30
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突如として響き渡る轟音によって、屋敷は蜂の巣を突いたようであった。鋭い叫び声と走り回っている足音が重なって、ティモも許可を得ずに部屋へ飛び込んで行った。
「トノさま! ご無事ですか?!」
目に飛び込んできた豊の姿はひっくり返ったような格好で、奇妙な黒い鉄の棒を抱えている。まるっきり放心状態の豊へ、悲鳴のような声をかけた。
「ああ、大丈夫、大丈夫。いやー、びっくりしちゃったよ」
のそのそと起き上がる豊の姿に、ティモはホッと安堵した。焼け焦げた匂いを感じながら、豊の手元をじーっと注視する。ティモの後ろから、どかどかとロルフたちも上がりこみ、心配そうな顔を覗かせた。
「これ、鉄砲っていうんだけど。この新しい武器を試してたんだ。迷惑かけてごめんね。集まった人たちにも説明して謝っといて」
階下や屋敷の前から人が集まり、声高にざわめいてるのが聞こえて、ばつが悪そうに頭を下げた。
みんな火縄銃を興味深そうに眺めていたが、豊の言葉に納得したのか説明のために去って行った。
(凄いぞ。めくれたように壁に穴が開いている。奴らの技術で鉄砲の能力だけを再現させた物だ。この鉄砲には玉も火薬も必要ない)
撫でるように手元の火縄銃を触り、にやにやと法悦の笑みを浮かべる。だが、気になるのは数だ。
(高価な武具が蔵いっぱいになるのに、同じ宝玉1個で十丁。江戸時代には二十万丁も溢れていたのに余りにも高い)
それでも昂ぶる気持ちは収まらず、眺めては弄り、落ち着きなく構えてみる。だが、二度目の轟音で静寂を破るわけにはいかないと頭を振り、明日を待ちわびるように眠りに就いた。
「ああ、どうぞ。入ってきて」
朝から爽やかな笑顔の直家がすっと一礼する。
「ごめんね。呼びつけて、何処で寝てるのか知らないから」
「左様なことお気になさらず。今は長屋で兵どもと寝起きしてます」
豊のぎこちなく強張る表情から、何か重要な話であることが窺える。
「知ってるだろうけど、昨日の宝玉を使ったみたいに宇喜多さんを呼び出した。申し訳ないけど、生み出したというのか…」
「存じております。玉を使って、私と弾正殿を選んだとか」
ガチャというのを、ぐっと呑み込んで固い顔のまま頷く。
「そう。だから、忠誠心を感じてる。おれに従うよう、本来の宇喜多さんは捻じ曲げられたんだ」
「無論のこと、存じております」
悲しさと憂いの表情で畳を見つめる豊に、直家は微笑を浮かべ、普段と変わらない姿を見せる。
「殿を思うこの高揚感が、仰るそれなのでしょう。確かに秘める野心も感じますが、殿を盛り立てんとする気持ちの前では霞んでおります」
豊は上手く話せない様子で、時々、直家を盗み見ては畳へと視線を落とす。
そんな豊に膝を進め、優しく覗き見て声をかけた。
「殿が以前に仰ったように、この世に新しく生まれたのです。私には以前の自分どころか、如何様な者にも戻りようもないのです。野心家であるを知る殿には不思議でしょうが、これが誰でもない私なのです」
しばらく押し黙って、直家の言葉をゆっくりと頭の中で咀嚼する。
「そうだね。本来の宇喜多さんじゃないと、勝手に押しつけたのかも。でも野心が湧き上がったら、おれはすぐに隠居するから教えてね」
直家は澄んだ笑みを向け、ゆっくり頷いた。
「私は心を震わすこの高揚感が、ずっと消えねばよいと思っております。ですが、その時は殿にのどかな隠棲地をご用意します。どうぞ、心安んじてくださいませ」
「何ていうか、うん、とにかくありがとう。こんな世界に巻き込んでしまったから、ちゃんと話しておきたかったかんだ」
心を締めつける物が緩んだように告げた。
一転、うっとりするような表情を浮かべて手に取り、さも愉快そうに火縄銃を見せつけた。
「さあ、次はこれだ。何処かで試し撃ちして、宇喜多さんの知ってる物と違いがあるか教えて欲しい」




