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与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
領内平定
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23

 夜明け前、落ち着かず目を覚ました者が動き始め、次々と連鎖するように村が目覚めていく。


(やれやれ、まだ寝とけばよいものを)


 ぼやきながらも脛当てから具足を着込んでゆく、黒光りする兜は金の日輪に、長い鳥の毛飾りがふさふさと天に伸びている。

 豊の様子を見に足を運ぶと、寝所を開けるまでもなく高らかにいびきが聞こえた。


(小心者のくせに相当疲れてみえる。おっても邪魔じゃし放っておこう)


 集まるように伝えておいた村の外には、大勢の兵士がうごめき行き交っている。

 戦いを目前に緊迫しているが、笑顔もちらほら見えて奮い立っている。


(悪くない。いや充分に過ぎるほどじゃ。何故、これほど戦意があるのかわからなかったが…)


 彼らから聞けば、領軍は生きるに窮乏するほどの重税を課していた。収穫の殆どを奪い、人頭税から始まり、牛馬の類いまで税を徴収し、数年ごとに新たな税が発布される始末であった。


(つまりは百姓一揆じゃ。死んだ方がましだと思う百姓の前に、降って湧いたようにあるじが現れた。じゃが負けて睨まれるを恐れて村は堂々と味方せぬ。そこで各自の意思で陣を借りる、士気が高いわけじゃ)


 弾正の見つめる先では、ロルフが歳を感じさない姿で気炎を上げている。


(羊が生まれる数より、羊を取り上げられる数が多いと爺さんも目を剥いておったな。

 領軍は目障りな我らを討ち、また、領民から死ぬまで搾り取ると…。やれやれ、どこの世も一緒じゃわい)


 微かに蹄の音が聞こえる。

 他の兵たちも気づいて静けさが満ちると、はっきり聞こえてきた。

 斥候が激しく疾駆して飛び込んで来る。


「北東より騎兵の轟き! 月明りにて、三十か五十騎か分かりません」


「明るくなる前に騎馬武者だけで来たか。教えたあの丘陵へ駆け、急ぎ備えせよ! それと誰か、あるじを叩き起こしてこい!」


 呻いたのち声を張り上げた弾正に、素早く反応して具足の擦れる音が動き始めた。怖れや混乱のない様子に満足していると、斥候の若者が悲痛な声を上げた。


「ま、間に合いません。敵はかなりの速度で引き離すことが出来ませんでした」


「くそっ! ここで備えよ。大楯を据えたら、弓を構えよ。投石隊も握り込んでおけ」


 月明りに目を凝らして、陣立てが整えられるのを焦れる思いで見つめる。

 暗闇のなか僅かに馬蹄の響きが聞こえてくる。


(なるほど、速いな。だが間に合う。阿呆が、目も効かぬなか突っ込んできおって、地獄を見せてやろうぞ)


 夜の静寂に人馬の騒がしい響きが耳を貫く。

 夜目にも霞のような集団が見えていた。

 向こうでも気が付いたようで、霞が動きを緩めながら近づいた。


「月下にて、各々、お間違いなきよう。この将は宇喜多和泉守である」


 凛とした声が響いてくる。

 ひとつ舌打ちをくれて、直家にも聞こえるように声を張った。


「構えを解けえい!」


(名乗る前に弓で射かけ、あの毒虫を始末した方がよかったかもしれん。領軍などより余程に厄介な奴じゃ。だが、忌々しいことに時ではない)


 寄り添うような人馬の群れが見える。

 安堵の色が滲む陣を、緩やかに抜けて行く。

 そうして弾正の元まで進み出ると、見下ろす直家は片鐙を外した。


「軍陣にて馬上より失礼する。私の限りでは領軍の姿はなく、暫しの猶予があろう。続く者どもは第1、第2砦の兵たちで殿に忠勇を示す者だ。それと、第1砦の守備隊長は討ち取った。では、急ぎ殿に報告いたす」


 馬に下げられた赤黒い塊から、価値ある首であることは弾正の予想にあった。


「待て。砦の兵を寝返らせるとは大したものよ。領軍とやらが百姓の怨みの中心よ、奴ら、干涸びるほど搾り上げたらしい。それが此処に兵の集う理由よ」


「ふむ。一揆の大将に殿を選んだか、なるほど、色々と腑に落ちる」


「それと、将を討って武功をあげたようじゃが、首を見せるのはやめておけ」


 憤然とした面持ちで、弾正を目で射る。しかしながら豊が以前からのように昏倒することも考えられる。大事の前である。不満気ながらも、直家は頷いて馬を進めた。

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