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食べ終えると、兵たちは談笑してざわめき、寝転んでいる者もちらほらと見えた。
「気合いは結構なんじゃが、休ませんと張り詰めとるでな。一々、言うてやらんと休まんのが面倒じゃわい」
苦笑した弾正が、俄かに顔を顰めた。
「殿。遅参いたしました。揃って騎乗にて、左翼へと備えております」
「なんぞその長物は、宇喜多よ、おぬしの柄では合うまい。ええ格好すると不覚をとるぞ」
面白くなさそうな弾正の視線を辿れば、騎馬武者たちが厳めしく並んでいる。
長大な大太刀を腰に履いて、その背には旗指物を靡かせていた。
「左様。私の手には些か余りますが、この世の者たちは偉丈夫にて、見事な働きをみせるしでしょう」
「フン、まあよいわ。軍配はわしが握るがよいな。おぬしは本陣を守り、機をみて横撃でもせよ」
頷いた直家は部下に指示して、豊の周りに馬印を掲げてゆく。指物と同じで、黒地に白い丸の中には山名を示す、山の字が風に靡いている。
恥ずかしそうに眺めながら、弾正に目を向けると、
「えっと、弾正さん、作戦とかないの?」
「こんな小競り合いで、そんなもんないわい。わしを孫武や呉起と間違えとらんか」
ばつが悪そうに伏し目になった豊だが、目を剥いた弾正にあれやこれやと、重ねて尋ね、油断すれば姿をみせる恐怖から心を紛らわしていた。
ゆるやかに起伏する広大な平原を風が駆けてゆく。
そんな絵画のような光景を破るように、突如として鈍い銀の集団が見えた。
「あるじ、来たぞ!」
恐怖、不安、期待、希望…。
ない混ぜの興奮が衝き上げ、豊の体を震わす。
「うん。大丈夫。頑張るよ!」
殺されてたまるか! 震える体で、鈍い銀の集まる殺意を睨みつける。
弾正が心配そうに覗き込んで眉をひそめる。
「わしは嫌な感じがするわい。あるじー、昏倒せんように頼むぞ。ちと、前に出るが何かあればラルフたちに伝令させよ」
苦笑いで応えると、ラルフたちも頷く。
豊の周りにはラルフの一族が六人控えている。一人は年若く、豊は断ったのだが自分も戦士だと退かぬ様子にしぶしぶ了承した。ただ、心配なので、業物の薙刀を持たせてある。
弾正も不安視した。年若い利かん気な姿と、老いの目立つラルフを豊の周りに配し、本陣まで敵を寄せ付けないつもりだった。
「いやに多い。百五十…、まだ後ろがおるか」
弾正の背を嫌な汗が流れる。
こちらは五十あまり、直家の兵が三十ほど…。
俄か仕込みながら勝てると安堵していたが、群れて列をなす敵兵は二百以上。
鉄の兜に小型の丸い盾。白い胴着から膝までの鎖帷子が垂れている。
長く連なる歩兵の外側には、並行して疎らな騎兵があり、やや後方には三十程の騎兵が続く。
やっと途切れた敵軍を見積もれば、荷駄を引く者まで数に入れれば二百五十余りに見える。
(敵も必死じゃわい。城の一つでもあれば造作も無いのじゃが)
目鼻立ちのはっきりしない距離で、歩兵の群れが陣形を整えてゆく。その蠢きを割るように三人の騎兵が進み出た。
「領軍司令のダミアーノだ! 兵を集めて迎えるなど甚だ不審。話し合いに応じるつもりはあるのか返答せよ」
大柄で精力的な容姿にふさわしい大音が、柔らかな緑の上に響き走ってゆく。
弾正は無視するつもりであったが、振り返れば小柄な人影が立ち上がり、わたわたと慌てている。
「ええい、馬を頼む。あるじの小声じゃ届かんわい。お前たち二人、供を頼む」
草いきれの熱気のなか馬を進めると、直家が追ってきて馬を寄せてくる。
「弾正殿は采配に専念されよ。敵の策やも知れぬ、それと化粧もしてないが、腐れ首となる前に返してやりたい」
弾正は素直に馬を退げ、直家はローマン、テオベルトと共に旗指物を靡かせて進み出た。
次いで、柔らかな緑を走るのは凛と通る澄んだ声。
「領主山名が一の家臣、宇喜多和泉守である! 我が殿は欲深き下郎に話す言葉は持たぬゆえ、代わりに返事いたす。領軍司令ダミアーノなるは、獣の如き貪婪さで民を貪る弑逆者であると、我が殿はご明察なされておる!」




