどと同じように細かく確認するように構えた。

 豊の方は横目で見ながら、手元の火縄銃をあちこち触って首を捻っている。

 ダァンとふたたび爆ぜる音が轟き、直家が笑みを浮かべて満足そうに頷く。


「当たったようですので、急ぎ確認して参ります」


 直家が軽やかに河原を駆けて行くと、豊はまた手元に視線を落とし、探るように火縄銃を弄り始めた。

 重みのある木材の的がずれ、しっかり命中している。木を穿ちめり込んだ玉は、僅かに顔を出しているだけだった。

 検分した直家が戻ろうとする刹那、ダァンと耳を震わす音に振り向けば、豊がひっくり返っている。

 慌てて駆けつければ、立ち上がった豊がまた火縄銃を構えていた。


「お怪我はございませんか? して、玉が出たようですな」


「うん。玉も火薬もないのに何でだろう?って思ってたけど、クールタイムがあるみたい」


 見当のつかない様子の直家に、慌てて言い直した。


「時間を置かないと駄目なんだ。それが条件みたいだよ」


 暫く黙って見舞っていると、成る程、豊の火縄銃が火を吹いた。よろめいたが転ばなかった豊が、すっきりした笑顔を見せる。


「ね。こんな風に、多分1分くらいかな。ああ、六十を数えるくらいだよ」


「得心いたしました。的を穿つ様を見れば、その威も強弓にも劣らぬほど。私の知る物より、数段は勝るようでした」


 直家と連れ立って屋敷に戻ると、豊はモニターの前で悩みながらも、国友の火縄銃をもう十丁増やした。

 ティモと昨日の陣へ向かおうかと見回してみれば、みんな起きてるようだが目立った動きはない。

 兵たちで賑やかな長屋の方に足を運べば、豊を見つけた弾正が手招きしている。


「おう、今日は起きとるようじゃな。じゃが敵も動いておらんから、屋敷におればよいわい。まあ米も食えるから待機じゃわい」


 ご機嫌なようすの弾正と、久しぶりに白米の朝餉を食べる。ティモは見慣れない和風の料理に、興味深そうに口をつけていた。そんなティモを微笑ましく見ながら、弾正にこれまでの経緯を説明した。


「なるほどな。形だけ真似とるのか、中身は別物じゃが同じように玉は飛ぶ。と、そういう事じゃな。昨夜、鉄砲の音が聞こえたから、何ぞあるとは思うとった」


「流石は弾正さん、頭がいいから話が早いよ。直家さんの話では昔の鉄砲より強力みたい」


 白米でご機嫌な表情を曇らせて、弾正は俄かに小言をいう表情である。


「あるじ、ここは弓手の強い者が多い。十や二十の鉄砲じゃ、野犬避けにしかならんぞ。あの品目の中じゃ鉄砲は高過ぎるわい」


「それは、おれもそう思うけど、その食べてる米も高いよ。蔵いっぱいの武具と同じ価値なんだから」


 不満顔で口を尖らせる様子に、弾正は苦笑いで手をふり答える。


「まあ他に不足は無いんじゃ。そう目くじら立てんでもよかろう。これからどう動くか、ちくと宇喜多と相談してくるわい。あるじは鉄砲で遊んどけばええ。せめて味方に当てん程度に使えるようにしてくれよ」


 結局、その日は何事もなく、豊はロルフたちと一緒に夕暮れまで河原で鉄砲を撃ち続けた。

 慣れない火縄銃の反動で、豊の体は悲鳴をあげた。

 だが、その痛みに比例するように確かな上達を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。