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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第八話

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8-9 お札と井戸

僕はしっかりと手鏡を握りしめて、大橋家を後にした。かつては広く立派な庭だっまみたいだけど、誰も手入れをしないまま時間が経ってしまった今では、むしろ余計に物悲しさを感じる。


そんな荒れ放題の庭を横切り、敷地を出ると草で覆われた田畑や、小屋みたいな家がポツポツと見える。


「多分だけど、あれが小島家だろうな。……なんかさ、一般の人の小屋……おっと、家だな。家はあっちの方が多いよな?」


冬弥が失礼な事を口走りながら、周りを見て言った。まぁ、言いたいことは分かる。

あまりにも大きさや造りが違いすぎる。


「おそらく、土地のほとんどは大橋家か小島家の所有している物なのでしょう。それを人々に貸して、田や畑を作らせていたのでしょう。当時一般的な小作人という身分の人たちですね」


「なるほど。自分の持ち物じゃないからそこまで利益がなくて小さい家に住むしかなかったんだな」


田んぼや畑に挟まるようにして建っている家は、今風に言えばワンルームしかない。どうやって暮らしていたのか少し気になるけど、今はそこじゃない。


「そうだな。ほとんど崩れ落ちてるし、小島さんちに行こうぜ!」


そう言って、冬弥は先頭に立って集落の反対側を目指して歩いて行った。


◆◆ ◆◆


「……あそこだよな?」


少し離れたところから様子を窺う冬弥は、なかなかそれ以上進もうとしない。


なぜならば、周りの家より少しだけ高いところに建っている小島家らしき屋敷から、なんとも嫌な気配が漂っているからだ。


「他もそうだったけど……、特に荒れてるよね?」


僕はその冬弥のさらに後ろから様子を見ている。遠くから見えた小島家は、生垣に囲まれた田舎のお屋敷というイメージだった。


ただ、近づくにつれてだんだんとそれは見えて来た。


「屋敷の周りを囲んでいる植木にお札。結界か何かでしょうか。他にも建物の壁や門、外に面する障子にまでいたるところにお札が貼ってありますね」


周りを歩いていた穂積さんが、少し険しい顔をしてそう言った。


「お札には二種類の用途があります。一つは護符のように害あるものから守るために貼るもと。一つは封印の札です。護符が外からの力を中に通さないのに対して、封印の札は中のものが外に出ないように貼られます」


突然穂積さんがお札について語り出す。その視線は小島家のあちこちに貼ってあるお札に向けられている。



「え、つまり……?」


なんだか嫌な予感がして、僕は穂積さんに話の意図を訊ねる。

穂積さんは、首を左右に振りながら言った。


「護符も封印もめちゃくちゃに貼られています。これでは屋敷の中にどのような影響を及ぼすか……。」


相反する役割を持っているお札を貼ることによって効果が拮抗して、中がどうなっているか穂積さんでもわからないと言う。


「そんじゃまー、用心して進むってことで」


真剣な顔をして話している穂積さんと僕の間を、手刀を切りながら冬弥が通って行った。


「うわ、こっちはだいぶ傷んでるなぁ」


とか言いながら冬弥はズカズカと中に入っていく。


「……はぁ。冬弥さんは警戒というものが足りませんね。まぁ、霊感がないというのは、霊が見えないだけではなく霊からの接触もできないので、冬弥さんは大丈夫でしょうが」


そう言うと僕をチラッと見る。


「気をつけます……」


そう言いながら、僕たちは冬弥の後を追って小島家の中に足を踏み入れた。


木製の半分壊れた門を抜けると、雑草に覆われた庭が広がっている。大橋家は庭園って感じがしたけど、こちらはそこまで凝った造りはない。

ただ……入った瞬間、肩から重い服を掛けられたような、ズンとしたものを感じた。


「なんだろう……。誰もいないって感じがしない」


周りを見ながら呟くと、隣を歩く穂積さんも頷いた。


「確かに……。私にもそう感じます。」


大橋家と比べると、元々こっちの方が建物も古かったのか、痛み具合はひどい。

途中にあった小さい家みたいに、部分的に崩れていたり天井が落ちてしまっている箇所もある。


ただ……。


「こっちの方がしっくりくるっていうか……。」


持っている手鏡は、元々ここにあったんだって気がする。

手鏡の劣化具合と建物の劣化具合がなんとなく同じくらいだと感じる。漠然とだけど……


「おそらく間違いないでしょう。大橋家にあった物と比較しても、その手鏡だけ劣化が激しかったですからね」


穂積さんも僕が言ったことに頷いている。


「おい!これ見ろよ」


先を行く冬弥が、玄関のところに立って僕たちを呼んだ。

急いで冬弥の所まで行くと、僕は息を呑んだ。


傷んでいるが大きく立派な造りだったと思わせる両開きの玄関は、片方の扉が無くなっている。そして、そこからお屋敷の中をのぞくといきなりそれはあった。


「……姿見?」


玄関の上がり間の所に、大きい姿見が外に向かって立ててある。

つまり、外から中を覗く僕たちを映すような向きで立ててあった。


「うわ!びっくりした……もう!普通は出かける時に身だしなみを見るためのものでしょ?普通は壁にかけてあるんじゃないの?この置き方じゃ邪魔でしょ……。脅かすために誰かイタズラしたのかな?」


今は明るいからそこまでびっくりしなかったけど、暗闇にそっと中を覗いていたら、鏡に映った自分に驚いて腰を抜かしていたかもしれない。


「うん?いや……待てよ?」


一瞬びっくりした僕を笑っていた冬弥が、立ち位置を変えながら姿見を見て何か考えている。


「どうしたの?」


僕が聞くと、少しだけ考えて首を振った。


「いや、まだわからないか……。中に入ろうぜ?」


そう言うと、冬弥は玄関の少し高い敷居を跨いで中に入った。


「なんだよ、教えてくれてもいいのに……」


そう言いながら僕も中に入ろうとして、ぞわりとした。玄関に対してまっすぐ向いて、正面に立ててある姿見を見ると、長い廊下の奥が見える。

お屋敷の中は薄暗いのではっきり先が見えるわけではないが、なんとなくその姿見を見ているとゾクゾクしてくる。


中に入ると、土間が広がっている。右手には外に面して、なんて言うんだっけ?昔の火を使った煮炊きする設備が並んでいる。


「こっちはお勝手のようですね?ここは炊事場のようですし。かまどや井戸までありますね」


穂積さんが僕の疑問に答えてくれた。そうだ、かまどだ。

レンガ造りのかまどは二つあり、片方は崩れてしまっている。


「こっちはつるべだけ?こんなので水を汲んでいたなんて、大変そうだよな?」


滑車を使ってロープを結んだ桶を引き上げる仕組みのそれは、滑車の部分が落ちてしまっている。その隙間から冬弥は井戸の底を覗き込んでいる。


その姿を見るだけで、背中がゾクっとする。落ちたらどうするんだよ。と思うし、なにより井戸から這い上がってくる女性の悪霊の有名なシーンを連想するので、僕は井戸から離れたところからその様子を見ていた。


特に気になるものはなかったのか、冬弥は井戸を覗くのをやめて、さらに奥へと進み出す。


ぽちゃん


僕がその井戸の横を通るときに、井戸の底から何かが落ちたような音がした。

思わず、井戸の底で何かが動いたのを想像してしまい、嫌な感じがする井戸に近づかないようにしながら僕も奥へと進んだ。

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