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それぞれが歓喜の雄叫びをあげ、巨大な生き物が吼えるように轟いた。
低い丘陵から見下ろせば、なだらかな緑の平野をひと塊の銀の群れが遠ざかってゆく。
弾正もようやく安堵の色を浮かべ、いつ間にか豊の前に集まった兵士たちを横目に声をかけた。
「あるじ、一先ずは終わったようじゃ。こっちは十人ほどがやられた。まだ生きている者もいるが、戦働きは難しかろう。あとで村へ運ばせ弔ってやろう」
目を赤く腫らし、豊は力強く頷いた。
薙刀には血のりがあり、具足には刺さった矢が二本。そして、顔の大きな赤剥けた痣が、理不尽な運命と自ら戦ったことを物語っていた。
兵士たちに向き直り、ゆっくりと深く頭を下げた。
「みんな本当によく頑張ってくれた。みんなのお陰で勝てました。まだ終わったわけじゃないけど、本当にありがとう」
兵士たちは拳を突き上げたり、はにかんで肩を叩き合っている。その笑顔には僅かばかりの誇りが見えた。
やおら、ざわめきが違う色を帯びる。
直家の隊が現れたのだが、シャツとズボン姿の者を数人連れていた。
「殿、周辺の敵兵どもにとどめを刺しておりました。村人が剥ぎ取りやすいよう、死体はいくつかに纏めております。この者たちはその時に見つけ、降参いたした者にございます」
困惑顔の豊が見つめる先には、七人の兵士がうなだれた様子で座らせられている。
「仲間になって貰うってこと? あ、捕虜にするとか?」
「捕虜はおそらく意味がなかろう。仕えさせるというなら構わんが、すぐに矛を逆さにはするまいよ。しかしながら目端の利く者なら、領軍を見限ってすぐ役立つかもしれんが…」
弾正としては初戦に勝った以上、大々的に喧伝して村から堂々と農民を募兵したかった。
厄介ごとの種にしか見えない領軍兵を苦々しく見やった。
「おまえら下っ端には信じられんじゃろうが、領軍には先がないぞ。力で抑えとった者が負けたんじゃ、領内がこぞって敵になるわい」
領軍兵たちは沈鬱して頷くと、やがて、豊に仕えたいと懇願の声をあげた。
豊は長い沈黙を終えて、ようやく口を開いた。
「考えたけど…、解放するよ」
領軍兵たちは驚きながらも、豊に何度も感謝を述べて逃げるように去っていった。
「やれやれ、また敵が七人増えたわい」
嘆息して首を振る弾正に、首を捻って答えた。
「そうかなあ、領軍に戻るかな。でも味方になってもらうのは怖い。捕虜にする余裕もないし、一応は悩んだんだけど。ごめんね、宇喜多さん」
「心根の分からぬ者たちゆえ仕方ありません。良きなさり方だと思います」
微笑む直家に弾正が毒づき、いつもの光景が豊の緊張を解いていく。
そうして、兵士たちと壊れた大楯を拾ったり、武器を拾っては荷車に載せてゆく。
「夜討ちでも警戒したか」
斥候によると、領軍はかなり退いていて2の村で駐屯する様子らしい。こちらも警戒しなくていいと気楽に作業を終えて村へ戻ることにした。
豊が汗をぬぐって見上げれば、いつしか茜色の雲が浮かび、広がる平原の緑を暗くしていた。
村へ戻れば大歓迎であった。
歓喜の人々が群がり、豊へと駆け寄ってきた。
兵士たちも村人たちの笑顔に囲まれている。
(領軍の統治がよっぽど厳しかったんだな)
複雑な笑みで応えていると、宇喜多隊の周りが華やいだ声で溢れてる。直家や、ローマン、テオドルフたちに頬を染めた女たちが集まっていた。
ま、みんな男前だしね、と豊が捻くれた視線を送っていると、ふと、弾正の厳しい顔と目が合った。
「な、なんじゃい。あるじ変な顔をして」
「ハハ、何でもないよ。さあ、仲間たちを弔おう」
彼らの風習は土葬であり、天上神に祈りを捧げるものだった。天上神に反応した豊は酷く複雑な思いだったが、彼らの世界なのだと口を閉ざして見守った。
みんなの祈りの声を聞きながら、豊は心の中でそっと念仏を唱え、足元のふっくらとした土に手を合わせた。
「あるじ、なんぞ、憑き物でも落ちたか」
弔い終えた豊の顔は、弾正が首を傾げるほどに晴々としていた。
「やっと分かったんだよ。彼らが死んだのはおれの為じゃなく、生きるために、食べるために戦うことを選んだ。おれと一緒だ。理不尽に抗おうと懸命に戦って死んだ。おれも自分の想いで戦おう。まあ、そんな感じだよ」
弾正は曖昧な顔で見つめて、何度も深く頷く。
そうして相好を崩すとカラカラと笑い、豊の肩をばしばしと痛いほどに叩いた。




