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豊を求めて足を運ぶと、具足を着るのに悪戦苦闘しているようであった。
拝跪して一礼するや、素早く着付けを手伝う。
「ありがとう宇喜多さん、ちょ、血だらけだけど大丈夫?」
「手足は拭ったのですが、見苦しき様、申し訳ございません。すべて返り血ですので御心配くださるな」
直家の手伝いで装着し終えると、座椅子の豊から強く声がかかる。
「いいかい、直家さん。そのペターっとしたお辞儀はやめよう。ここは違う世界だし、弾正さんなんか頭も下げないよ」
「あの邪智に長けたる者には決して油断なきよう。然れども、殿がおっしゃるのなら、簡素な礼とするよう気をつけましょう」
(また、宇喜多さんとも話をしないと。偽の忠義とかどう思うだろう、自分じゃない考えが植付けられてるなんて残酷すぎる)
豊の物憂げな表情に内心で首を捻ったが、初陣前であるゆえか、と納得して報告を続ける。
「手柄を上げし者、控えさせております。この者たち殿への御目通り叶いましょうか?」
「お目通りなんて…。誰とでも会うよ。おれの為に宇喜多さんと頑張ってくれた人たちだ」
慌ててたように手を振り上げながら豊が答えると、一礼して去った直家がぞろぞろと十人ほど引き連れてくる。
片膝ついた挨拶を聞くと、自由に座ってくれるようにお願いして直家の紹介を受けた。
「皆さん、ありがとう。砦を一つ落とすなんて信じられない活躍だ。何か出来ることがあれば言って欲しい」
こぼれるような感謝を満面に浮かべて、ラウレンツたちに親しみの目を向ける。
くすぐったいような誇らしげな顔で、一同が頷くなかローマンが口を開いた。
「トノさま、ウキタさんみたいな剣が欲しいです」
テオベルトがすぐに声を続けた。
豊は満面の笑みで頷くと、すたすたと奥へと消えて、再び現れたときにはふた振りの刀を持っていた。
「ローマンさんには藤四郎吉光、テオベルトさんには新藤五国光、錆が浮きやすいから気をつけて。丁子油があればよかったけど」
ローマンもテオベルトも、豊が話しているがうわの空のようで、子供のような好奇の目で手元の刀を見つめていた。
「あんまり出来ることはないけど、物なら、壺や茶器、掛け軸にお皿、欲しい物があればいつでも言って下さい」
「殿、また私の方で聞いておきましょう。それとお話ししたように、砦から守備兵の殆どを連れて来ました。これらを与力としたいのです」
「ああ、そうだね。じゃあ、守備兵の人たちは宇喜多さんが指揮して下さい。疲れてるだろうけどよろしくお願いします」
皆を見つめて深々とお辞儀すると、豊は弾正の待つ陣へ、直家たちは武具を求めて足を向けた。
途中で何人かと連れ立って一緒に向かうと、重い具足もあってか少し汗ばむ。晩夏か春先くらいだろうかと考えながら、足を踏みしめて進む。
弾正のいる陣が見えてきた。
若草色の平原のなか丘陵というにはあまりにも緩やかな坂だが、豊が自分の体力と相談すれば、絶望的な返事が返ってきた。
(くそ、車が欲しい。もし、生きていたら絶対に馬の練習をしよう)
肩で息して喘いでいる豊を、弾正は渋面で迎える。
もっとも渋面は、豊の荒い息が理由ではなく、
「あるじ、また古臭いのを選んだな」
源平武者のような緋色の大鎧や、鍬形の前立をしげしげと眺めている。
ちゃんと当世具足だと口を尖らせるが、弾正の渋い表情は変わらない。
「それにまあ、何というか雑兵っぷりが凄いのう」
「なっ、宇喜多さんは見事な大将の姿だって、お似合いですって言ってくれた」
不愉快そうに膨れっ面をするが、弾正は開いた口が塞がらない。
「あの嘘しか吐かぬ毒虫の世辞を信じるとは。あるじ、ようその歳まで無事に生きとったな」
「そんないい方しなくていいだろう。それに宇喜多さんは弾正殿って呼んでる、ちゃんと和泉守殿って呼ばないと」
不満げに鼻を鳴らした弾正の方が正しい。直家の優しい嘘だ。
豊は博物館の体験コーナーで鎧を着せてもらい、彼女に撮ってもらった写真を思い出す。
その姿は大将どころか、ひいき目に見ても足軽がせいぜいで弾正のいう通りだった。
「さて、あと二刻ほどで来るらしい。朝餉の支度をさせておる。いつもの麦雑炊でうんざりじゃが」
あと約四時間…、敵の影も見えないのに僅かに震える手に自嘲すると、弾正に吹っ切れたような笑顔を向けて頷いた。




