第四話 鈴音と一緒に朝ごはん、新しい一日の始まり
安森が電動バイクに乗って鈴音の家に戻った頃には、空はすでに夕暮れ色に染まっていた。
夕食を済ませると、二人はリビングのソファに並んで座り、それぞれスマートフォンを眺めていた。鈴音はクッションを抱えてショート動画を見ており、安森は翌日の実習予定を確認していた。
引っ越しの作業も、ようやくひと段落した。
荷物の運搬は思っていた以上に大変だったが、病院からこんなに近い場所に住めるのは、安森にとってかなり便利だった。
それに、林おばあさんからも以前、時間が許すなら普段から鈴音と一緒に食事をしてやってほしいと頼まれていた。食事代についても、林おばあさんはあらかじめ鈴音に渡してある。
そう考えたところで、安森はふと大事なことを思い出した。
「そういえば鈴音、俺たち、まだ連絡先を交換してなかったよな?」
「えっ?」
鈴音は動画から目を離し、不思議そうに顔を上げた。
よく考えてみれば、確かにそのとおりだった。
今日は二人で引っ越しの荷物を片づけたうえ、一緒に夕食まで食べに行った。それなのに、今の今まで連絡先すら交換していなかったのだ。
「た、確かにそうだね! じゃあ、私のWeChatのIDを教えるね!」
鈴音は慌ててスマートフォンを手に取り、WeChatを開いた。
「そんなに急がなくてもいいだろ。別に試験を受けてるわけじゃないんだから」
安森は笑いながら言った。
それを聞いた鈴音は、ぷくっと頬を膨らませた。
「い、急いでなんかないもん!」
「はいはい」
安森は笑いながら自分のQRコードを表示し、スマートフォンを差し出した。
ほどなくして、二人は無事にWeChatで友達登録を済ませ、互いの電話番号も交換した。
「よし、これで何かあったらいつでも連絡してくれ」
「うん、安森お兄ちゃん!」
鈴音は嬉しそうにうなずいた。
スマートフォンの画面には、今追加したばかりの連絡先が表示されている。
その名前を見つめながら、鈴音はそっと口元をほころばせた。
(安森お兄ちゃんの連絡先……)
ただ連絡先を交換しただけなのに、何か特別なことをしたような気分だった。
鈴音は何でもないふりをしてスマートフォンをしまい、自分の中に芽生えた妙な気持ちを気にしないよう努めた。
そのあと、二人はソファに座ったまま、しばらくスマートフォンをいじって過ごした。
一緒にスマートフォンで遊んでいるといっても、実際にはそれぞれ好きなショート動画を見ているだけだ。面白いものを見つけると相手に共有し、ついでに少し話をする。
「ぷっ……何だよ、これ!」
画面を見た安森は、思わず吹き出した。
「えっ? 何なに? 私にも見せて!」
鈴音は興味津々で身を寄せた。
安森はスマートフォンを少し傾けた。
動画の中では、若い男性が料理の腕前を披露していた。ところが、勢いよく鍋を振った瞬間、中の料理がそのまま床にぶちまけられてしまった。
「あははは! どうしてこうなっちゃうの!?」
鈴音もとうとうこらえきれず、声を上げて笑った。
「さあな。でも、今夜の料理はこれでおしまいだな」
「ふふっ、かわいそう……」
二人は時折動画を見せ合い、時折言葉を交わしながら、のんびりとした時間を過ごした。
一緒に暮らし始めたばかりの頃は、二人の間にも多少のぎこちなさがあった。しかし、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、雰囲気も少しずつ打ち解けてきた。
夜十時になってようやく、安森はスマートフォンを置いて立ち上がった。
「よし、そろそろ寝るか。明日は朝早くから病院に行かなきゃならないし」
「もう寝るの?」
「もう十時だぞ。遅くないだろ? 医学生にとって睡眠時間は貴重なんだ」
「わ、分かった!」
鈴音も慌ててスマートフォンをしまった。
「じゃあ、安森お兄ちゃん、おやすみなさい!」
「おやすみ、鈴音。明日の学校も頑張れよ」
「うん!」
二人はおやすみを言い合い、それぞれ自分の部屋へ戻った。
安森はさっと歯を磨き、顔を洗って寝間着に着替えると、そのままベッドに倒れ込んだ。
「ああ……やっぱりベッドって最高だな」
柔らかなマットレスが体重を受けてゆっくり沈み込み、安森の体をしっかりと支えてくれる。
安森は思わず、満足げなため息を漏らした。
やはり、シモンズのマットレスは寝心地がいい。
以前、大学の寮で暮らしていた頃を思い出し、安森は思わず首を横に振った。
寮のベッドはとにかく硬かった。何枚もマットを敷いても、横になると下にある硬い板の感触がはっきりと伝わってきたものだ。
それに比べれば、今のベッドはまさに天国だった。
「はあ……今回の引っ越しは、やっぱり正解だったな」
安森は寝返りを打ち、枕に顔を埋めた。
だが、快適なベッドを満喫しているうちに、ふと別のことが頭に浮かんだ。
(……それにしても、まさか本当に中学生の女の子と同じ屋根の下で暮らすことになるとはな)
もちろん、鈴音は林おばあさんの孫娘だ。安森にとっては、面倒を見てやるべき年下の妹のような存在にすぎない。
それでも、よく考えると、やはり不思議な話ではある。
ほんの数日前まで、自分がこんな生活を送ることになるなんて、想像すらしていなかった。
人生というのは、本当に何が起こるか分からないものだ。
「……まあ、これも何かの縁か」
安森は小さくつぶやいた。
これまで林おばあさんには何かと世話になってきたのだから、彼女が入院している今、鈴音の面倒を少し見てやるのは当然のことだろう。
そう考えると、気持ちも少しずつ落ち着いてきた。
すると今度は、別の疑問が頭に浮かんだ。
(明日の朝は何を食べようかな……)
肉まんとお粥も悪くないが、せっかくなら別のものにしてみるのもいい。
安森は少し考え、すぐにいい案を思いついた。
「……よし、明日は糁汤にしよう」
それに烫面角をいくつか添えれば、朝食としては申し分ない。
鈴音も気に入ってくれれば、これから朝ごはんの選択肢が一つ増える。
どうせ林おばあさんは食事代を鈴音に渡してくれているし、病院も学校も近い。二人で朝食を済ませてから出かけても、十分に間に合うはずだ。
そう考えると、安森はようやく気持ちを緩めた。
「……明日も早起きだし、もう寝るか」
目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
ほどなくして、部屋には安森の穏やかな寝息だけが響くようになった。
……
翌朝。
「ピピピッ! ピピピッ!」
けたたましいアラーム音が突然鳴り響き、静かな部屋の空気を破った。
「……んん……うるさい……」
安森は眉をひそめ、寝ぼけたまま布団から手を伸ばした。
枕元をしばらく探り、ようやくスマートフォンをつかむと、画面を見ることもなくアラームを止めた。
部屋に再び静けさが戻る。
安森はそのままベッドに横たわり、数秒ほどぼんやりと天井を見つめた。
(……今、何時だ?)
スマートフォンを手に取り、目を細めて画面を確認する。
朝の六時半だった。
「……よし、起きるか」
安森はしばらくベッドの上で体を慣らしてから、ようやくのろのろと上半身を起こした。
朝から病院で実習がある以上、いつまでも寝ているわけにはいかない。
着替えて身だしなみを整えると、隣の部屋へ向かった。
コンコンコン。
「鈴音、起きてるか?」
ドアをノックし、中に向かって声をかける。
ほどなくして、部屋のドアが開いた。
「おはよう、安森お兄ちゃん!」
鈴音がドアの陰から顔をのぞかせた。まだ寝間着姿のままだ。
髪も少し乱れていて、起きたばかりなのが一目で分かった。
安森は彼女を見ると、苦笑せずにはいられなかった。
「おはよう……って、まだ寝間着じゃないか」
「あっ!」
鈴音はそこで初めて、まだ着替えていないことに気づいた。
「そ、そうだった! すぐ着替えてくるね!」
そう言うと、彼女は慌てて部屋の中に引っ込み、勢いよくドアを閉めた。
「……この子、朝はかなり寝ぼけてるな」
安森は苦笑し、先に洗面所へ向かった。
歯を磨き、顔を洗って、まだ完全には目覚めていなかった頭をすっきりさせる。身支度を終える頃には、鈴音も制服に着替え、通学カバンを背負っていた。
「安森お兄ちゃん、準備できたよ!」
「よし、じゃあ行こうか」
安森は玄関の鍵を手に取り、鈴音と一緒に家を出た。
建物の下にある駐輪スペースに着くと、自分の電動バイクを点検し、バッテリーが十分に充電されていることを確認してから鈴音に向き直った。
「今日はまず朝ごはんを食べて、それから学校に送っていくよ」
「朝ごはん?」
鈴音の目がぱっと輝いた。
「そう。せっかく早起きしたんだから、何か食べてから出かけないとな」
「何を食べるの?」
「着いたら分かるよ」
安森はわざともったいぶってから、電動バイクにまたがった。
鈴音は後部座席に座り、そっと安森の服をつまんだ。
二人はこうして、朝の光明街へと走り出した。
朝の街は、すでに少しずつ活気づき始めていた。
通り沿いの店が次々と営業を始め、朝食の屋台からは白い湯気が立ち上っている。仕事へ急ぐ人々、通学カバンを背負った学生たち、道端で朝食を買う人々。そんな人々が、この街のありふれていながら生活感に満ちた朝の風景を作り上げていた。
ほどなくして、安森は一軒の朝食店の前でバイクを止めた。
「着いたぞ」
鈴音は顔を上げ、店の看板を見た。
「糁汤……それに烫面角?」
「そう。この店の糁汤はうまいんだ」
二人は店内に入り、空いている席を見つけて腰を下ろした。
安森は慣れた様子で糁汤を二杯注文し、さらに烫面角もいくつか頼んだ。
朝食が運ばれてくるのを待つ間、安森は何気なく尋ねた。
「そういえば鈴音、学校の勉強はどうだ? 成績は悪くないか?」
鈴音は真剣に考えてから答えた。
「うーん……普通かな」
「普通?」
安森は眉を上げた。
「先生の授業についていけて、習うべきことをきちんと身につけられているなら、それで十分だよ。あまり自分にプレッシャーをかける必要はない」
「でも、苦手な科目もあるの。特に数学は、授業中は分かったつもりでも、家に帰って問題を解こうとすると分からなくなっちゃって……」
鈴音は悩ましそうにうつむいた。
安森はそれを聞いて、うなずいた。
「それは普通のことだよ。先生の説明を理解することと、自分で問題を解けることは、そもそも別だからな」
「本当?」
「もちろん。分からない問題があったら、まずは自分で考えてみる。それでも分からなければ、問題をメモしておいて、次の日に先生に聞けばいい。一問解けなかったからって、自分はダメだなんて思うなよ」
鈴音は真剣に話を聞き、力強くうなずいた。
「うん! 分かった、安森お兄ちゃん!」
「それならよし。ところで、今日は午前中に何の授業があるんだ?」
「一時間目は国語、二時間目は数学、三時間目は英語で、四時間目はたぶん歴史だよ」
「午前中からなかなか充実した時間割だな」
安森は思わず感心した。
そして、もう一つ気になることを思い出した。
「そうだ、昼ごはんはどうしてるんだ? 学校に食堂はあるのか?」
「ないよ。うちの学校には食堂がないから、お昼は家に帰って食べるか、近くで何か買って食べるの」
「なるほどな」
安森は考え込むようにうなずいた。
「昼休みはどれくらいあるんだ?」
「二時間半!」
「二時間半? そんなに長いのか?」
安森は思わず驚いた。
「うん! 学校から家まで近くて、歩いて十分くらいだから、お昼は家に帰って食べられるんだ。食べ終わったら、少しお昼寝もできるよ」
「それは便利だな」
安森はようやく事情を理解した。
鈴音の学校には食堂も寮もないため、昼食は自分で用意する必要がある。だが、家から学校までは歩いて十分ほどしかかからないので、昼休みに帰宅して食事をし、休むことも十分に可能なのだ。
ただ、林おばあさんは今も入院中だ。普段の昼食も、鈴音が自分で何とかしなければならないだろう。
そう考えた安森は少し考えを巡らせてから、口を開いた。
「こうしよう。俺も昼飯は食べるんだし、時間が合えば学校まで迎えに行くよ。一緒に昼ごはんを食べよう」
「えっ? 安森お兄ちゃんが迎えに来てくれるの?」
鈴音は驚いて目を見開いた。
「そうだよ。病院と学校は通りを一本挟んでるだけだし、すぐそこだろ。一人で食べるのも二人で食べるのも、別に変わらないじゃないか」
安森は当たり前のことのように言った。
「それに、仕事が早く終われば一緒に昼ごはんを食べよう。食べ終わったら、鈴音は家に帰って昼寝すればいいし、俺も休憩時間に少し休めるからな」
「ほ、本当にいいの?」
鈴音の頬が、ほんのりと赤く染まった。
「もちろん。ただ、病院の仕事は忙しくなることもあるから、毎日決まった時間に上がれるとは限らない。時間が合いそうなら、先にWeChatで連絡するよ」
「うん! 連絡、待ってるね!」
鈴音は嬉しそうにうなずき、その目は期待に輝いていた。
そんなに喜ぶ鈴音を見て、安森も自然と笑顔になった。
「よし、それで決まりだな。ほら、朝ごはんが来たぞ」
ちょうどそのとき、店員が二人の注文した朝食を運んできた。
湯気の立つ糁汤が二杯、テーブルに置かれ、その横にはできたての烫面角が並べられた。
乳白色のスープからほのかな香りが漂い、湯気とともに白胡椒の匂いがふわりと広がる。思わず食欲をそそられる香りだった。
安森はスプーンを手に取り、スープを軽くかき混ぜた。
「よし、食べよう」
「うん! いただきます!」
鈴音は待ちきれない様子で糁汤をスプーンですくい、そっと息を吹きかけて冷ましてから口に運んだ。
次の瞬間、彼女の目がぱっと輝いた。
「おいしい!」
安森はそれを見て、満足そうにうなずいた。
「気に入ったなら、たくさん飲めよ。朝ごはんをしっかり食べておけば、授業中も頭が働くからな」
糁汤は、山東・河南・江蘇・安徽の各省が接する地域で親しまれている、特色ある朝食の一つだ。
伝統的な糁汤は、雌鶏や羊の骨などを煮込んで作ることが多い。スープは乳白色で澄んでおり、ほんのりと肉の香りがする。そこに白胡椒を加えることで、すっきりとした味わいに仕上がり、朝食にもぴったりなのだ。
一般的には、まず器に卵を割り入れて溶き卵にし、そこへ熱々の糁汤を直接注ぐ。スープの熱で卵がすぐに固まり、ふんわりとした卵の花ができる。こうして、香り豊かな糁汤が完成する。
一方、烫面角も人気のある小麦粉料理の一つだ。皮は柔らかく、ほどよい弾力があり、中の餡は香ばしくて具だくさん。熱々の糁汤と一緒に食べれば、お腹もしっかり満たされる。
「鈴音、烫面角も食べてみな」
「うん!」
鈴音は烫面角を一つ手に取り、そっとかじった。
「ん……これもすごくおいしい!」
「気に入ってくれてよかった」
安森は満足そうに笑った。
二人は朝食を食べながら、学校や病院での出来事について話した。
鈴音は今日の授業について話し、安森は病院実習であったことを簡単に聞かせた。二人は気楽に会話を楽しみ、何でもない朝食の時間が、いつもよりずっと楽しいひとときになった。
ほどなくして、二人は朝食を食べ終えた。
安森と鈴音は、それぞれスマートフォンでコードを読み取って会計を済ませた。鈴音の食事代は、祖母があらかじめ渡してくれていたものだ。
安森は再び電動バイクにまたがり、鈴音を乗せて光明街中学校へ向かった。
学校に着く頃には、校門の前にすでに大勢の生徒が集まっていた。
制服姿の生徒たちが三々五々、校内へ入っていく。あたりには、朝ならではのにぎやかな声が響いていた。
安森は校門の近くでバイクを止めた。
「よし、着いたぞ」
鈴音はバイクから降り、通学カバンの肩ひもを整えた。
「安森お兄ちゃん、一緒に朝ごはんを食べてくれてありがとう!」
「いいって。遅刻しないように、早く中に入りな」
「うん!」
鈴音は笑顔で手を振った。
「じゃあ、行ってくるね!」
「行ってこい。昼になったらスマホを確認するんだぞ。俺が時間どおりに上がれそうなら、メッセージを送るから」
「分かった! 安森お兄ちゃん、またね!」
「またな」
鈴音が校門をくぐるのを見届けてから、安森は再び電動バイクにまたがり、市立病院へ向かった。
鈴音の姿が校門の向こうに消えたのを確認して、ようやく安心したように視線を戻した。
ちょうど朝の通勤ラッシュの時間帯で、道路には仕事へ向かう人々や通学中の学生たちがあちこちに見えた。安森は周囲の交通状況に気を配りながらバイクを走らせ、ほどなくして病院に到着した。
駐輪スペースに電動バイクを停め、スマートフォンを取り出して時間を確認する。
(うん、まだ間に合うな)
安森はほっと息をつき、職員用の出入口から病院へ入った。
更衣室で白衣に着替え、身だしなみを整えてから実習記録を確認し、指導医がいる病棟へと向かった。
「おはようございます!」
「おはよう。今日はずいぶん早いな、安森」
「はい。昨日、引っ越しがようやく片づいたので、今朝は少し余裕がありました」
「それはよかった。じゃあ、さっそく回診に行こう」
「はい!」
安森は返事をし、指導医の後について病室を一つずつ回り始めた。
患者の容体を確認し、検査結果を照合し、必要な情報を実習記録に書き留めていく。医師の説明に注意深く耳を傾けながら、医師が患者とどのように接しているか、診察の細かな手順にも目を配った。
医学生の実習生活は、決して楽なものではない。
覚えるべき知識は多い。患者一人ひとりの状態を正確に把握するには、医学の知識だけでなく、細やかな観察力も必要だった。
それでも、実際の医療現場で学べることは多く、安森にとって大きな勉強になっていた。
(やっぱり、教科書を読むだけじゃ身につかないこともあるんだな……)
安森は指導医の説明を聞きながら、心の中でそう実感していた。
回診が終わると、検査結果の整理やカルテの記入が待っていた。午前中の仕事は予想以上に忙しく、気がついたときには時計の針が正午に近づいていた。
安森は手元の仕事がひとまず落ち着いたところで、白衣のポケットからスマートフォンを取り出した。
画面に表示された時刻は、もうすぐ昼休みという時間だった。
(そろそろ昼飯だな。午前中の仕事も、ようやく片づきそうだ)
鈴音は今頃、まだ学校で授業を受けているはずだ。
昼休みになれば、きっとスマートフォンを確認するだろう。
そう考えた安森は、先にメッセージを送っておくことにした。
『鈴音、こっちは午前中の仕事がだいたい片づいたよ。お昼は時間どおりに上がれそうだから、学校まで迎えに行くよ。一緒に昼ごはんを食べよう』
メッセージを送信すると、安森はスマートフォンを再びポケットにしまった。
(まあ、まだ授業中なら、すぐには返事できないよな)
そう考え、彼は特に気にすることなく椅子に座り直し、残っている仕事に取りかかった。
まだ整理し終えていないカルテがいくつか残っている。
鈴音を迎えに行くと約束した以上、できるだけ早く手元の仕事を片づけ、約束した時間に間に合わせたい。
安森は再び顔を伏せ、仕事に集中した。
新しい同居生活は、まだ始まったばかりだ。
そして、二人の日常もまた、こんな何気ない出来事の積み重ねの中で、少しずつ形になっていくのだった。
中国の学生の昼休みは、一般的に午前11時半に午前の授業が終わり、午後2時半に午後の授業が始まる。つまり、午後2時に家を出ることになる。昼食を食べたり、学校から家まで往復したりする時間を差し引くと、昼寝に使える時間はだいたい1時間ほどだ。




