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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第八話

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8-8 小島家

「残念だけど、あとは帰るだけだなー」


穂積さんからもらったカロリーバーをかじりながら、残念そうに冬弥が言う。

散歩がてらに増水していた川の様子を見に行ったら、なんとか通れないことはない程度に落ち着いていたのだ。


戻ってみんなで話し合って、朝食をゆっくり食べてしばらくしたら帰ろうとなった。


当然冬弥はもう少しってねばったけど、雨も降ってないのに突然増水した川の原因がわからない以上、時間をおけばまた帰れなくなる可能性もあるという穂積さんの言葉に渋々従った形だ。


そう決まったんだけど……。


「ん?どうした、逢介。あんまり嬉しそうじゃないな?帰れるってなったら、お前が一番喜ぶと思ったんだけど……」


冬弥が僕の様子に気づいて言った。


そう。嬉しいはずなのに、一刻も早く帰りたいはずなのに、なぜか気になるんだ。


「うん、そんなんだけど……。なんだろう、何かやり残してるような、そんな気がして仕方ないんだよね」


そう言って、何が気になってるのか分からずに、僕はキョロキョロと辺りを見渡す。


「ほら!逢介も探索したりないんじゃないか?」


「冬弥さん!」


冬弥が調子に乗ってそんなことを言い出して、穂積さんにたしなめられているのを眺めながら、僕は違和感の正体を探った。


すると、目の端にきらりと光ったものがあった。


「あ、これか」


光ったのは、台座に立てられた手鏡だった。朝日を反射して光って見えたのか。


「うん?手鏡……荷物の中に入れてなかったっけ?」


そう思いながら手を伸ばすと、手鏡がそこにあることに強烈な違和感を感じた。

決まった場所があるのに、違うとこに置いてある。そんな気がしてならない。


「どした?」


手鏡に手を伸ばしたまま固まっている僕の隣に来た冬弥が、僕と並んで手鏡を見る。


「どしたの?」


「冬弥は何も感じない?なんか……この手鏡がここにあることが変って言うか……気持ち悪いって言うか」


僕がそう言うと、冬弥は角度を変えながら手鏡を眺める。


「うんにゃ、特に。なんだよ、今度は手鏡の精かなんかが帰りたいとか言ってんのか?」


「なんだよそれ……」


そう言って苦笑する僕を見て、冬弥も笑っている。冗談で言ったのだろう。


そこに真面目な顔をした穂積さんが声を出した。


「気になりますね……。逢介さん、手鏡がここにあるのはおかしいと感じるんですね?」


真面目な顔でそう聞かれて、僕は少し押されながら頷く。


「では、どこにあるのが正しいと感じますか?」


「……え?」


ポカンとして穂積さんを見る。確かにここにあることに違和感は感じるけど、だからといって元々どこにあったのかもわからない手鏡の正しい場所なんて……。


その時はそう思ったけど、改めて手鏡を見るとうっすらと浮かんできた。


「あれ……。今みたいに……光、かな?反射するために置かれて……廊下みたいなとこ……なんだこれ?」


曖昧だけど手鏡が置かれている風景が浮かんできて、僕は動揺する。


「あれ……、見たことないんだよ!でもなんか浮かんできて……なんだろ、これ?冬弥!」


行ったことも見たこともない場所が頭の中に浮かんできて、怖くなった僕は冬弥の腕を掴む。


「お、落ち着けよ。こう言う場合……そうだな、手鏡が元に戻して欲しいんじゃないのか?わかんないけど……」


「冬弥さん……。当てずっぽうで言うのは……」


僕にすがりつかれて、何か言わないといけないと思ったのか、適当なことを言う冬弥を穂積さんがたしなめる。


その、少し見慣れてきた光景を眺めながら、冬弥の言ったことが不思議としっくりくることに、僕は驚いていた。


--鏡を在るべき位置に……。


どこからか涼やかな声でそう聞こえた気がして、辺りを見ていると、冬弥も穂積さんも不思議そうに僕を見ていた。


「逢介さん?」


「穂積さん……。声が聞こえませんでした?」


恐る恐るそう言うと、穂積さんは表情を引き締めて周囲を見渡した。


「……逢介さん。声はなんと?」


そのままの表情で僕を見た穂積さんが、ゆっくりとそう聞いてくる。


「……鏡を在るべき位置に。って」


穂積さんも冬弥もその声が聞こえていないと分かった時点で泣きそうになっている僕が、震えながらそう言うと穂積さんは考え始めた。


「逢介さんにだけ……鏡を……場所とかではなく位置に?」


ブツブツと呟きながら、考え始めた穂積さんの後ろで冬弥が期待した顔をしている。

こいつ、まさか……。


「少し調べてみましょう。私も気になります」


顔を上げた穂積さんがそう言うと、その後ろで冬弥が両手を上げて喜んでいた。


◆◆ ◆◆


「このお屋敷ではないようですね」


全員で改めて大橋家の屋敷をぐるっと調べてみて、穂積さんはそう結論をだした。


僕も、その意見に賛成だ。不思議なことに、本来こんな手鏡があってもおかしくないような場所に置いても、違和感を感じるのだ。 


「ほえー、みてみろよ逢介。これ多分ここの娘さんだろうな」


僕たちの後からついてきながら、気の済むまで屋敷を探索していた冬弥が、そう言って僕に何かを見せてきた。


「あっ!」


それは、何かの行事の時の写真なのか、このお屋敷のお座敷で、着物を着たとても綺麗な女性が座っている写真だった。

そして、それを見た瞬間に僕の頭にフラッシュが焚かれたようにして、その場面が浮かんだ。


夢の中で、僕はその女性に会っていた。


「小島……咲、さん?」


「なんだよ逢介、もう見てたのか。……いや?違うぞ。ほら、小島じゃないって。ここ、大橋咲って書いてあるぜ?」


そう言って冬弥がその写真を裏返して見せてくる。そこには、確かに大橋咲と名前が書いてあった。


さらに……その写真にも手鏡と同じ違和感を僕は感じていた……。


「……逢介さん。小島というのは、この大橋家と仲が悪かったとかいう小島家のことでしょうか?」


穂積さんがそう聞いてくるが、僕は曖昧な記憶しかないので、はっきり答えることができなかった。

しかし、その様子を見ていた冬弥は全てを理解したような顔で大きく頷いた。


「いや、むしろこの場面でその小島さん以外だった方が不自然だと思う。……この写真さぁ、どこで見つけたと思う?」


そう言われても、冬弥の行動を監視していたわけでもないし、僕は手鏡のことで頭がいっぱいだったのにわかるわけがない。

穂積さんも首を傾げながら冬弥を見ている。


冬弥はニヤッと笑ってゆっくりと言った。


「それさ、逢介が手鏡を見つけた部屋で見つけたんだ。手鏡を見つける前も見つけてからも、俺たち散々あの部屋は探したよな?その時は見つからなかったのに、さっきは部屋を横切ろうとした時に目についたんだ。こんなことあるか?」


「つまり……偶然じゃないって、冬弥は言いたいの?」


僕が聞くと、冬弥は満足そうに頷く。


「呼んでるんだよ。俺たちを……。小島家にさ」


自信たっぷりの顔で、冬弥はそういうのだった。

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