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日が昇ったばかりの水面が複雑に光り、豊は眩しそう目を細めて振り返った。
「ここなら遠いし、森と違って人が居ても気づきやすいから安心だ。的はあの白い岩くらいかな」
射撃の的は、薪にする前の輪切りの材木だ。
楽しい実験とあってか大汗かいて運んできたが、
ぼやきひとつなく笑顔である。
白い岩の上に据えて、慎重に一歩ずつ数えながら距離を測って進む。
「おれは練習が必要だから、じゃあ、宇喜多さんここからお願いします」
「これは、遠いですな…」
豊の歩測では二百メートル程、火縄銃の有効射程といわれている。と、いっても五十メートルなら鎧を撃ち抜くほどの威力だが、この距離では薄い木の板を撃ち抜くのも怪しい。
ダァンと爆ぜる音が反響して、驚いた鳥たちが次々と空へと放たれる。
豊が目を凝らすが、遠い的に変化はない。
「申し訳ありません。外したようです」
直家は目を細め、仰角を修正するように構えると、呼吸を整え引き金に指を掛ける。
だが、暫くすると怪訝な顔をして火縄銃を下げた。
「如何したのか、次が撃てません」
「えっ?そうなの、何か手順があるのかな。とりあえず、もう一丁で試してみて」
「畏まりました」
新たに火縄銃を受け取った直家は、先ほどと同じように細かく確認するように構えた。
豊の方は横目で見ながら、手元の火縄銃をあちこち触って首を捻っている。
ダァンとふたたび爆ぜる音が轟き、直家が笑みを浮かべて満足そうに頷く。
「当たったようですので、急ぎ確認して参ります」
直家が軽やかに河原を駆けて行くと、豊はまた手元に視線を落とし、探るように火縄銃を弄り始めた。
重みのある木材の的がずれ、しっかり命中している。木を穿ちめり込んだ玉は、僅かに顔を出しているだけだった。
検分した直家が戻ろうとする刹那、ダァンと耳を震わす音に振り向けば、豊がひっくり返っている。
慌てて駆けつければ、立ち上がった豊がまた火縄銃を構えていた。
「お怪我はございませんか? して、玉が出たようですな」
「うん。玉も火薬もないのに何でだろう?って思ってたけど、クールタイムがあるみたい」
見当のつかない様子の直家に、慌てて言い直した。
「時間を置かないと駄目なんだ。それが条件みたいだよ」
暫く黙って見舞っていると、成る程、豊の火縄銃が火を吹いた。よろめいたが転ばなかった豊が、すっきりした笑顔を見せる。
「ね。こんな風に、多分1分くらいかな。ああ、六十を数えるくらいだよ」
「得心いたしました。的を穿つ様を見れば、その威も強弓にも劣らぬほど。私の知る物より、数段は勝るようでした」
直家と連れ立って屋敷に戻ると、豊はモニターの前で悩みながらも、国友の火縄銃をもう十丁増やした。
ティモと昨日の陣へ向かおうかと見回してみれば、みんな起きてるようだが目立った動きはない。
兵たちで賑やかな長屋の方に足を運べば、豊を見つけた弾正が手招きしている。
「おう、今日は起きとるようじゃな。じゃが敵も動いておらんから、屋敷におればよいわい。まあ米も食えるから待機じゃわい」
ご機嫌なようすの弾正と、久しぶりに白米の朝餉を食べる。ティモは見慣れない和風の料理に、興味深そうに口をつけていた。そんなティモを微笑ましく見ながら、弾正にこれまでの経緯を説明した。
「なるほどな。形だけ真似とるのか、中身は別物じゃが同じように玉は飛ぶ。と、そういう事じゃな。昨夜、鉄砲の音が聞こえたから、何ぞあるとは思うとった」
「流石は弾正さん、頭がいいから話が早いよ。直家さんの話では昔の鉄砲より強力みたい」
白米でご機嫌な表情を曇らせて、弾正は俄かに小言をいう表情である。
「あるじ、ここは弓手の強い者が多い。十や二十の鉄砲じゃ、野犬避けにしかならんぞ。あの品目の中じゃ鉄砲は高過ぎるわい」
「それは、おれもそう思うけど、その食べてる米も高いよ。蔵いっぱいの武具と同じ価値なんだから」
不満顔で口を尖らせる様子に、弾正は苦笑いで手をふり答える。
「まあ他に不足は無いんじゃ。そう目くじら立てんでもよかろう。これからどう動くか、ちくと宇喜多と相談してくるわい。あるじは鉄砲で遊んどけばええ。せめて味方に当てん程度に使えるようにしてくれよ」
結局、その日は何事もなく、豊はロルフたちと一緒に夕暮れまで河原で鉄砲を撃ち続けた。
慣れない火縄銃の反動で、豊の体は悲鳴をあげた。
だが、その痛みに比例するように確かな上達を感じていた。




